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33話 新たな仲間




「今回もお手柄だったそうだなバエル! 俺も鼻が高いぜ」


 ガハハと笑いながら、テマリバナ——通称タマリバのおっさんがエールを持ってきた。

 当然のように自分の分も用意して、勢いよく喉に流し込んでいる。

 

 ガゾンとの戦いから数日——

 俺たちはいつものタマリバに集まっていた。 


「何でおっさんがそうなるんだよ。……というか、いつもながら飲み過ぎだ」

「うっせぇ! 俺の店だし別にいいだろ! なぁ、セツの嬢ちゃんに……リースさん」

「あらおじ様。私のことは、さん付けなのね」


 リースがおっさんを見てニコリとしている。


「くぅ……! その恰好でおじ様なんて呼ばれると、よろしくない気分になるぞ」


 おっさんは顔を赤らめているが、それはエールの飲みすぎが原因だろう。


「あ、あはは」


 三人でカウンターを陣取るのは店にも悪いので、俺たちは慣れないテーブルを囲んでいた。

 テーブルには腕によりをかけた豪勢な料理が湯気をあげ、匂いに気づいた俺の腹がサインを繰り返している。

 セツも早く食べたそうに料理……主にランランベリーシリーズをじっと見ていたが、まだ手は出ていない。


 今日は新たな仲間の歓迎を兼ねた親睦会だった。


 あの日——仲間に誘った時、リースには一度断られた。

 一緒にいると、今回のように危険な目に遭わせてしまうからという理由で。

 

 そんなリースの辛そうな物言いに、諦められない俺はつい自分の境遇を伝えた。

 口下手ながらも、素直に話ができたと思う。

 するとリースは、ひとしきり笑った後に「わかったわ」と言ってくれた。

 

 だが俺の話で心境の変化があったとも思えない。

 今考えると必死すぎて同情……いや、引かれたんじゃないかと不安になるが。

 まぁ、結果オーライと考えよう。


「おうバエル! 格好いい音頭を頼んだぞ」

「言ってろおっさん……それじゃ、リース。これからよろしくな。——乾杯!」

「よろしくお願いします。リースさん」

「ええ、よろしくね。バエル、セツちゃん」

「これからもウチをご贔屓にな! 頼んだぞー!」


 俺とリースはエール、セツはランランベリーのジュースを手に取り、小さな親睦会が始まった。

 テーブルには、何度も注ぎ足したおっさんのジョッキも置いてある。


「あらやだ。これおいしいわね」


 リースが口にしているのは、見たことのない大きな木の実を蒸したものだった。


「ガハハ! リースさんお目が高い。デビルココナッツはそのまま食っちまうと毒なんだが、加熱すると無毒化するんだ。そして熱する温度次第で柔らかくなって旨味が強くなる。俺は火加減を完璧にわかってるからな」

「そうなの」


 おっさんの自慢話をサラッと流したリースは、セツに向けて自分のスプーンを差し出した。


「はい、セツちゃんも食べてみたら」

「は、はい。失礼します」


 しばらくすると、セツの頬が次第に緩んできた。


「これは——いいですね」

「けど、中毒性がある食べ物だからな。嬢ちゃんは特に食べ過ぎには注意しろよ?」


 おっさんはひとしきり飲んで語り終えると、満足したようにカウンターへと戻っていった。


「はい、バエルもどうかしら?」

「——リ、リースさん!?」 


 リースはニヤニヤしながら、セツにしたようにスプーンを差し出してくる。

 その隣で、セツが半開きになった口を閉じずに俺を凝視していた。


「あ、あー……気持ちだけ受け取っておく」

「……ホッ」

「ふふ、ウブねぇ」


 セツとリースは二人で仲良く喋っている。


「ふぅ」


 ゆっくりエールを飲み干すと、自然と口元が緩んだ。

 俺はあの後——リースに返事をもらった後のことを思い返した。


 ガゾンの身柄は神殿に拘束された。

 いろいろと余罪もあったようで、今回の一件が完全に決め手になったのだろう。

 現在は取り調べの日々が続いている。


 黒いカードについても記憶している限りのことは伝えたのだが、ガゾンはカードの存在を否定しているらしい。

 痕跡が残らないカードでは、いくら神殿と言えども調査のしようがないのだろう。


 今日、俺は王城——国王レギウスからも呼び出されていた。




◇◇◇




「……バエル。キミが見たという黒いカードだが——それは本当なんだな?」

「ああ、見たのは間違いない。証拠がないので、信じてくれとしか言えないが」

「……そう、か」


 レギウスは眉間にしわを寄せ、深く溜息をついている。

 会ったのは二度目だが、以前とはまるで違う印象だった。

 

