第13話 こうしえん
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(1/5)
2:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】
3:西宮園子:(Lv12)【瞬間移動】
4:川下葵:エース(Lv3)【範囲攻撃魔法】
いよいよ初訓練! まずは俺が槍を持って階段を降りる。鑑定に使う広い『ホール』と呼ばれる場所に立つ。ここからはもうダンジョンだ。
「【高度戦術支援地図】起動。よし、前回と同じだ。全フロアが見える。冒険者は俺たち以外は誰もいない。スライム四匹とボスのスモールスライム、隠し部屋のキラービー、宝箱と聖銀も無事だ」
さて、まずは自分の能力を把握することが先決だ。
「じゃあ、まずはパーティー登録をする。その前に、みんなの詳細情報だな」
ホールには青の光点が一個と黄色の光点が三個。黄色の光点に意識を合わせると。みんなの名前と身長と
「わー!」
「なんやなんや! 兄やん、どうした! 敵か!」
「あー! ごめんごめん! なんでもない! ちょっとな、見えちゃっただけだ」
「え? ちょっと千里さん? なにが見えたか言ってくださいな」
やべ! 香流の目が鋭い!
「いや、大したことではまぁ、ないよ?」
雰囲気から察した他のふたりからの追求も始まった。女の子ってこういうことに目ざといよな! これはもう、逃げられない。
「えーと、ですね。【こうしえん】の中ではプレイヤーの情報が出ると言いましたよね? 俺の情報を見た場合、名前とレベルと、あとはデフォルトだと身長と体重が表示されていました。今はもう見えないようにフィルター掛けたのでご安心ください。さ、では検証の続きをやっていきます」
「おおおい! こらぁ! 今なんかしれっと言うたなぁ!」
「これは正直すまんとしか言いようがない! 許してくれ! でもね、なーんにも一個も覚えてないから! これマジ! それにほら、スリーサイズ見たわけじゃないから! 女の子の体重とか俺には重いも軽いもわからないから! 三人ともめっちゃプロポーション良いし、体重なんか気にする必要ないでしょ? きみらがそんなこと言ったら外を歩いている全女性が怒るぞ?」
「ちっ、ほんましゃーないなぁ今回だけやで? うちかて身長だけは百五十無いっちゅうの気にしてんねんからな」
「いや、お前百五十二センチあるじゃん、あっ」
「しっかり覚えとるやんけー!」
「記憶力がいい自分が憎い!」
「そんなんどうでもええねん!」
さんざん絞られたけど葵はなにも怒ってなくて騒いでるだけで、他のふたりは責めてくるけど赤くなってるだけだった。この数字は墓場まで持っていくしどうせすぐ忘れるよ。「興味が無い」と言わないだけの分別ぐらいは俺にもあった。
「よし、じゃあパーティー登録だな。今ここにいるメンバーで埋めよう。レベル順で上から埋めていくか。うちの長女は香流だな」
香流、園子、葵の順番で登録する。
【パーティー名:Renegades:反逆者】
L:星名千里:SEN(Lv10 - 10,620/12,410)
2:岩沙香流:クローザー(Lv17 - 20,380/47,200)
3:西宮園子:(Lv12 - 16,880/23,450)
4:川下葵:エース(Lv3 - 790/870)
地図上の黄色の光点が青になって、上に名前が表示される。
「え? 機能解放? リーダーからパーティーメンバーへの双方向通話とテキストメッセージ交換、地図情報の共有が可能だって?」
園子がいち早く反応する。
「地図情報の共有ですか? まだなにも感じないですね」
意識の中で地図情報の共有をオンにする。全員が驚きの声を上げる。
「うわ!」「すごい」「見えます」
個人パラメーターとかは見えず、地図だけが見えているらしい。試しに何もない場所をマーキングする。黒の星マークを点滅させる。
