第12話 先行投資
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(1/5)
2:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】
3:西宮園子:マネージャー(Lv12)【瞬間移動】
4:川下葵:エース(Lv3)【範囲攻撃魔法】
約束の十五分前に渋谷第一ダンジョンの入口前に到着。葵を呼ぶ。
「葵、ちょっと」
「ん? なんや兄やん」
「これを預けるから好きに使え。足りなくなったら言え」
途中のコンビニで下した五万円を葵に渡す。
「え、え、なにこれ。こんなんもらわれへんよ」
素直か。おもしろいな。これっぽっちも喜ばないぞ。
「葵、これは小遣いじゃない。必要経費だ。ミッションが成功したらお前の報酬から返してもらうだけだから遠慮するな」
葵は真剣な顔で話を聞いていて、それを香流が微笑みながら見ている。
「でもな、もし、失敗してもうたら返されへんやんか」
「そんなこと気にするな。俺が必要だと思ったからお前をパーティーに入れたんだ。仮にミッションが失敗に終わってもそれはリーダーの俺の責任だ。だから事前投資の回収なんかしない。そんな金を返せとか言わん。だからお前は大人として、社会人としてそれを堂々と受け取って自分のために使え」
「うん。わかった。ほな、もらっとく」
香流がメモを取っていた。
「今回はいいですけど、千里さん、お金のことは私を通してからやりとりしてくださいね」
なんと。経理を引き受けるって話を覚えていたのか。
「そうでしたね。これからはそうします。よろしくお願いします」
入口の前で待っていると、西宮さんが周りを気にしながら小走りで来るのが見えた。俺たちと一緒のところはあまり見られない方がいいだろうから、すぐに入口に向かう。全員が冒険者カードをスキャンして四人分の入場料と鉄の槍一本のレンタル代、合計五千円を払って領収書を香流に渡す。
「あれ? 昨日の兄さん、今日も来たのかい。今回はずいぶん大勢だね。しかもこんな美人さんばっかり連れて。ダンジョンで遊んじゃダメだからね」
昨日と同じ管理人だった。
「こんにちは。俺たち『能無し』仲間なんですよ。ちょっとダンジョン探索の真似事がしたくて、最近になって趣味で集まるようになったんです。今度わからないことあったら質問とかさせてもらってもいいですか」
「あー、それええな! おっちゃんベテランさんやろ? いろいろ教えてーな!」
「お? そうか? はっはっは、なんでも聞きな。これでも元レベル四十五の冒険者だからな」
「おー! めっちゃすごいやん! 頼りにすんでー!」
最後には「ダンジョン楽しんできな」と笑顔で見送られて、みんなで手を振ってゲートを潜った。
「葵、お前すごいな。あのおっちゃん、完全に落ちてたぞ」
「ふっ。あんなん簡単なもんや。任せとき」
俺はあのおっさんを笑えない立場だとじゅうぶん理解しているから大丈夫だ。なにが大丈夫かわからないが大丈夫だ。しかし、それにしても西宮さんの顔色が優れない気がする。
「制服、セーラー服を着て来るなんて、なんて大胆な攻撃を。ス、スカートが私の時より短いわ。それは卑怯だわ。それになんなのあの胸は! そんなの許されないわよ」
なにか小声でブツブツ言ってる。初のパーティー練習に気負い過ぎているのか?
「西宮さん、みんな、一回落ち着こう。とりあえずホールに降りる前にお昼休憩にしよう。俺、自販機で飲み物買ってくるよ。リクエスト言ってくれる?」
西宮さんと葵のリクエストを聞いて香流とふたりで買い出し。と言ってもベンチから自販機は見えている。西宮さんと葵がイスを持ってきたりお弁当を広げたりして仲良く作業しているのが見える。メンバー間のコミュニケーションをチェックするのもリーダーとして大事な仕事だ。
「あのふたりは仲良くやれそうで安心ですね。香流ちゃんもなにか気になることがあったら遠慮無く言って下さいね。人間関係が壊れるかもという心配は一切しないで下さい。誰かが我慢することで成立するような関係では命を預け合うことは出来ません。なのでこれは本当に遠慮せずに自分の意見や気持ちをぶつけて欲しいです」
「はい。わかりました。ではさっそくひとつ言わせてください」
うっ! まさか初手から不満があったとは!
