第118話 段ボールに現金はいくら入りますか?
禁断の情報に接してしまった感はあるが、俺が不快に感じるものは何もない。人にはそれぞれ過去があり、事情がある。俺だって誇れない過去だらけだし、口にすることが出来ないほど辛い話もある。
知って欲しいと思うことでも無い限り、過去の事なんて自分から話すことなんてないだろう。それを黙っている事で罪悪感を抱えるようなことがあれば話は別だが、そうじゃないなら話す必要なんてない。だから園子の昔のことも気にならないし、聞きたいとも思わない。彼女が話したいと思わないかぎり俺がどうこう言うことはない。
というか中学時代の話だよな? あの頃の事で大人になってからの知り合いに話せることなんてあるか? 俺は、無い!
「田茂さん、今日のところは現金収入もありましたし、ダンジョン探索は明日以降にしましょう。それで、今日お手伝いいただいてる新たに身内になった方々との顔合わせなどがやれないですかね」
「ああ、それはいいですね。だったら今夜にでもやりましょうか。中庭もそれまでには場所が空けられるでしょうし、昨日から話しておいたのでほとんど全メンバー揃うんじゃないですかね」
「いいですね。何人規模ぐらいでしょうか」
「そうですね。先ほどの彼らも合わせて百人ほどでしょうか」
「はい?」
田茂さんが「何か?」みたいな顔だ。
「えっと、百人と聞こえましたけど」
「そう言いました。Renegadesが六名、竜騎兵が四十名、|City Diversが五名、Cat Eyesが十五名で合計六十一名です。ここに竜騎兵が声掛けしたパーティー、クランが五団体、四十名なので全員参加したら最大百一名です」
「なるほど。それが今のRenegadesなんですね。昨日まで十人に満たないクランだったのであまりの急成長に驚いてしまいました。えっと、マネージャー、ちょうどいい機会だからうちのサポートメンバーも連れて来ようか?」
「そうね。タイガーさんも家に連絡入れないとだし、買い出しも兼ねて一回上に行きましょう」
「うぐっ。これは当分家に帰れなさそうだなぁ」
そうだ! 今夜は寅吉さんを連れて帰らないとマズいんだ! さすがに小さな娘さんがいる家族持ちが三日連続こんなところにいたらえらいことになるぞ!? でもまぁ、事情を話せばなんとかなるか?
「買い出しに時間がかかりそうだから急ごうか。田茂さん、買い出しにリクエストありますか」
「そうですね。おい、お前ら聞いてたな! リクエストがあれば今だぞ」
周りにいる隊員に向けて声を掛けるとすかさずおじさんたちの元気な声が返ってくる。
「アイス食いたいっす!」
「米があったら最強!」
「野菜不足っすわ」
「魚貝類!」
欠食児童みたいなこと言ってるな。ガチムチなくせに。田茂さんは無線で今夜の結成式と親睦会のバーベキュー開催を告知しているみたいだ。
さて、品出しは進んでるかな。
『香流、品出しはどんな感じだい』
『はい。順調です。次々に出荷しています』
『今夜、Renegadesの結成式みたいなものをやることになったんだ。バーベキューをやろうと思ってね。酒とソフトドリンクで使えそうなもので今残っているものは出さないでくれるかい』
『わかりました。バーベキューをやるのであれば少々食材が心許ないですね』
『総勢百名になるらしくてね。小佐原さんと雅代も連れて来ようと思うんだ。寅吉さんは一回、家に連絡入れてもらうために三人で買い出ししてくるよ』
『わかりました。マジックバッグを届けに行きますね』
『いや、一回みんなの顔を見たいから今からそっちに行くよ』
ここの中庭もどうなってるかよくわかってないからこのタイミングで見てみよう。
テントを出て地図と照らし合わせながら周囲を観察する。すると、中庭といいながら実際は裏庭といった感じで、訓練ができるように整備されていた。
裏にある建物は訓練設備や道具が入った体育倉庫みたいな建物と、大型の風呂とシャワー、洗浄施設があった。
今はその訓練場にあたる部分に夜戦テントがいくつか並んでいる。バーベキューコンロは元々あるらしく、隊員の手によってテキパキと準備されていた。
香流たちは幕の閉められたテントの中で三人で品出しをしていた。マジックバッグもあるし、気を使って男子禁制にしてるみたいだ。
