26話 突破口を開く
「しかし、よくサンダースネークの場所がわかったな」
「水溜まりを経由して移動していたので、次はあの水溜まりかなと。そしたら襲ってくる前に、少しだけ水面が光ったので」
セツは後方の水溜まりを控えめに指差した。
「なるほど」
移動には法則があるのか。
そしてセツの言葉通りなら、サンダースネークは攻撃の前に予兆が見える——
俺一人なら、すぐに気づけただろうか。
「……セツに感謝だな」
「い、いえ……拙は何も」
とは言ったものの、俺には致命的な弱点がある。
蛇が攻撃を受けた際に放電するならば、近接攻撃以外で対処するしかない。
気づいていても、今の俺にはどうしようもなかった。
「とにかく、もう少し足場がいいところに移動しよう」
額の汗を拭う。
その瞬間——
ッシュュゥウウ!!
新たなサンダースネークが水溜まりから姿を現した。
しかも、二体!
「こいつっ!!」
だがどうする。
斬らないと倒せないが、直接触れるのは避けたい。
「バ、バエルさん!」
「くそっ!!」
考えている余裕はない。
迫りくる蛇に、鋼の刃を突き付ける——!
……バチバチィィィ!!
「っっぁぁぁ!!!」
絶命したサンダースネークから稲妻が伝い、腕を直撃する。
先ほどと違って覚悟をしていたが、それでも俺の身体には確実にダメージが蓄積されていった。
「ッ!!」
セツが怯えた表情で俺を見ている。
「……でぇぇりゃあああ!!!」
剣が鮮やかに蛇の頭部を両断する。
これで、三体目。
——そして、三度目の電撃が俺を貫いた。
「……ハァ! ハァ!」
「バエルさん……これ以上は無茶です。帰りましょう」
「……いや、まだだ!」
「……バエルさん」
「この場所は危険だ。一度下がろう」
腕を抱え、水辺がない所まで移動した。
しばらく警戒していたが、蛇たちが襲ってくる様子はない。
「比較的弱いって話は確かだろうが、参ったな」
「……一度休みませんか? バエルさん」
「心配させてすまない。けど、もう少し待ってくれ」
カードの補助はあったが、サンダースネークは俺の剣でも倒せるくらいだ。
しかし近接攻撃で触れてしまうと、即座に反撃が待ち構えている。
先ほどは三体目を斬った瞬間に剣から手を離してみた。
それでも、先に電撃が腕を貫いたのだ。
「セツ。サンダースネークは水溜まりをめがけて移動していたんだよな?」
「はい。地面の中では素早かったですが、地上に出てからはそれほど速くありませんでした」
「そこだよな」
サンダースネーク自体は、あまり動きが速くない。
その弱点を補うための水辺移動なのだろう。
「……水辺」
辺りを見渡すが魔物の気配はない。
ぬかるんだ地面は相変わらず不快だが、この場所には水溜まりはなかった。
「……よし、試してみるか」
「バエルさん?」
「……“アクア”!」
光と共に、空中に透き通った水の塊が現れる。
俺はそれを、わざと地面に叩き落とした。
バシャァァッッ!!
水はぬかるんだ地面に広がり、やがて小さな水溜まりができた。
「ああ……お水が」
「セツ。少しでも違和感があれば教えてくれ」
剣を構え、じっと水面を見る。
この直感が正しければ、きっと——
「……何か、来ます」
その声の直後、水溜まりが不自然なまでに光った。
「——ここだっ!」
剣を振りかぶり、その切っ先を水溜まりに向けて投げつける——!
