表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

7話 撮影者の正体




 大通りをしばらく進んだ先で、思わず足を止めた。


「これが神殿か」


 目の前の白い建築物は、王都の中でも一段と大きさが際立っている。

 (おごそ)かではあるが、不思議と緊張はしない。


「神殿……ですか」


 隣でセツが小さく手を握りしめたのが見えた。


「村にも、たまに神官の方が来ていました。拙は、その間は家から出るなと言われていたので……その、緊張します」

「あの村はちょっと臆病になりすぎてたんじゃないか。実際に王都に来て、誰もセツのことを気にしていないだろ?」

「は、はぁ……そう、でしょうか」


 俺との会話も、しどろもどろになっている。

 どうにかセツの不安を解消してやりたい。


 前方に向き直ると、建物の前に何やら行列ができていた。


「クレドカードに関するお話の方はこちらにお並びください! ただいま大変混み合っております。繰り返します──」


 ……役所かよ!

 心のツッコミをセツに聞かせるわけにもいかず、気持ちを落ち着ける。


「行くか」

「……」


 セツからの返事はなかった。


 白で統一された広い空間。

 壁面には見たことのない紋様が刻まれており、神秘的な場所にいるのだと実感がわいた。


「……拙がいてもいい場所なのでしょうか」


 セツは自分の服をチラチラと見て、小さなため息を繰り返している。


「しかしこれは……迷うな」


 好奇心にあらがえず、辺りを見回しながら進む。

 各所には白い法衣の神官と思わしき者たちが立ち、目を光らせていた。


「神官様。クレドの手続きをしたいんだがどこにいけばいいやら……」

「クレドカードでお越しの方は私に続いてください」


 神官のよく通る声が周囲に響くと、続々と人が集まっていく。 


「生体認証の方はこちらまでどうぞ! ご案内します」


 俺もいざとなれば神官に頼るか?

 そう思いかけていたその時。

 

「バエルさん、あれはなんでしょうか?」


 ・撮影者適性確認

 ・生体認証

 ・クレドカード

 ・依頼窓口


 セツが見つけた看板にはたくさんの項目があり、それぞれの場所を表記しているように思える。

 だが——


「な、なぁセツ。どれか一つでも意味、わかる……?」

「バエルさん……拙は、どうやら力になれそうもありません」


 文字は読めるのだが、意味がよくわからない。


「何かお困りでしょうか」


 気がつくと、真横で神官が微笑みを浮かべていた。


「ああ。撮影者について知りたいんだが、この撮影者適性確認っていうのはなんなんだ?」

「……失礼ですが、まだ適性確認を受けておられないのですか?」

「田舎者なんでね。仕組みがわからなくて困ってた」

「……拙も、受けておりません」


 俺たちがそう答えると、神官の笑みがわずかに消えた。


「この国では一定の年齢を超えた方には、撮影者の適性があるかどうか、検査を受ける義務があります。お二人はどちらから?」

「他国だ」

「……テールの村、です」


 神官の男が首をかしげる。


「テールですか。我々は辺境の村にも定期的に訪問しております。カードを使って周囲の生体反応をサーチし、人がいた際にはお声がけしている。ですので、女性の方は既に確認されているとは思いますが」


 入口でセツが言っていたことを思い出す。

 だが神官の言うとおりなら、隠れても意味がないんじゃないだろうか。

 

「……まぁ念のため、二人とも適性確認を受けておきたい。場所を教えてくれ」

「わかりました。ご案内いたします」




◇◇◇




 案内された部屋はどこよりも空気が澄んでいた。

 多数いる神官が、入室する人に丁寧に声をかけている。


「ようこそ。あなた方も適性確認でよろしいのですか?」

「頼みたい。だがその前に教えてくれ。撮影者っていうのはなんなんだ?」


 神官は一瞬だけ怪訝(けげん)な顔を見せる。

 だが先ほどの神官とは違い、すぐに冷静に話しはじめた。


「適性があると見込まれた方は、この先で撮影者試験に臨む権利を得ます。その試験に合格した者には神託が下り、自分専用の魔導撮影機(アルカ・グラフ)を手にするのです」

「……魔導撮影機(アルカ・グラフ)

「正式にはそう呼ばれますが、そのまま撮影機と呼ぶ人も多いかと」

「そ、それで!」

「——そうして魔導撮影機(アルカ・グラフ)を手にした者は、カードを生み出す力を得ます。時に戦い、撮影することでより強力なカードを手に入れる。そうした者たちは、総じて撮影者と呼ばれます」


 ——これがこの世界の在り方!


