第111話 健康優良不良おじさん
おじさんたちの熱烈な視線に晒されている。もはや身の危険を感じるほどだ。
その視線が「他に何があるんだ!」「早く寄越せ!」と言っている。食べられてしまうのではというほど前のめりの食い付きの良さ!
超弩級のスキルではあるが、悲しいかな攻撃力も防御力も完膚無きまでにゼロなことはぜひバレないで欲しい!
ガタガタ。
両隣の頼りになる相方たちがパイプ椅子を俺に寄せてくれたのは守ろうとしてくれてるんだよな。すまん。だいぶ心強いです。はい。
「ここからは少し他のメンバーの紹介をしましょう。彼女のスキルを話さなければこの先の話が出来ません」
隊員たちがそれぞれ女性メンバーを見る。
「私の優秀な副官」
園子の目を見て頷くと、ニコリと優しく微笑んだ。美人な園子だが、この時ばかりは可愛らしく見えた。自らの【能無しスキル】を、その道のプロ中のプロに向かって堂々と胸を張って宣言出来るのだ。
さあ、俺たちが一緒なら何が出来るのか、歴戦の勇者たちを驚かせてやろう。
「わたしのスキルは【瞬間移動】です」
持ち前の明晰さでもってハキハキと良く通る声で発せられたのは『能無しスキル』だ。
何が飛び出すのかと身構えていたおじさんたちがポカンと口を開けた。
「え? 【瞬間移動】って言った?」
「それって、『能無し』スキルだよな?」
「それもなんか別モノになったってこと?」
「いえ、彼女のスキルは一般的に『能無し』と呼ばれている【瞬間移動】そのものです。変更はありません」
いよいよ立神さんがニヤニヤを隠しきれなくなって口元を隠すのをやめた。自慢の打撃戦力の部下と能無しスキルの女の子たちを交互に見比べている。
隣に座る頼もしい副官の右肩に左手を置くと、俺を見上げてその手に左手を重ねて微笑んだ。
「【こうしえん】の【パーティー】に彼女を登録した時、彼女の持つ【瞬間移動】は【地図】上の任意の場所のどこにでもパーティーメンバーを伴って跳べるようになります」
「はぁ?」
「本来の【瞬間移動】は自分が実際に見ている場所にしか飛べないはずだよな」
「え? ってことはだぞ?」
「【こうしえん】の【地図】は全フロアがいつでも見れるんだよな?」
「いつでもどこにでも【瞬間移動】できる?」
「いやいやいやいや」
「でも『能無し』で一日一回しか使えないんだよな」
「使いどころか」
あっという間にこちらの言ったことを整理して理解した。が、出た答えが破格過ぎて、先生に答え合わせを求めていた。
「さすがに一線級の方々は理解が早いですね。その通りです。それで合っています。彼女は、パーティーメンバーの五人を今、この瞬間に第一階層のホールに移動させることができます」
「はぁーっ!?」
「三日は掛かるんだぞっ!?」
「うそだろ!」
何人かは椅子を蹴るように勢いよく立ち上がった。騒然とするおじさんたち。さすがにこの期に及んで嘘をついてると思う人はいなさそうだ。
「そして、【こうしえん】のパーティー機能でメンバー登録をした状態で、ある条件をクリアする度に能無しスキルの一日あたりの使用回数が一回ずつ増えていきます。今現在、正確な回数は言えませんが、すでに一日あたり十回を超える回数が使えるように育成が進んだ状態です。そういうわけで、我々は昨夜、地上に戻って自宅で風呂に入り、自分の部屋の自分のベッドで就寝して、今日ここに来る途中で牛丼とハンバーガーをピックアップしてから戻りました。そうそう、右端の彼女の提案でアイスクリームを差し入れにどうかということで買って来ましたので希望者は召し上がってください。その買い物が時間が掛かってしまったので今日の到着が遅れてしまいました。申し訳ありません」
葵にマジックバッグを渡すと、中から高級アイスの大きなカップを次々に取り出す。寅吉さんが「欲しいヤツ、取りに来いよー」と声を掛けると、フラフラと何人かが歩いて来る。
「うお、カッチカチじゃないか」
「溶けてない」
「木のスプーンだと食えないな」
「マスター! スプーン!」