回転した刃が、月光を反射しながら水溜まりへと吸い込まれていった。
直後、シャーッという声が上がる。
やがて、小さな牙が水溜まりに浮かび上がった。
「……よしっ!」
「ど、どうしてわかったんですか」
「ヤツらは水溜まりを移動する習性を持っている。そして、獲物がいても水溜まりがなければ襲ってこない。——だったら、作り出してやればいい」
水溜まりが一つしかなければ、サンダースネークは必ずそこから襲ってくる。
これだけ絞れれば、俺であっても外さない。
「賭けではあったが、どうやら成功したようだな」
「す、すごいです!」
「これなら反撃を受けずに倒せる! セツ、ここで依頼を終わらせるぞ!」
「はい!」
それから水溜まりが乾くまで、俺たちはサンダースネークを倒し続けた。
「これは」
十体目が残したものは黄色い小さな石だった。
これまでは牙しか見なかったが、必ず同じ物が残されるわけではないのだろう。
「魔石、ってやつかな。よし、目標達成だ!」
「お疲れさまです、バエルさん……良かった、です」
セツは大きく息を吐いてこちらを見ていた。
依頼の達成に浮かれていた俺たちだったが、草むらの陰から這い出てきたソレを目にして固まった。
ジュュウ! ……シュルルルー。
ソレが地面を這う度に、蒼電が土を焦がし、火花が辺りに飛び散っている。
これまでのサンダースネークより一回り以上大きく、身体中からは絶えず放電されていた。
背筋も凍る眼光——蛇睨みが俺たちを貫いて離さない。
「クソがっ……ボスってことかよ!」
……これは、やばい。
「ど、ど、どうしましょうバエルさん!」
「……やるしか、ないだろうな!」
目の前の巨大な蛇はこちらを観察するように、稲妻型の長い舌をチョロチョロと出している。
バチバチと死の音色を奏でる口が開いた——
シャアアアアア!!
「——“アクセル”!」
加速した身体でセツの手を引き、大蛇から距離を取った。
俺たちのいた場所は大きく抉られ、電気が滞留している。
「っ……何て威力だ」
閃光の如き稲妻。
これは直撃してはマズイ。
それでも、蛇本体の動きは鈍いのが救いになる——!
そう、思っていた。
「——はぁあ!?」
ゆっくりと這いよるだけだと思っていた大蛇が。
まるでぬかるみなど気にしない、俊敏な動きで俺たちに迫ってきた。
これでは、狙いが定まらない。
「くそっ、あの木まで走るぞ! 掴まっててくれ」
「は、はいぃ」
震えるセツを引っ張り続けることになったが、躊躇していられなかった。
「こ、こんなヤツがいたとは」
「大きさからして、何もかも違います!」
「……どうにかして動きを止めないとな」
木の根元で息を整えていたが、すぐに大蛇との距離は縮まった。
その口元では、再び青白い光が音を立てて弾けている。
「!!」
バチバチィ! と聞こえた瞬間、俺はセツを抱えて木の枝へと飛んだ。
遥か真下に見える地面は無惨にも大きく抉られている。
「すごいジャンプ力……こ、ここまでくれば」
「——だがここにいちゃ狙い撃たれる!」
しかし続けて電撃は放たれなかった。
大蛇はゆっくりと木を伝い、こちらに迫ってくる。
「——っ! ざけんな!! まさかこのタイミングでかよ!」
シュゥゥ……とカードから光が消え、頼みの綱のアクセルがその効果を失った。
「……このままじゃ終わりだ」
ふと魔導撮影機を見ると、ストレングスが再使用可能になっている。
——もう、一か八かだ!
「“ストレングス”! ……セツ、俺に掴まれ!」
「ま、まさかバエルさん」
「その、まさかだっ!」
目前に迫った大蛇が全身で俺たちに絡みつこうとする瞬間——
俺は枝を強く蹴り、地面へ一気に落下した。
「——ッヅ!」
地面に着地した途端、足にズキッと痛みが走ったが気にしていられない。
すぐに空を見上げると、大蛇は呻きながら枝に巻きついている。
今しかない——
「……当たれよぉぉお!!!」
ブンッ! と空気を引き裂き、蛇に向かって剣が舞う。
ザシュッッ!!
回転した鋼の刃が、大蛇の頭に深々と突き刺さった。
フシュゥゥゥゥウウ!!
「よしっ!!!」
大蛇の周りに、生命の終わりを告げる白い光と黒の粒子が舞い始める。
だが——
確かに剣が刺さったはずの蛇頭が勢いよく向きを変え、大きく開いた口元へと光が収束していく。
その眼は、執念を宿したように輝いていた。
「な……に」
「あっ」
咄嗟にセツを後ろにかばう。
頼みの綱のアクセルも使えない。
そもそも、足の痛みで走れそうにない。
もはや頭部だけしか残されていない魔物の口元から、絶えず火花が弾け散っていた。
——今じゃないのか?
……っ!
——しろ。
……ああ。
死が目前に迫ってるってのに。
……何故、だろうな。
本当に、わけがわからない。
……だが、俺にはこれしか、考えられない——!
——撮影しろ。




