24話 カード生成の謎
案内役の神官に通された部屋は、今まで神殿で見たどこよりも広かった。
厳かな雰囲気は影をひそめ、あちこちの円卓では真っ白な法衣の神官が市民と話す声が聞こえる。
「……おや、ちょうどいいタイミングでしたね。あちらをご覧ください」
俺たちにもっとも近い円卓には、肩に袋を下げた一人の男がいた。
「フレイムリザードの牙だ。こいつを素材にして作れるカードを教えてくれ!」
男はゴロゴロと素材を取り出し、乱雑に置いた。
「はい、確認させていただきますね」
担当であろう神官が端末をかざし、何やら光が灯った画面を見つめている。
「フレイムリザードの牙を二本確認いたしました。神殿に登録されているカードですと、火の魔石も揃えた際にはファイアボールの生成確率が四十%、ファイアアローが十パーセント。残りの五十%は何も生まれずに素材だけが消費されます」
「苦労して手に入れたんだ! この牙だけで作れるカードを作成してくれ! 頼む」
「存在しません」
「……くそっ! ……ふざけんなよ」
男は項垂れたように肩を落とし、素材を袋に詰め直して出口へと向かっていった。
「次の方、こちらへどうぞ」
手慣れたもので、神官は表情を変えずにもう次の対応を始めている。
「今の方はカードを生成されませんでしたね」
「素材があればこの場所でカードを作ってもらえるってことか」
「はい。ですが素材が全て揃っていることと、手数料として定められた金額をお支払いいただく必要がございます。直接購入するよりも安価で入手できますので、素材を集める力がある方はこちらを利用することが多いかと」
「なるほど」
再び視線を戻すと、今度は活発そうな女性が見えた。
「生成代金として、確かに百グランお預かりしました」
「お願いウィンドカッター……あたしの願いに応えて!」
「……いきます!」
カッ! という音と共に、並べられた素材を光の渦が包み込んだ。
女性は祈るように光を見つめている。
神官は慣れた様子で、その行方を静かに見守っていた。
やがて渦は少しずつ収まり、その中心から何かが浮かび上がった。
「——おめでとうございます。ウィンドカッターの生成に成功しました!」
「やったあああああああ!」
女性は嬉しそうにカードを受け取ると、その場で端末に装填した。
「これであたしも戦えるわ!」
「一度の使用回数にはお気をつけくださいね」
「また来ますっ」
端末を手に取る神官の表情はやつれているが、どこか誇らしげにも見える。
「……これが全部神殿で行われているのか」
「この国の市場に流通しているコモンカードの多くは、神殿を通して生成されていますからね」
神殿内部のはずなのに、この部屋だけは工房に思えた。
「ここだけの話……実は、全てのレシピが公開されているわけではないのです」
隣では神官が苦笑いを浮かべていた。
「……どういうことだ?」
「これまでに確認されていないカードのレシピを誰かが発見した場合、発見者が秘匿指定をしている場合があるのですよ」
「バレないうちは自分だけのカードってことか」
「とはいえ、秘匿扱いには莫大なグランが必要になります。個人で維持するには難しいですが、高性能なコモンカードの場合は、その効力を広めたくない撮影者ギルドが独占しているケースもありますからね」
それを快く思っていないような口ぶり。
撮影者ギルドというものは初めて聞いたが、カードによっては組織ぐるみで独占するほどの価値があるのだろう。
「——なるほどな」
あるいは、俺の求めるカードも——
「……本来なら市民に多く流通するべきカードもあるはずなのです。ですが常用カードは秘匿できないので、それだけでも救いなのかもしれませんね」
神官はどこか遠い目をしている。
彼のような者ばかりなら、神殿にも少しは心を開けるんだけどな。
だが、どんな国も一枚岩じゃない。
自分の利益だけを考えて生きているヤツはどこにでも存在する。
欲を持つこと自体は悪じゃない。
大切なのは、その使い方のはずだ。
「あんたに聞けて良かった」
「とんでもないことです。バエルさんにそう言っていただけるとは」
「なんだ。俺のこと知ってたんだな」
「神官長から、対応に失礼がないようにと聞いております」
神官長……バルトスか。
何の話をしているのかは知らないが、ここで聞くことでもないだろう。
「一応確認しておきたいんだが、素材を使った生成で、精神異常を防ぐカードはないか?」
「うーん……神殿に記録されているレシピには、該当するカードはないようです」
「そうか。なら魔法カードを作る場合、オススメはあるか?」
「調べてみますね」
手元の端末を素早い手つきで動かした神官は、ひとしきり探してくれたのだろうか。
小声で頷き、ある画面を俺に見せてくれた。
「おすすめはこちら、『ライトニング』ですね」
「良さげな名前だ」
「はい。雷の力を放つカードで、素早い相手にも当てやすい汎用性があります。一番のメリットとしては、素材を落とす魔物が比較的弱いので倒しやすいことですね」
「ならそれを目標にしてみるか」
「いいと思います。サンダースネークを討伐する依頼があれば受けてみてくださいね」
「世話になった」
◇◇◇
「あ……おかえりなさい。バエルさん」
セツの協力のおかげか、すっかり元通りの光景を取り戻したテマリバナは客が増え始めているようだ。
「助かったわ〜セツちゃん、本当にありがとうね!」
「拙が、力になれていたら、いいのですが」
「何言ってるの。またお願いしたいくらい」
「え、ええと……拙は」
店員と話しているセツは遠慮がちではあったものの、時折ニヘ顔を浮かべていた。
「……良かったな、セツ」
そんな姿をひとしきり眺めた後。
新たに依頼を受けることを伝えると、セツは今度こそついていくと合流した。
「まぁ、これくらいは必要経費か」
「カードに比べたら安く思えますね」
魔物との戦闘のために武器は必須だ。
市場に戻り、ショートソードを五十グランで購入した。
正直に言って剣にいい思い出はないが、置いてある武器で俺が扱えそうなものはこれしかなかったのだ。
「……魔物はまだいいんだがな」
「バエルさん?」
「いや、何でもない。エルドラードに向かおう」
残る懸念点はもう一つ。
願わくば、次の遭遇までに見つけたい。
——サキュバス撮影者、リースへの対策を。




