第14話 予行演習
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10)【高度支援戦術地図】Lv.1/5(Exp.1/5)
2:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】
3:西宮園子:マネージャー(Lv12)【瞬間移動】
4:川下葵:エース(Lv3)【範囲攻撃魔法】
「じゃあ、最後にダンジョンボスなんだけど。誰か討伐やってみたい人いる?」
「センさんは誰がいいと思うの?」
マネージャーが聞いてきた。
「そうだな、普通ならクローザーだよね。この中で一番レベルが高いから確実性を取って。でも今回はエースかな。相手の力量を考えればエースに経験を積ませることを優先しても問題ないと思うから」
「うん、ウチもやってみたい」
ドアを開けるところからエースにやらせた。人のことは言えないが、ダンジョン経験がほとんどないエースに少しでもいろいろやらせたいからだ。俺と香流は撮影係だ。それを見た園子も撮影を始めたが、やたらローアングルで構えたりめっちゃ撮影に慣れてそうだった。
「ほな、いくでー! うりゃー!」
実に楽しそうに討伐完了。
「おお? きたきたー!」
レベルアップだ。黙っていたが、ボスを討伐させたかったのはこれもあったからだ。ボス討伐でレベルアップが来るのがわかってたからね。レベル三から四へのアップなので身体への負担もなし。どうせレベルアップするなら自分で倒した時にした方が盛り上がるよね。
「今回の魔石に関しては記念すべき『Renegades』での初討伐ということで各自が持ち帰るってことでどうだろう」
誰からも反対はなかった。
「よし、時間もいい感じだな。最後にひとつ試したいことがある。このボス部屋をエースの【範囲攻撃魔法】で火の海にして、その瞬間にクローザーの【絶対領域】で防御できるか確認したいんだ。で、そのままマネージャーの【瞬間移動】で入口に飛んで戻る」
全員の声がハモった。
「えっ?!」
「エースの範囲攻撃がどれぐらいの強さかってのも知りたいんだけどね。エース、クローザーのバリアを範囲攻撃が貫通してきた場合って中にいる人はヤバいのか?」
全員の視線がエースに注がれる。
「いや、それはないわ。危ない思たらウチが魔法止めたらええだけやからな」
思ったより融通利くじゃないか!
「エースの攻撃魔法ってDOTダメージなんだよね?」
「せや、継続ダメージが入り続けるやつや。燃えとるからな。できないからやったことないけど、クローザーのバリアん中におれるんやったらその間ずっと燃やし続けられるってことになんのかな?」
「よし、じゃあやってみよう。今回は安全優先で遠話なし、本名で声を出していこう。えーと、その奥の壁の向こうが隠し部屋だから、俺があっちの端にいるだろ。で、反対が寅吉さんがいるとする。俺たちが扉を開いたと仮定して、俺の合図で葵の【範囲攻撃魔法】点火、俺が範囲に入ったと思った時に香流が【絶対領域】起動。香流の魔力に余力がある段階で早めに園子のテレポートで脱出する。タイミングは香流が合図を出してくれ。脱出先はホールだ。今は無人なのがわかっているからね。当日もそんな感じであらかじめ脱出ポイントを事前に決める。質問は?」
みんなが自分の役割を把握した。
「こういう場合の作戦は自分のところだけじゃなく、他の人の部分も委細なく完璧に把握するようにしよう。そうすれば不測の事態が起きても対処できるからね」
さあ、今日の訓練の総仕上げだ。
「よし、いくぞ。園子、絶対領域の中に炎が侵入したと思ったらすぐにテレポートで脱出よろしく」
槍を持って所定の位置に着く。三人は隠し部屋から一番遠くなるボス部屋の入口あたりに待機。香流の左横に園子。葵は香流の前に立つ。絶対領域は半径三メートルの球形だ。あまり離れると手足が球からはみ出る。その時、人体がどうなるかわからないので俺は合図と共に香流にくっ付くほど近付くようにダッシュするだけだ。
「いくぞー! さーん、にー、いーち、ゴー!」
隠し部屋の扉が開き出したイメージで走り出す。およそ二十メートル四方の狭い部屋をダッシュで半分ほど過ぎた。
「葵!」
俺が叫んだ瞬間に隠れボスのいる部屋の壁の下に赤い炎が立ち上る! 一見派手な魔法だが、秘めることを知らない情熱の塊の葵にぴったりな紅蓮の炎の攻撃魔法だ。