「はい、なんでも遠慮なくどうぞ」
「せっかく私のことを香流ちゃんと呼んでくれるのにそれ以外が全部敬語なのは寂しいです。葵ちゃんの時と同じように話してください」
あれ? そうだっけ? そんなふうに話してるか?
「あれ? そうでしたっけ? あ、ホントだ。敬語になってる。これ、たぶん俺の自然な話し方でもあるんだよね。配信の時もそうだったでしょ? でもこれって遠慮なんだな。うん、わかった。香流ちゃんがその方がいいって言ってくれるならそうするよ。馴れ馴れしすぎるとか思ったらそういうのもちゃんと言ってくれ。おじさんは女の子との話し方なんか知らないからさ」
「ふふふ。千里さんはおじさんじゃないと思いますよ?」
「お世辞でもそう言ってくれてうれしいよ。ちなみに香流ちゃんもずっと俺に敬語なんだよね。香流ちゃんはそれが自然なのかもしれないけれど、もっと砕けても大丈夫だよ」
「そう言われればそうね。じゃあ、わたしも千里のこと弟ぐらいに思って話すね」
年下美人からの敬語抜き話し言葉の破壊力エグいな。これに慣れるのもリーダーの務めか。仕事がこんな楽しくていいのだろうか?
「お、いいね! その方が仲間って感じがするな!」
「うふふふ。でもちょっとやり過ぎですね。私はこれが普通なので」
仲間内で敬語の廃止はサッカーチームとかではよくある光景だ。瞬時の判断が可否を分ける場では、可能な限り対等で平易な言葉を使って意思疎通する方が良いこともある。これが野球などのように間のあるチームプレーでは少し事情が変わってくる。とはいえこれは日本語話者のコミュニケーションならではの話ではあるが。
飲み物を持って戻ると大量のおにぎりが並べられていた。
「西宮さん、すごいね。朝からこんなに握ってくれたのかい? 大変だったね。ありがとう。うわ、カラアゲもウインナーもあるじゃないか! 美味そう!」
「あ、いえ、そんな、簡単な料理ばかりでお恥ずかしいです」
「園子ちゃんめっちゃ美味しいで! 料理の天才なんちゃうん!」
「あ、お前、もう食べてんのか。はい、みんな手を合わせて! いただきます!」
口に食べ物が入っている葵も一緒に「いただきます」と言ったので許す!
「おにぎり美味い! からあげもサクサクでちゃんと下味が美味い! 凄い!」
「いや、あの、星名さん、褒め過ぎですから、恥ずかしいです」
「あー、園子ちゃん、それはもうあきらめなあかんで。兄やんはこういう感じやねん。もうずっとや。昨日からずっとこんなんや。これはもう天然モンやねん。黙って受け取っときぃ」
「香流ちゃん、西宮さんってすごいよね。あ、お米付いてるよ」
「あら、お恥ずかしい。でも本当におしいですね。これは私も負けてられないわ」
「ちょいちょい園子ちゃん。飲みもん買いに行くだけであない仲良うなれるもんかいな。あの一瞬でなにがあったんや」
「むむむ」
「西宮さん、食べてます? 今日は寅吉さんに会いましたか? 変わった様子とかありませんでしたか」
「あ、はい。いつも通りでした。特に変わった様子はありません」
「そうですか。昨日は遅かったからまだ奥さんと話しが出来ていないのかもしれませんね。わたしの方から寅吉さんに問い合わせるつもりはないので、西宮さんもゆっくり見守って上げてください」
「そうですね。そうします」
やっぱり西宮さんは少し元気が無いみたいだ。お弁当作るのに早起きして寝不足なのかな。
「西宮さん、元気ないですね。ひょっとしてお弁当作りが負担で疲れているとかじゃないですか。こんなに美味しいごはんをいただいてなにもお返しが出来なくて申し訳ないですけど、どうか負担なるようなことはしないでくださいね。そうだ、香流ちゃん、このお弁当の代金も必要経費に入れておいてね」
「はい。もうメモしてありますよ」
西宮さんの表情は何か納得していないような? 愛想笑いのような感じになっている。
