表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/38

21話 謎の女




「あなたの適性検査の結果は出ています。——適性なしと。ならば、なぜバエル殿は魔導撮影機(アルカ・グラフ)を所持し、使用できているのか。私にはそれが不思議で仕方がない」


 バルトスは、まるで演説でもするかのように手を掲げる。

 召喚(サモン)カードの話よりも、どこか熱がこもったような口ぶりだった。


「魔導撮影機にはそれぞれ名前があり、個性も備わっています。例えばあなたが対決した者の持つ撮影機は、栄光(グロリアス)()探求者(シーカー)でしたね。バエル殿、あなたの撮影機の名前はなんというのでしょうか? 私は……ものすごく興味があります」


 どんどんこちらに迫ってくるバルトス。

 その瞳にはギラついたものを感じる。


 ……名前、ね。

 そんなもの、俺が知りたいくらいだ。


「すまないが、撮影機の話ならば明かせない。知っての通り、俺はこの国の人間じゃない。俺の国では、撮影者の情報は容易に明かさぬよう義務付けられている。それを破るわけにはいかないな」


 咄嗟に考えたブラフだ。

 しかし仮にも、二人は一国を預かる王と神官長。

 他国のルールには口を出してこないだろう。


「——もし撮影機を数日貸していただけるなら、三千グランをお渡しします」

「三千、グラン!?」

「ええ。あまりいい宿には泊まっていなかったようですね。あなたにとっても、これは悪い話にならないかと」

「……」


 当分遊んで暮らせるだろう大金。

 俺が普通の撮影者だったら、喜んで貸していたに違いない。


 だが、それでも——

 

「——例え命令でも、この撮影機だけは渡せない」


 それだけは。

 いくら金を積まれても、それだけは首を縦に振ることはできなかった。


「ハハッ。随分と嫌われたなぁバルトス。今のお前、見苦しいぞ。もう諦めろよ」

「ぐっ……」


 バルトスは眉間にしわを刻み、苦々しく顔を背けた。


「それにバエルも、召喚(サモン)カードは渡してくれるそうじゃないか。魔導撮影機(アルカ・グラフ)は撮影者にとって、命の次に大事なものだ。簡単に渡さないバエルに、私はますます信頼感が増したな」


 俺のポケットへの視線は、そこでようやく外れた。


「こいつは昔から研究一筋でな、一つのことに集中すると止まらないのだ。私の顔に免じて許してやってくれ」

「別に気にしてない。……悪いな、バルトス」

「……いえ、神官長などと肩書きだけ。私もまだまだですね。バエル殿にはお詫びしなくてはなりません」


 バルトスは礼儀正しく、深々と頭を下げた。 

 神官長という肩書きに嘘はないらしい。


「バエル殿もご存知かと思いますが、コモンカードは神殿で生成されております。民の生活水準を上げるためにも、カード研究を少しでも進めたいと思うと、つい……」

「いや……いいさ」

 

 初耳だが、それで驚く暇はない。

 魔導撮影機(アルカ・グラフ)を手に、取り出したカードを見る。


 少しの間、目にその姿を焼き付けた。


 ……ドラギアス。いつか、またな——


「大切なカードだ。……よろしく頼む」


 そんな希望を、カードに込めた。


「……確かに。丁重に取り扱うのでご安心を。それと、手続きされていたクレドカードをお持ちしました」

「もう出来たのか」

「バエル! キミの協力に感謝する。ほんの少しだが、私からの礼だ。——“クレド”!」


 レギウスがそう声に出すと、俺のカードにも光が灯った。

 使うように促される。

 

「“クレド”!」


 俺の手元のカードから溢れた光が、空中に薄い窓を描いた。

 その中には、残高:千グランと記載されている。


「お、おい! こんなに受け取っていいのか」


 これがあれば、以前に市場で見たようにキャッシュレスでの支払いが可能になるが……


「なぁに、私のポケットマネーだ。キミには迷惑をかけた分の詫びもある」

「受け取ってくださいバエル殿。レギウスはそれだけあなたを買っているのですよ」

「ハハハハ! バラされては仕方ないな! 今日の要件は以上だよ」


 レギウスはひとしきり笑うと、俺たちに背を向け歩き出した。

 振り返らず、そのまま片手を挙げる。


「——バエル。また会える日を心から楽しみにしている」


 その場に残ったバルトスが「……はぁっ」と大きなため息をついた。

 ……この男も、相当苦労してそうだな。


「あの通りのお方です。またいずれ遣いが行った時は、お手数ですがよろしくお願いします」

「ああ、何かあれば連絡してくれ」

「あなたに、導神のご加護がありますよう」


 こうして話は終わり、セツのいる部屋に戻った。


「……スゥ」

「まだ寝てたか」


 今になって思い返す余裕ができた。

 結局、セツのことは何も聞かれなかったな。


 あの騒動のわりに追及されないということは、神殿側でも単なる不具合として処理されたのだろうか?