「星マークを点滅させているけどわかる?」
全員見えているそうだ。
「えーと、あとは音声通話だ。メンバー同士は出来ないけど俺とメンバー間の通話とテキストメッセージのやりとりは出来るな。俺から全員に合図を送ることができるね。葵、ちょっとあの辺りまで離れてくれるか」
「おっけー」
十五メートルほど離れる。通話を意識する。
《葵、聞こえるか。地図の上の俺を意識して話掛けてみてくれ》
《ー、あー、あー、にいちゃーん、聞こえますかー》
《おーけー、おーけー、聞こえたぞ》
《わはははは。なんやこれ、口が動いてへんのに聞こえとる》
《よし、こっちに戻っていいぞ》
「わはははは。なんやこれ! さすが【こうしえん】や! おもろいわぁ!」
園子が不思議そうな顔をしている。
「え? なに? 会話できたの?」
「できたで! なんや変な感じやな」
「これ、使い方が難しいというか、慣れた方がいいな。電話と同じで自分の声が相手に届いているかどうかがわからないんだ。声に出してないからな。思ったまんま相手に伝わるから余計なことも相手に届く可能性があるなぁ。えーと、俺がへんなこと思って通じたらスマン」
「ん? なんや兄やん、今からエロいこと思った時の前振りか? そんなんいくらでも受けたるから遠慮せんと口説いたってや」
制服コスプレ娘に言われてもなぁ。
「まぁ、そういう子供っぽい恰好してる間は事故はなさそうだから安心だな。いっそのこと葵はそのままパーティー行動時の制服にするか」
「なにおぅ。制服見て興奮せんとはさすが兄やんやな。香流ちゃんと園子ちゃんにこれ貸したるから今度着てみてや。そん時に兄やんが同じこと言えるか楽しみやで」
「ちょ、おまえ、具体的に実物着て本人前にそんなこと言うな。想像してしまうだろうが」
「ふっ、それはわたしへの挑戦ね? 制服? 上等よ。十代の小娘なんかにはまだまだ負けないわよ」
普段からなにかと制服を着た若者に思うことがありそうな園子の目が燃えていた。制服に対して恨みかコンプレックスでもあるのだろうか。俺には彼女のコントロールだけは出来ない気がしてしょうがない。香流を見ると葵を見てなにやら思案顔だ。なにを考えているんだ?
「制服か。悪くないよな。いつか『Renegades』が大きくなったらパーティーとかクランで揃いの戦闘服で制服作ったりしてな。おもしろそうだよな」
「あ、そういうのやってるところあるわよ。軍隊とか特殊部隊みたいなものじゃない? パッチとかエンブレムとか作ったりね。有名クランやパーティーはステッカー売ったりしてるわね。ウチでも人気の商品よ」
さすがアイテムショップ店員の園子。詳しい。それから少しの間この遠話(命名:香流)の練習をした。マップ上のアイコンに向けて話す意識が必要なので思ったより事故は起きそうになかったが、万が一事故が起きた時は水に流すことでお互いに条約が結ばれた。ありがたい。
次にテキスト交換もテスト。マップ上でテキストを打ち込む意識をするとメモ帳のようなものが出てきた。タイピング不要で思った通りの文章が一瞬で書き込まれるのが楽しい。テキストが完成した時点で送る相手をイメージして【送信】で発信できた。あらかじめテキストを作って必要なタイミングで送信すれば周りに知られることなく合図になるが、そもそも遠話で話しても外には一切音が出ていないことに気付いた時にはみんなで笑った。テキスト意味ねー。
「さて、園子の残り時間が心配だ。サクっとスライム倒して【瞬間移動】のテストをしようか」
一番近い赤い点に向かって歩いて行く。一応、全員で道中にモンスターや異変がないかを警戒しながら歩く。
「じゃあ、最初の一匹目は俺が倒すぞ」
昨日やったばかりだから簡単に討伐できた。
「二匹目は香流からいこうか」
槍を香流に渡す。練習のために遠話を使う。まずは全員に向かって話す練習だ。
《じゃあ香流が先頭でマップの敵の位置を意識して進行開始。モンスターを目視したら遠話で俺に報告してくれ》