「ご苦労様。大変だったろ」
「お、兄やん、顔合わせは終わったん? 品出しはな、身体強化あるからなんともないねん」
「身体強化の恩恵か。なるほどなぁ。顔合わせは無事に終わってみんな仲間になってくれたよ。たぶんこの後、全員と会えるんじゃないかな。今は下取りの方にずいぶん頑張って行ってくれているみたいだね」
「せやねん! ここで出したら出した分だけエラい勢いで持って行きよんねん。ほんでコレなんやけどな?」
葵が指差した方を見るとダンボール箱が転がっていた。
「なんだこれ。えっ?!」
フタが内側に折り込まれた段ボールを覗き込むと、現金がびっしりと詰まっていた。
「うわ! お金じゃないか!」
「にゃははははは! びっくりした?」
どうやら驚かせるためだけのために、マジックバッグに入れずにこんなことをしていたらしい。もちろん葵の仕業だ。
「わー。これはすごいわね。そうよね。ここ、地上と電波が繋がってるわけじゃないものね。全部現金でのやり取りなのよね」
「とにかくマジックバッグに入れてしまおう。出す時はいくらって想像すればそのまま取り出せそうだよな」
「あ、そうね。それは便利な財布ね」
それはその通りだった。適当に突っ込んだ紙幣がきれいに揃って掴み取ることができたし、合計金額の集計も自動だ。
「え? 一億五千万? 今まで買い込んだのっていくらぐらいだっけ?」
「一千万円ほどでしょうか」
ここで稼いでも、滞在を続けると大金が掛かる。これが冒険者の難しいところだ。ところが、俺たちは違う。ランニングコストが地上と変わらない。真剣にこの店を切り盛りすることを見据えながら冒険者稼業をやるべきだと思う。
「これ、まだマジックバッグの中に在庫残ってるよな」
「ヤバいわね。本当に『萬屋』だけでとんでもないお金持ちになるわよ」
「でもなー。やっとることが転売ヤーと同じやもんなー」
「あー、たしかにな。だからこれがまっとうな商売に思えないんだよな。まあ、今回のこれはTitansの金だからまったく心が傷まないけどな!」
「それはそやな! なんや気分よーなってきたわ!」
「いいわね。その通りだわ」
「うふふふ。心がスッとしますね」
なんか、俺以上に彼女たちの元子に対するヘイト値が高い気がする。
しかし、正直に言うとヘイトという意味では俺は元子を恨んではいないんだと思う。俺はただ彼女にフラれただけと思っている。俺という男が彼女にとって大事な男になれなかっただけだ。
俺と寝ながら他の男の腕に抱かれて笑顔を見せていたあの瞬間は確かに裏切りだ。あの時、俺は元子とふたりで歩く未来が失くなったことを悟ったが、そうなる前に元子は俺のことを見限っていたのだ。
そんな元子がなぜ俺と寝ていたのかは俺には理解出来ない。理解出来ないが、理解したいとも理由を聞きたいとも思ったことはない。
この娘たちはなぜ元子に対してこんなに反発しているのだろう?
人として許せない? まあ、わかる。
同性として許せない? なぜだ? 彼女たちは被害者でもないだろう。
俺に酷いことをした女だから許せない? これなのかな? でも、俺は十年も前にカッコ悪くフラれただけの冴えない男だぞ?
ただ、彼女たちが怒りの感情を見せてくれる時、自分の中に何かあたたかいものが流れ込んでくるような気がして、あの時の俺が救われている気がする。
うん、そんな風に思う俺は今でもカッコ悪いままだな。
「兄やん、何笑ろてんねん! 兄やんのことやで! もっとビシっとしたりーや!」
「わははは。いいんだよ。きみたちが俺の代わりに怒ってくれてるんだから。俺が俺のために怒ってくれているかわいい女の子を見て嬉しくなって笑うのは正常なことだと思わないか?」
「ぐううっ。久々に出たわね。天然のやつがっ!」
「こ、これはエグいな。ここの奥の方がキュウなったで」
「うふふふふふ。これです。これでこそ星名千里です。はぁ、早くモノにしなければ」
「おおっふ。無関係のあたしもさすがに今のはわかります。なんすかあれ? 百パーの天然モノじゃないっすか。天然記念物っすか?」
「葵、どうした? トイレか? よし、一回休憩で別荘に飛ぼう。寅吉さん、二、三十分後に戻ります」
「わかった。ごゆっくり」