「その件だが、むやみに人に話さないでほしい。民に混乱が広がるのは避けなければならんからな」

「わかっている。仲間にしか共有するつもりはない」

「ありがとう。ガゾンとやらの件はバルトスも徹底的に調べ上げるだろうが、果たして手掛かりが得られるかどうか」

「新しい仲間に謎のカードを探している者がいる。何かわかったら、俺からもあんたに伝えるようにしよう」

「それは助かる。——バエル。キミを初めて見た時より、今日は少しだけ違う印象だ。その仲間のおかげかな?」

「……さぁ、どうだろうな」

「ふふっ、きっとそうだとも」


 レギウスは一度目を閉じ、深く息を整えている。


「これはまだまだ先の話になるが、王都で大規模なイベントを開催しようと思っている」

「イベントだと?」

「ああ。是非キミにも参加してもらいたい。今日伝えられるのはそれだけだが、その時が近づけばまた話をしたいものだ」

「構わないが——」

「……私もこれから忙しくなるだろう。いつか来るその日を楽しみにしているよ」


 レギウスは俺との謁見を終えると、家来を連れて足早に立ち去った。




◇◇◇




「——バエル?」

「——バエルさん! 聞いてるんです……かっ!」

「——!?」


 思考が現実に戻った時、目の前にセツの顔があった。

 目の焦点が定まっておらず、顔全体が熟れたランランベリーのようだ。

 その姿はどう見てもへべれけ状態。

 

「リースか? セツにエールを飲ませたのは」

「バエル、ごめん。デビルココナッツって、アルコールに弱い人が食べるとこうなっちゃうみたい」


 リースはバツが悪そうに、空になった容器を見せてきた。

 ……なるほど。


「いつの間にか……リースさんと、その、仲良くなってますし……それは拙としても望ましいことなんですが! あの日……拙が、拙がどれだけ」


 酔っ払っているのか、普段からは想像もつかないほど饒舌だった。


「……その件は謝ったし理由も話しただろ。セツのために——」

「——いいえ! バエルさんは、何もわかっていません! そもそも拙は! 前々からずっと言いたいことが……ですね」


 身体を揺らし、控えめにだが絡んでくるセツは珍しい。

 口を閉じて言葉の続きを待つ。

 隠してる本音があるのなら、こんな機会に聞いてみたいと思った。


「……ううーん」


 だがセツはそのまま椅子に戻ると、テーブルに突っ伏して寝息を立て始めた。


「ふふっ、かわいい顔で寝ちゃったわね」

「やれやれ」


 俺は小さく息を吐いた。

 何を言いたかったのかは気になる。

 ……まぁ、それはまた今度だろうな。


 そうして、ささやかだが楽しい歓迎会は終わり、セツをおんぶして店を出た。


「……スゥ、スゥ……バエ、さ」

「あらあら。夢にバエルが出ているのかしら」

「変な夢じゃないことを願う」


 隣を歩くリースは、優しげな顔でセツを見ている。


「ふぅ。俺たちがいつも借りている宿は正直ボロいぞ。リースはそれでもいいのか?」

「ええ。……仲間、なんでしょ?」

「後で文句を言うのはなしだからな」


 リースは今まで寝床にしていた場所から、俺たちと同じ宿に移るらしい。

 宿に近づくにつれ、お互いに口数が減っていった。

 

「……バエル」

「何だ?」

「宿についたら、どうするの?」


 リースは俺の方をチラチラと見やり、また目を逸らす。

 なぜかその表情にドキッとする。


「……わからんが、酔いが覚めるまでは寝ないだろうな」

「そう」

 

 その後、お互いに黙ったまま歩き続けた。

 慣れ親しんだ宿はもう目の前だ。


「——今日は、長い夜になるかもね」

「……え?」


 ギギッと音を鳴らす扉によって俺の声は遮られた。

 腑に落ちないまま宿に入る。


「……」


 隣を歩くリースは、妙に静かだった。


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