《香流、了解》
数秒後に俺の目からもスライムが見えた。
《香流、スライム発見、攻撃可能》
《通信内容も完璧だ。香流に自由攻撃許可》
《香流了解》
「えいっ」
可愛い声でスライムを刺して討伐完了。
《香流、討伐完了、これより魔石回収》
魔石を拾い上げてうれしそうだ。
「うん、香流は完璧だな。一回目でこれはすごいね。どこかでこの会話自体を練習したいよなぁ。葵はウチにいる時に俺との会話で練習すればいいな」
葵以外のふたりの顔がぴくりと反応した気がする。やはり練習環境の不備が気になるか。でもまぁ、ダンジョンに潜っている時に練習すればそのうち慣れるだろう。
《では香流は槍を園子に渡して。よし、じゃあ次は園子だ。相手はスライムだけど油断しないように。無理だと思うことがあればみんな遠慮なく言ってくれ。ではマップを意識して進行開始》
園子が振り返った。
「千里、遠話ではもちろん本名で問題ないんだけど、ダンジョンでは本名は使わない方がいいわ。他の冒険者がいた時に個人情報に繋がるものはできるだけ排除するべきよ」
「なるほど。貴重品を扱う冒険者は同業同士でも警戒が必要か。ダンジョン内では犯罪が隠蔽されがちってやつだな」
これは大きな社会問題だ。日本はまだマシな方だが、諸外国では他の冒険者と接触することは自殺行為とまで言われている。実際、ダンジョンダイブでの死亡率が一番低いのが日本だと言われている。それはPK、すなわちプレイヤーキラーの人口の多さに関係している。とはいえ、ダンジョン内では携帯が通じないこともあって警察でさえ機能しない。女性や低レベル冒険者を狙った卑劣な犯罪行為は地上の比では無いのだ。
「となると園子のタックネームが必要だな。園子、なにか希望はあるか?」
「え、そうね。じゃあマネージャーにするわ」
「マネージャーか。なんか納得だな。今日もおにぎりをあんなにたくさん作ってくれたしな。頼りになるところもぴったりだな」
「そ、そんなことないですけどね」
『あかん。また始まってもうた。香流ちゃん、見てみ。園子ちゃん、耳まっ赤っ赤やで』
『無自覚無双、怖いですね』
『兄やん、なんでこんな捻くれてもうたんや? ぜったい前になんかあったやんな』
「よし、タックネームも揃ったし続き行こう。マネージャー、行こうか」
『……名前呼びが良かったですよね』
『まぁ、しゃあないて、こればっかりは』
「よし、次はマネージャーが倒す時にクローザーを一時的にパーティーから外して経験値がどうなるか調べよう」
ここには四人いるのでスライムの経験値百二十が四頭分されてひとり三十ポイント入るはずだ。しかし、クローザーを外して三人パーティーにしたところでマネージャーが討伐すると、三人にそれぞれ四十ポイントずつ入って、再びパーティーに入れたクローザーを見るとポイントが入手できていなかった。
「千里、これ、ちょっとすごいかも」
園子が興奮してタックネーム呼びも忘れていた。
「パーティーにラストアタックの権利者がいれば経験値をパーティー内で独占できるんだな。じゃあ次はエースをパーティーから外して討伐してもらおうか。それでパーティーに経験値が入るかどうかを見たい」
エースの遠話ルールはめちゃくちゃだったが、スライム討伐自体は問題なく終わった。
「経験値、俺たちにも入ってるな。エースにも三十は入ってるからエースから見た場合、なんら問題はないな」
パーティー外のエースが討伐した時は通常ルールの近場のプレイヤーに分配されるというのが適用されていた。マネージャーがちょっと不安そうな顔だ。
「でもこれ、レイド戦に参加した時にレネゲイズが討伐しちゃったら近くにいた他のパーティーの人に経験値が入らなくて揉めそうね」
「まぁ、その瞬間だけパーティーを抜けさせるとかの処置が必要かもしれないな」
そうしてスライムの討伐自体は問題なく終わった。最後にボスを討伐したら終了になる。