「ちょいちょいちょーい! 待った! なーなー、ふたりに何があったん?」
葵が変なことを言い出した。
「ん? なにがだ?」
「いや、なにがて、話し方がぜんぜん変わってるやん」
香流が赤くなってる。おま、ばっか、そういう言い方するんじゃないよ。今この新しいコミュニケーション方式に慣れようとこっちも必死なんだから。
「いや、それ言ってくれるなよ。これはな、さっき話し合って決めたんだよ。命を預け合う場面では敬語で遠慮してちゃダメだろって。香流ちゃんが葵と俺の会話を聞いて感じたことをパーティーにフィードバックしてくれたんだよ。だから今はその新方式のコミュニケーションを模索しているところだっていうだけだよ」
「そ、そうでっか。そら失礼しましたわ。ほな、続けて続けて」
「千里! さん」
「はいっ!」
びっくりしたぁ。どうしたんだ西宮さん。怒られたのかと思った。
「あの、だったらわたしも協力しますから! 園子って呼んでくださいぃ」
めちゃくちゃ恥ずかしがってる。こんなに恥ずかしいのにパーティーを思って協力してくれるのか。ありがたい! つくづく今回はメンバーに恵まれているな。
「ありがとう園子! いきなり敬語やめるのって難しいんだけどさ、さっき香流ちゃんに年下の兄弟だと思って話せば意外と簡単だって聞いてしっくり来たんだよね。だからさ、こんなおっさん相手に難しいとは思うけど命令するぐらいの気持ちで話してよ」
「う、うん。そうするね、千里」
なんともくすぐったいがこれもパーティーのために我慢アンド笑顔で乗り切れ!
「こんなおっさん相手にすまんな。どんな些細なことでも気になることはどんどん言ってくれよ。パーティー内で遠慮なんかしてると大怪我や生死に関わる場合があるからな。遠慮はなしで! しっかし、ごはんが美味いね。こんな若い娘さんに弁当を作ってもらうなんて、ユニークスキルを手に入れるより難しい偉業と言ってもいいよね」
『葵、千里のこれ、本気の本気なのよね?』
『これはな、信じられへんけど本気やねん』
『でも、千里ってまだ二十八よね? 見た目もぜんぜんおっさんって感じじゃないでしょ?』
『園子ちゃん、マジやで。昨日の夜な、香流ちゃんとふたりで挟んで添い寝してんけどな』
「なんですって!」
葵とこそこそ内緒話ししてると思ったら園子が急にデカイ声を上げた。
「うわ! なんだなんだ、喧嘩か?! お前らどうした!」
「あ! 違うの! ちょっとびっくりした話を聞いただけだから!」
「ホンマやで! なんでもないねん、こっちの話や!」
なんて紛らわしい。香流と今後のスケジュールと金銭管理の話をしている。本当ならある程度、香流にお金を預けたいところだが、軍資金が足りない! 魔石売るかなぁ。次回のパーティー会議で寅吉さんと西宮さんに相談かな。
『それで、あなたたち添い寝したですって?!』
『ひぃ、そ、そやけどな? 兄やんまったく手ぇ出さへんねん。チューもなしやで? こっちは一世一代の覚悟決めてるっちゅうのに』
『とっても聞き捨てならないわね。香流の言う通りだわ。あなたちょっと危険ね。アドバイス通り対策してきて正解だったわ』
「そろそろダイブしようか。あまったおにぎりは俺がもらってもいいかな? うちには食べ盛りのわんぱく小僧がいるからいただけるとありがたいんだよね」
「むかっ! それはウチのことやな! ふっふーん、まぁなぁ。栄養貯めとかんとココが萎んでまうからな」
たしかに本人が自慢してもいい大変立派なものではあるがな?
「お前な、それは俺に自慢してもダメじゃないのか?」
ふたりの目線が氷点下。
「あっ。いや、これはな、ちゃうんねん! そういう意味じゃないねん!」
パーティーの雰囲気を悪くする発言には厳にご注意ください。
「よし、いい感じに仲良くなれたところで『ホール』まで降りよう」