 この世界では、撮影すればカードが生まれる。

 ならば、俺の——


「っ!」


 ごくりとつばを飲み込み、無意識のうちにポケットに手が伸びた。


「もうよろしいでしょうか。それでは、どちらから確認をしますか?」

「な、なら俺からで頼む。いいか? セツ」

「はい」


 神官の前の椅子に座り、目を閉じるように指示された。

 

「あなたに適性があれば、瞳の奥に見えるものがあるはずです」

「……」 

「“インスペクト”」


 カッ!


 ——暗闇の中に、なにかがいた。


 ……なんだ? 


 胸の奥がざわつく。 

 まるで覗き込まれているような視線。


 背筋がゾクリとした。


 ——やめろ!


 ピー ピー ピー


「終わりました」

「——ハッ!?」


 目を開け神官を見ると、手に持った端末からカードを取り出したところだった。


「はい。残念ですが、あなたに適性はありません」

「……ホント?」

「はい」


 絶対に適性はあると思っていた。

 

「そ、そう……」

「一度適性がないと確認された者が、その後に撮影者になれるケースは稀です。ですが記録では全くいないわけではないので、そう気を落とさないでください」


 神官は慣れた様子で(よど)みなくそう言った。

 本当に言い慣れているんだろう。


「おっと、あなたは今まで生体登録もされていなかったのですね。案内させるので、別室にて生体認証をお願いします」

「生体認証?」

「この適性確認を行うことで、その方の生体情報が神殿に登録されます。その後に生体認証を行うことで、さまざまなサービスが利用できるようになります」

「わかった。じゃあセツ、終わったらこの部屋で待っていてくれ」

「わかり、ました」


 神殿内でならセツと別行動しても問題ないはずだ。


 そうして別室に案内されている途中、神官の手にしていた端末が光った。


「……ああ、参ったな」

「どうかしたのか?」

「認証窓口からの連絡でした。本日混み合っている関係で、ご案内が難しいようです」


 神官が申し訳なさそうに頭を下げる。


 俺にとっては良い知らせだ。

 どの道どこかで抜け出そうと思っていた。


「わかった。後日頼む」

「お手数おかけします。あなたに、導神のご加護があらんことを」


 来た道を戻り、セツの待つ部屋へ向かう途中。  

 俺は、誰にも見えない位置でポケットからスマホを取り出した。


 この世界では撮影するための端末を、魔導撮影機(アルカ・グラフ)というらしい。


 相変わらず手になじむこの形状。

 だが確かにあの時、こいつで撮影したのだ。 

 そして、ただのスマホではありえない現象。


 ——カードが生まれた。


 しかし神官からは、俺に撮影者の適性はないと告げられている。


「試してみるか」


 周りに誰もいないことを確認し、カード名をそっと呟く。


「……アクセル」


 カッ!


 カードを発動した瞬間、全身がふっと軽くなった。

 視界がわずかに歪み、感覚そのものが加速する。


「移動速度が上がる、だったよな。……軽く走るか」


 人気のない廊下を軽く蹴ってみた。


 ビュンッ!


「あ、あれ? あなたは」


 次の瞬間、まるでワープしたように先ほどの神官の場所まで辿り着いていた。


「……悪い。聞きたいことがあると思ったが、気のせいだった」

「は、はぁ」


 物陰に向かいながら内心ドキドキしていた。

 移動速度が上がるどころの話じゃない!


 ——もはやこれは、人の出せる速さではなかった。


「なんなんだろうな、こいつは」


 当たり前だが、機械に問いかけても反応はない。

 無機質に黒光りしたフォルムを見下ろしていると、知った情報との差異に少し怖くなった。


 俺が転生した時の神の言葉を思い出す。

 この端末を大っぴらに見せびらかすのは控えた方がよさそうだ。


「……少なくとも、神官たちの前では出さない方が賢明か」


 考えをまとめた俺は、俺の魔導撮影機(アルカ・グラフ)をしまい歩き出した。


 部屋に戻ると、ちょうどセツが適性確認を受けている最中だった。

 だが、何やら神官たちの様子が変だ。


「なんだ……これは」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