俺が香流の足元に飛び込んだ瞬間、絶対領域が発動! 炎が眼前に迫るその時、シャボン玉のような透明なドームに囲まれる。目を奪う美しい虹模様が見える。美しい香流に相応しいスキルだ。
見る間に赤く燃える炎が押し寄せて来る! 焼け死ぬのではという恐ろしさに背筋がぞわぞわする。香流と園子の間に立つ。二人の肩に触れる。炎を出している葵が後ずさる。葵が俺に背中からぶつかってくるのを受け止める。葵は炎から視線を離さない。
「そのままだぞ! 香流は魔力の残りに注意! 園子はテレポート位置のチェック!」
炎がバリアに触れてそのまま這い上がる! あっという間に炎の中に閉じ込められる。熱は届かないのに暑く感じる。恐ろしくも幻想的な世界だ。炎の中にいても問題ないことがわかり、みんなの中に余裕が生まれるのがわかる。
「この炎は葵が作ってる。いつでも消せる。大丈夫だ。香流、魔力の残りは」
「そろそろよ」
「葵、テレポート後に人数を数えてくれ、今日は四人だ」
「まかしとき!」
「園子!」
香流が叫んだ瞬間、ホールにいた。
「へ?」
誰からともなくマヌケな声が漏れた。あまりにもあっけない幕切れだ。
「四人おるで!」
目の前で必死の形相でちゃんと人数を数えた女子高生がいた。
「わははははは」
葵がきょとんとしている。かわいい最年少の頭を撫でると段々と笑顔になる。
「成功やなー!」
「よし、みんなよくやった。成功だ。香流、魔力欠乏にはなってないか」
「はい、余裕あるので大丈夫です」
「葵も大丈夫なのか」
「これな、一日一回やからな。大丈夫やで」
いや、違うぞ?
「みんな、ここのダンジョンボスって討伐するの初めてなのか?」
「なんでわかるんですか?」
香流が不思議そうな顔をしている。
「スキルは一日一回って言ってたよな?」
「そうよ、だから『能無し』なんですもの」
園子が当たり前でしょという顔をしている。
「でもさ、俺のマップには全員1/2って表示されてるんだよ。あれ? いつからだ?」
「あ、ほんとですね。もう一回使えるみたいです。絶対領域使ってみましょうか?」
「頼む」
「いきます。はい」
出た! 美しい虹色のドームだ。
「うわぁ、これキレイやなぁ。さっすが香流姉さんの魔法だけあるわ」
葵が初めて見るみたいな感想を言った。この娘はさっきは自分の炎に集中していたせいで絶対領域の美しさにまるで気付いていなかったのだ。思いきり抱き締めたくなったが絶対にキモがられるし犯罪なのでやめた。バリアが消えると園子と香流が葵を抱きしめた。てえてえ。葵だけがなぜそんなことをされるかわからず焦っていた。
「なになに? 姉さんたち急にどないしたん?」
「葵、あんたやっぱり可愛いわ。その制服を着ることを許すわ」
園子の許可が出た。しかし葵はもう女子高生ではないんだけどね。
「ちょ、意味わからへんねんけど?!」
本来、当該地域の午前零時を過ぎなければリセットされない一日一回の『能無しスキル』の制限が外れた。恐らくそれは【高度戦術支援地図】でメンバー登録されてボス討伐をした恩恵だ。俺の【高度戦術支援地図】のレベルは1/5のままだが、その後の数値が2/5になっていた。新しくボスを討伐すると経験値になるのは決定のようだ。
「葵、炎はもう消えてるんだよな?」
「消えてるはずやで。あの部屋狭かったからな。炎はな、放っといたら狭いとこやとウチがおらんようなったらその場所全部が火ぃんなった後に勝手に消えんねん」
「あの中、熱いんだろうな」
「そうですね、扉を開けるとたぶんリセットされてしまいますよね。今の状態で自然に冷えるまでどれぐらい掛かるんでしょうね」
その言葉でピンときた。マップを意識してボス部屋の温度表示を念じる。
『摂氏18度』
「えっ」「は?」
どういうことだ? これっぽっちも熱くない。しばらく待ったが変化がない。
「あんなに部屋の中が火だるまだったのに? 葵、今までに使った時ってどうだったんだ?」
「えーと、敵が燃えて死んだあとにすぐ消しててんけどな。そう言うたら暑かったことなかったな」
「ってことは攻撃力はあって、熱も持ってるはずなのに、空間? 空気には影響が出ない?」
「いや、めっちゃ熱いで? 近寄るんもできへんよ」
「炎が消えたら余熱も消えるってことか? めちゃくちゃ使い勝手いいじゃないかこれ」
