第117話 不貞、ダメ、ぜったい!
「まず、Renegadesと竜騎兵は合併となりました。Renegadesがクラン名となり、竜騎兵はRenegades所属の竜騎兵部隊となります。それに伴いまして、私、千がクランリーダーとなります。竜騎兵のクランボスだったドラゴンはRenegadesの最高顧問となりました。Renegadesの副官は、いまこの場にいるヒットとマネージャーになります。ここまでよろしいでしょうか」
「よよよよよろしくない!」
「は? はい? 竜騎兵なくなっちゃったの?」
それぞれのクランリーダーが慌てたように意見と質問を発する。
「いえ、竜騎兵はなくなったわけではありません。クラン内にそのまま丸ごと残ってます。ひとりの欠けもありません」
「ど、竜騎兵はそれでいいんですか!?」
|City Diversのリーダーが動揺していた。まぁ、竜騎兵は冒険少年、冒険野郎の憧れだものね。
田茂さんが発言の許可を求めてこちらを見たので頷く。
「竜騎兵の総意です。Renegadesの元に馳せ参じることを満場一致で決を採りました。これより竜騎兵はRenegadesのために、クランボス、千の指揮下で探索を行います。先ほど監督、失礼。千氏はボスと呼ばれるのをお嫌いになられてね。クラン内では監督と呼んでいるんですよ。それで、先ほど監督より発言があった通り、我々はRenegades傘下となったが、竜騎兵は竜騎兵であることに変わりなく、監督の上にはドラゴンもいるのでね。何も問題はないと考えてください」
さすがのベテラン士官。落ち着いて説得力のある声音。まったく迷いのない口調が俺の後押しとなる。とても優秀な副官です。
「ま、マジか」
「ねえ、Renegadesが上なのよね? 昨日ウチに来たお嬢さんたちはどうなるの?」
女性だらけのクランのボスらしくウチの女性たちの心配もしているのかな?
「一応、吸収合併の経緯と組織人事的にはRenegadesの方が上官になります。だから彼女たちは竜騎兵より上ですね。とはいえ実際に命令するというよりも、女性メンバーが多いことを考慮した人事といった側面の方が大きいです。竜騎兵に声を掛けられたと思って肩透かしになって申し訳ありません。こういう事情なんですけど、どうですか?」
「俺たちが参加すると、どういう扱いになるんだ」
それはCat Eyesも同じく気になるらしく、みんなの視線が俺に集中する。
「そのあたりはまだはっきりとは決まっていませんが、特にああしろ、こうしろというのはありません。指揮命令系統の優劣で言うと、割と早い段階で自然と格付けされると思うんですよね。それを元にいろいろ考えますけど、基本的には同一チームというよりは、同盟に近い組織運営になると思います。まぁ、簡単に抜けたいって思うような運営はしないつもりです。特に、物資の取り扱いに関してですね」
傘下になるとお得な手数料と価格で物資が手に入ること、全アイテムの買取が可能なことを伝える。
田茂さんが補足してくれる。
「せっかく一緒の旗の下に集った仲間ですからね。ここに来てくれたら日々、訓練している者がいるでしょう。声を掛けてもらえればアドバイスもしましょう。若い冒険者を育てるのも我々の目指すところです」
竜騎兵の訓練てどんな感じなんだろう。ただ、何事もやり過ぎはよくない。
「ダンジョンは自己責任とはいいますが、過度なダンジョン依存はさせないつもりです。ダンジョンにいるか地上にいるかは管理させてもらいます。こちらの判断で地上へ戻るよう命令が出る場合もあると思ってください」
「なるほどな。まぁ、金が稼げると言ってもここじゃまともな使い道もないしな」
「都合よく単身赴任ってのも家庭崩壊に繋がるわよね。うちの娘たちには手は出させないわよ」
「そうだね。そこは特に気を付けよう。自由恋愛まで縛る気は無いけど」
そう言ったら何人かのメンバーの肩の力が抜けた。難しい問題ではあるが、それを禁じるなんてことが出来るわけもないし、意味もない。むしろ将来の安定に繋がるのなら推奨してもいいぐらいだ。
竜騎兵はそのほとんどが既婚者だ。最年少が四十代だからね。竜騎兵が目を光らせて秩序を保ってくれるだろう。乱れた関係なんか、そんなこと出来るわけのなかった彼らが許すわけないのだ!