阿芽さんが田茂さんを見る。田茂さんが俺を見たので頷くと田茂さんが阿芽さんに頷く。阿芽さんがダッシュで部屋を出て行った。
「おっちゃんらホンマにヤンチャ坊主のまんまやな」
「うーむ、こればっかりは否定できない」
「そこが長所だと思ってくれないかなぁ」
「そうそう。だから偉そうに説教とかしないから」
「それはウソやろ。ダンジョンであれやるなこれやるなってめっちゃ言いそうやん」
「あ、たしかに」
「うん。それは言ってるな」
「すっげー言われてるっす」
「それは言われるお前が悪いな!」
「わっはっはっは!!!」
「ほい! スプーン!」
「先輩、牛丼とハンバーガーください!」
「タイガー! 俺もだ! こいつのせいで食い損ねた!」
「ぎゃははは!!!」
カチカチのアイスにスプーンで格闘することでみんな大人しくなった。横を見ると葵も戦っていた。
なるほど。悪ガキにはエサかおやつを与えると静かになるのね。勉強になった。
「それじゃあみなさん食べながら聞いてください」
そう言うと「そうだった!」「【瞬間移動】だ!」と声が上がる。
「マジックバッグがあるし差し入れは証拠にはなりませんが」
「千里さん、こちらを」
香流が俺に紙片を渡す。
「ああ、なるほど。みなさん、一応証拠です。昨夜、牛丼とハンバーガーを発注した時の領収書とレシートです。あとはアイスを買った今日のもの。日時が刻印されています」
ピラっと提示したが直接見に来る者はいないので立神さんに渡した。立神さんは楽しそうにレシートを見て何度も頷いた。みんなが信じてくれたのは間違いない。そして、アイスを突きながら隣の者と目線で会話していた。「これは、言ってることは本当らしいぞ」と。
「階段で降りたらすぐに次の下り階段まで【瞬間移動】で跳んで下の階へ降ります。新規の階層へはこれを繰り返すだけで降りて行けます。ダンジョンを歩くことは必須ではありません。スキルの回数制限が来たら第一階層に戻って帰宅。次に来た時は前に降りた最下層まで【瞬間移動】で戻ってそこから再スタートです」
アイスを食いながら神妙な顔で聞いているが、疑問を浮かべる者がいるな。
「しかし、ボス戦の問題があります。我々は今までボス戦で寅吉さんに戦ってもらったことはありません。そこはまた別の解決策があるのですが、これも今回の話し合いの本質とは無関係なので割愛します。それでは、今回のTitansの侵略行為に関する問題解決方法の提示になります」
そう。それは解決案ではない。方法だ。これを実施すれば問題は解決するということだ。
園子の【瞬間移動】とマジックバッグを使った物資輸送計画を披露した。
「はぁぁぁっ?!」
「いやいやいや、そりゃそうだが」
「それやられたら誰も敵わんだろ」
「だから俺らの勝ちだろ?」
「え? 俺らもう歩荷やらんでいいの?」
「そうだけど小遣い稼ぎ出来んぞ」
「買取が手数料一割なんだろ?」
「アイテムならなんでも買ってくれるって」
「はん?! アジの干物の定食ぅ?!」
「俺、ここに住める気がするんだけど?」
「アイテム買ってくれるなら歩荷より儲かる!」
「どうやったら負けられるんだこれ?」
「Renegadesってなんなんだよ」
「そうだけど、どう考えても【高度戦術支援地図】のお陰だろ?」
Titans対策に関する話しを終えて、休憩がてら自由発言の時間を設けた。
「兄やんクッキーな。園子ちゃんイチゴで、香流ちゃんはバニラやったな。トラのおっちゃんはお茶な」
葵はアイスを配るとみんなから半分ずつもらって盛り合わせにして食べた。
「葵、さっきも食べてたけど大丈夫なのか?」
「ほえ? なにが?」
「いや、なんともないならいいよ」
「ほんと、あなたの胃腸の丈夫さどうなってんのよ。しかもなによその腰の細さ。入ったものがどこに消えてるのか不思議でしょうながないのよね」
葵は少し考える素振りをしたあとに俺にニヤっと笑い掛けると胸を張った。園子に見えないようにやってやがる!
まったく、他のチームのこと言えないわ。ウチにも女子校ノリの悪ガキギャルメンバーがいましたとさ。