すごいと言われた葵が「そんなはずはない」と言って自信なさげだ。使い方しだいじゃないのか? ああ、そうか。ボス戦以外だと使い途がないのか。
「まあ、葵、ちょっと考えさせてくれ。【こうしえん】と合わせた使い方を考えてみるから」
葵が何かに縋るような目をして俺を見ていた。
「今な、葵をパーティーから外したんだが【範囲攻撃魔法】の残り回数はどうなってる?」
「あれ? なくなってんで」
「よし、今パーティーに入れた。1/2だな。【こうしえん】に紐付いた裏パラメーターみたいになってるな」
「うわ、ほんまや。あと一回使えるわ。これは兄やんと繋がってへんとウチら使いもんならんな」
園子と香流がもじもじしているがなんだ? 顔が赤い気がするけど薄暗いからよくわからん。トイレか? 早く終わってやらないとな。
最後に園子のテレポートをホールで試してまたみんなで大笑いして今日は終わりにすることにした。瞬きする間もなく移動するテレポートの感覚は現実感が皆無で、笑うしかないほどすごい体験だった。これもあまりにみんなにウケるから園子が戸惑い気味だ。みんな過去に自分のスキル絡みで良くない思い出がありそうだ。
階段を上がってダンジョンから出る。おにぎりを食べたテーブルでステータス上昇のクールダウンをしながら、皆が口々にテレポートをすごいすごいと言うから園子が真っ赤になっていた。
「あのですね、【瞬間移動】は【こうしえん】に繋がっていないと自分の見ている場所にしか飛べないんです。それも一日一回です。立派な『能無し』ですから。でもね、香流のだってキレイでしたよ。やっぱりキレイなひとが使うスキルはあんなにキレイなんですね。ちょっと見惚れてしまいましたよ」
彼女も葵と同様にまったく見惚れることなく自分の仕事に集中していたことはみんなが知っている。
「ほんまやなー! あれ、キレイやったなぁ、あれやったらずっと見てられるわぁ」
葵が香流をキラキラした目で見ながら褒め湛えた。
「いえいえ、【絶対領域】は攻撃を防ぐけれどこちらも攻撃がいっさい出来なくなりますから。展開中は移動もできませんし、使いどころが無いんです」
謙遜しまくりの香流。そんな様子を園子がスマホで撮影していた。ダンジョン探索中は可能な限り誰かが動画を撮影していた。後日、自分達や寅吉さんにチェックしてもらうためだ。
園子は昼休み終了ギリギリまで粘ってダッシュで店に戻っていった。めちゃめちゃ後ろ髪を引かれていたなぁ。
まだ昼の一時だ。昼ごはんも食べたしこのあとは何して過ごそうか? 他のダンジョンのマップも【こうしえん】で確かめてみたいのだが、あまりにも装備がショボくて、ロビーに入るだけにしても怪しいから止めた方がいいということになった。寅吉さんに相談した方がいいな。このあたりは代々木公園のダンジョンも近く、冒険者装備で歩いている人も多い。この歳で防具なしでダンジョン巡りは悪目立ちしそうだなぁ。
「それやったらな、ウチちょっと買い物したいわ。兄やんの服見たらな、そういうん欲しなってん」
それな。今日はこのダンジョンだってわかってたんで許したけど、はっきり言ってセーラー服でダンジョン探索とか舐めてるもんな。
「そうだな。どうしようかなぁ。ホンモノにするか冒険者用にするか」
「なにが違うのん?」
「海外の軍隊のお下がりとか放出品にするか、冒険者用にするかだな」
「どっちがええの?」
「どっちでもいいんだよ。趣味みたいなもんだから。デザインと値段で決めればいいんじゃないかな。長袖、長ズボンで露出を控えるのが基本だね。葵の普段着の真逆。本来、その上の防具の方が大事だからな」
「ほーん。あんまり可愛くなさそうやな。見てみんとわからんね」
「じゃあ実際に見に行ってみましょう。私も久しぶりにいろいろ見たいです」
香流の一声でウィンドウショッピングに決定。というわけで目の前のお店に行くことにした。
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(Exp.2/5)
2:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】0/2/Day
3:西宮園子:マネージャー(Lv12)【瞬間移動】0/2/Day
4:川下葵:エース(Lv3→4)【範囲攻撃魔法】1/2/Day