「ただ、ここはダンジョンだから。目に余る行為は慎んでもらうよ。特に不貞行為は厳罰だね。当事者には隊を抜けてもらおう。財産は残された家族に譲渡だね。ん? どうしたマネージャー?」
「え、えーと。そうね、不貞ね、不倫はダメね。既婚者はマズいわ。でもまぁ、独身者の自由恋愛の範囲まではそんなに厳密に縛らなくてもいいんじゃないかしらね。女性にだってそれぞれ事情もあるだろうし? よっぽど問題になったらまた考えればいいんじゃない?」
「そうね。まぁ、わたしもね、あんまり縛り過ぎてもね。良いお相手を見つけてやるのもリーダーの務めの内だものね」
「よ! さすがリーダー!」
「わかってる~」
「いい女だねぇ~」
「あんたたち! 茶化すんじゃないわよ!」
お? なんか、そういうノリなのか。これは俺の考えが固すぎたか? おじさんだと若者の気持ちがわかってやれないことも大いにある。園子や彼女たちの意見を積極的に取り入れるべきだな。
「まぁ、女性の方からそう言うってくれるならそれを優先するよ。そういう面では男の意見を取り入れてもロクなことにはならないからね。何か困りごとがあれば遠慮なく言ってくれていいよ。組織が動き始めたらいろいろ問題も出て来るだろうから、その辺は柔軟にやっていこう」
「|City DiversはRenegadesへの加入を希望する。全員一致だ」
「Cat Eyesもよ。もうそのつもりで今日は来てるわ。昨夜のうちに全員の確認済みよ。うちらがバラバラになるような部隊再編は受け入れられないってのが条件だったからね。このままでいいなら後ろ盾が出来てこんなに良い話はないわ」
「ありがとう。では今度はRenegades加入の誓約書にサインを頼むよ」
「それでさ、ちょいと相談なんだけどさ。この安地の居住地を一緒にはできないかしらね。あの場所で気ぃ張りっ放しなのもやっぱりしんどいのよね」
彼女たちはかなりの敷地を確保したばかりだとは思うが、ここには警察もいないからなぁ。襲撃に怯えて見張りを立てて夜を越すとなると、ダンジョンにいるのと変わらない。それは気が休まらないだろう。
「田茂さん、何かありますか」
「そうですね。今の敷地を調べたところかなりの面積を確保しているようなので、あの土地を処分して、その分、ここの敷地拡張に投資するのはどうだい? ここまで女性メンバーがいるのなら拡張した土地を利用して女性専用の寮を建ててしまうのがいいでしょう。水回りも独立できるし、女性専用の宿泊施設も併設すればそちらで運用してもらえたら直接の収入にもなると思うが」
他の女性冒険者パーティーや、パーティー内の女性メンバーだけそちらに宿泊もできるのはかなりの需要がありそうだ。
パーティーに女性メンバーを組み込む時のハードルが少しは下げられるかもしれない。
「そりゃあ願ってもないね。早速そうしたいわ」
「うん。かなりいいね。女性専用の施設の需要は高そうだ。販売品もそれに合わせればかなりの収入も見込めそうだ。Cat Eyesで十五人だよね? 全員戦闘要員の冒険者でしょ? 事務員とか宿の方の従業員的な雇用も必要だね。男子禁制は絶対だから」
「そうね。その辺は任せて。昔取ったなんとかでね、地元でひと声掛ければ何人だって集められるから。女の子集めは任せて」
「よ! 総長!」
「女前!」
「アラサーは伊達じゃないね〜」
「あんたたち! 余計なこと言うんじゃないわよ!!」
実は真面目おじさんの|City Diversが若干引き気味になってる気がする。竜騎兵のおじさんたちはまったく動じないなぁ。俺とメンタルが似てるのかな? もうたぶん異性としての女性というふうには見ていないんだろう。常在戦場の精神の影響も大きそうだ。こういうところが他の隊員たちに徐々に浸透していってくれるといいな。
「そういえばさ、ここ、代々木だけど新しく呼ぶとしたら通勤とか大丈夫なの?」
「あー、まぁね。それも地上の冒険者マンションをパーティーかCat Eyesで借りて寮にすれば問題ないわね。ここで宿屋の経営ができて物販までやれたら地上の比じゃない収入になるでしょ? それにアクアライン使えばすぐだしね。まとめて休み取るなら車出せば一緒に地元にも帰れるし、後輩に都会の仕事が回せるならアタシもこんなに鼻が高いことはないからね」
そう言うとサインを終えたCat Eyesのリーダーはメットに両手を掛けた。
少し下を向いてヘルメットを外してサングラスを取って頭を左右に振ると綺麗な茶髪のロングヘアーが舞うように広がった。その道特有のイイオンナの色香が振り撒かれる。その仕草に年季を感じた。三十手前のちょっと派手目な化粧の美人お姉様。少し厚めの下唇がセクシーな大人の女性だ。
「うわ、ぺっぺっ! 総長~隣にいる時それやめてって~ イイ男見つけるとす~ぐそれやるし~」
「くっ! お前はさっきから余計なことばっかり言ってんじゃないよ!」
となりの副官の女性もめんどくさそうにヘルメットを脱ぐ。こちらは赤っぽいショートヘアの眉の細いが童顔が抜けきらないかわいらしいタイプの女性だ。
「自由恋愛禁止で一番困るのは誰とは言わないけど一番年上の溜まってる独り身女っすからねー。こればっかりは」
「誰のこと言ってんだい! アタシがいつ男に困ってるってんだい!」
「いや、だって昨夜も酔っ払ってウチらに歳下でもいいから可愛い男を紹介しろって絡んで」
「そんなこと言うかー!」
遠慮なく毒を吐きまくるけどなぜか憎めない猫たちが皮を脱ぎ始めた。
Cat Eyesがさっさとヘルメットを脱いでしまったので、バツの悪くなった|City Diversもおずおずといった感じでヘルメットを脱いだ。
中から出て来たのは質実剛健を絵にかいたような真面目そうなおじさんたちだった。歳は三十代前半から半ばぐらいだろうか。
「へー。メット被ってるとけっこう強気な感じだったのにね。脱いだらちょっとかわいくなっちゃったじゃない」
|City Diversが何も言い返せなくなってちょっとかわいそうだ。
まぁ、サインもしたしもういいだろう。というわけで俺もヘルメットを脱いで話すことにした。
「よっと。じゃあ、続きだけど。ん?」
全員の視線がこっちに集まった。
「あらら、驚いたねこりゃ」
「竜騎兵を仕切るって言うからどんなイカつい兄さんなのかと思ったら」
「へー、思ってたんと違うし」
「センさん、かわいいし~」
かわいい? おじさんにかわいいっていうよくわからない若い女性からの評価ってたまに聞くよな。キモカワイイだっけ? ついに俺もそう言われる歳になったか。でもさすがに若い女性のそのあたりの感性は理解できないなぁ。
ガッ!
園子が脱いだヘルメットをテーブルに乱暴に置いた。
「あんたたち、うちのボスに手ぇ出したらタダじゃおかないわよ」
「あーん?」
「そーいうのは自由だって今決まったばっかじゃなかったっけー?」
いきなりCat Eyesの隊員たちと険悪な雰囲気に!
「ちょっと、あんたたち、ここをどこだと思ってんだい!」
おお、さすが総長。頼むぞ。
「あれ? あれれれれ?」
向こうの赤毛の副官が園子を指差してる。
「ん? あんたなにやってんだい。人を指差すんじゃないよ」
ぺしっ。
おお、総長は礼儀にうるさいんだな。
「あてっ。いやさ、おたく何中?」
園子のことか?
「はぁ? そんなパーソナルデータ言うわけないでしょうが」
「いや、まぁそうだけどね。ちなみにウチら木更津五中なんだけどさ、おたく四中とかじゃね?」
「あんたはなんでそういう大事なことをペラペラしゃべってんだい!」
そりゃ怒るだろ。もう仲間内だしそれぐらいしゃべってもいいけどね。それでもこう、もっと仲良くなってからこそっと言うようなことってあれ? 園子?
黙ってヘルメットを被り直す園子。え? え?
『千里! 早く話の続き!』
うわ! 【遠話】か。びっくりした。そ、そうだな。今は戦争中だった。
「えーと、話の続きな?」
取り急ぎ物流計画をマジックバッグと【瞬間移動】を抜きに話した。
「なるほどね。こりゃ急いで捌かないとね」
「それで、ここの隣のテントと店の中に物資が積んである。それを十倍価格で販売しているんだ。早い者勝ちで向こうに下取りに出してもらえれば差額をどうぞってことにしてるんだ。美味しい話ってのはこのことなんだけど」
「マジか! もう行っていいのか!?」
「そうだね。取り急ぎの大事な話は以上だからいつでもいいよ」
「くそ! それで他のパーティーの連中がうろうろしてたのか! みんな! 行くぞ! 竜騎兵の皆さん、こんど酒でも飲みながら冒険譚聞かせてください!」
そう言うと|City Diversは慌ててテントを出て行った。
「マネージャーだっけ。こいつらが悪かったわね。あとできっちりシメておくから許しておくれ。Cat EyesはRenegadesの下だからね。そこはもちろん守るし守らせるわ。自由恋愛の件はまぁこっちにも当然その権利があるからね。ねえ、監督さん。監督さんって独身? 恋人は?」
「俺? 俺はもうこんな歳でこんな性格だから付き合ってる人もいないよ。俺はパーティーメンバーがいてくれるだけで充分幸せなおっさんだからね。彼女たちが幸せになってくれればそれが何よりだ」
「ふーん。なんかあなたたちおもしろいわね。良かったわね、マネージャーさん。ずいぶんと愛されてんじゃない? さあ、あんたたち! ウチらもこの波に乗り遅れてらんないわよ!」
「内房は元々波ないっすけどね」
「失礼しまーすっ!」
「うぃーっす!」
「ちょい~っす」
Cat Eyesの副長以下のメンバーが頭を下げて出て行くが、ヘルメットバイザー越しの目線が俺じゃなくて園子に向いている気がするのは気のせいか?
「園子、ひょっとして知り合いか?」
「わ、わたしがあんなレディース崩れと顔見知りなわけないでしょ!」
ああ、あのひとたちやっぱりそっち系なんだね。
カクヨムでは10話ぐらい先行しています。
いいねが付かないので需要なさそうなので投稿控えてます。
現状、一名の方だけが反応入れていただいていますね。
ありがとうございます。