「……俺もあまちゃんだな」


 希望的観測だということは重々承知している。

 とはいえ、懸念していた嵐は一旦過ぎ去った。

 そう思ってもいいかもしれない。


「んん……バエ、ル……さ」 

「——いつか、記憶が戻るといいな」


 安心した途端、ふと口から漏れた呟き。

 ……だが、それは高望みなのだろう。


「……あれ? バエル、さん?」

「おはよう。要件は済んだ」

「あ、あれ? そうなんですか」


 名残惜しそうにベッドを見ているセツだったが、それも少しの間だけ。


「行きましょう、バエルさん」

「ああ。帰ろう」

 

 ここで得られたものは多い。

 まずは無事を伝えるために、いつものタマリバに向かった。




◇◇◇




「よーうバエル! お前さんなら大丈夫だと思ってたぞ俺は」


 テマリバナに入った途端、奥からいつもの大声に出迎えられた。


「「えっ! バエル!?」」


 全ての客の視線を釘付けにした確信がある。 

 各テーブルからはひそひそと声が聞こえるが、それを無視して定位置となったカウンターへと腰掛けた。

 

「ひぇぇ……あの人かぁ、SSRを使う召喚士バエル。ドラゴンの次は何を呼び出すんだ?」

「ばっか! バエルは何だって召喚できるのさ。風の噂じゃ、レギウス王が軍に登用するって聞いたぜ」

「ドラゴンサモナーってあだ名、誰がつけたんだろう? 格好いいよな!」


 どうやら朝の騒ぎに尾ひれがついて噂になっているらしい。

 ここ一週間でタマリバの常連とは、なりたての撮影者だと正直に伝えて多少打ち解けていたのだが。


「よう、有名人」

「芸能人が人ごみを避ける理由ってのが少しわかった」

「あぁん?」


 セツの定番メニューとなったランランベリーシリーズは、おっさんの厚意で今は第四弾まで用意されている。

 今日はランランベリーのキッシュのようだ。

 準備はしていたのか、すぐに甘い香りが漂ってきた。


「今日のも自信作だぜ!」

「いい匂い……で、ではいただきます」


 小さく切り分けると、口に入れる度に頬が緩んでいく。

 セツの目には、しばらくキッシュしか映らないだろうな。

 おっさんはそれを見てニコニコしていたが、何かを思い出したように手を叩いた。


「そういやさっき、お前を探している人が店に来たぞ」 

「俺を?」


 おっさんは俺を見てニヤニヤとしている。


「バエル。興味なさそうな顔して、お前さんも隅に置けねぇなぁ。まぁ、俺も男だし気持ちはわかるが……ほどほどにしとけよ?」

「は? 悪い。話が呑み込めないんだが」


 おっさんが俺の耳元で小声で(ささや)く。


「女、だよ。それも極上のな。セツの嬢ちゃんにはバレないようにしろよ」

「……」


 俺に客だと?


 そもそも知り合い自体が少ない。

 その中でも、女性の知り合いなんてセツを除いて一人もいないんだが。


 王城に行っている間に、ここに誰が来た?


「いつ戻るかわからなかったから、一応お前さんたちが泊まっていた宿屋を教えておいた。……バエル、今夜は男を見せろよ?」

「その下品な顔をやめてくれ」

「下品とはなんだ! ったく!」

「何が下品なんですか?」


 ゆっくりと半分ほど食べたセツが、話の内容が気になったのかこちらを見ていた。


「ああいや、何でもない」

「?」

「ほらよ!」


 こんな話をしながらもおっさんの料理を作る手捌きは見事なもので、あっという間に俺の前にも料理が置かれた。


「折角だからサービスしてやりてぇところだが、生憎と仕入れられなかったからな。まぁ普通の飯で我慢してくれ」

「今日のおっさんの話は意味不明だな」

「ったく! こっちはあれだけ大変だったってのに。あんないい女、いつの間に見つけたんだか」


 どうやら虫の居所がよくないようだ。

 無事だったと報告はできたし、飯を食ったら早めに切り上げよう。




◇◇◇




「すっかり暗くなっちゃいましたね」


 隣を歩くセツは満足そうな顔をしている。

 なんだかんだでテマリバナに長居してしまった。


「ただいま。……なんてな」


 慣れ親しんだ安宿は、変わらずに俺たちを迎えてくれる安心感がある。

  

「今の俺たちには千グランがある。明日は市場に行ってみよう」

「いいカードが見つかるといいですね」

「ああ。朝から出るから今日は早めに休もう」

「わかりました。おやすみなさい」


 今日は色々あって疲れた。

 セツもいつも通り、すぐに寝息を立てている。


 俺も限界だ。

 自然に力を抜き、ベッドに入ろうとした。


 その時。


 コンコン、と音がした。

 宿屋の主人だろうか。


 重くなりかけていた頭を強引に起こし、扉を開けた。 


「……こんばんは」


 女だ。


 綺麗な桃色の髪が腰まで伸びている。

 大きな胸元を強調し、形のいい縦長のへそを見せた服装がとても似合っていた。

 露出が多いのに、それを下品には感じない。

 その腰つきに、痛いほど視線が吸い寄せられる——


「っ……!」


 これ以上はヤバい!

 本能が叫んでいても、その姿から目が離せない。


 背中から見えたのは、腰から突き出た黒い翼。


 ……人間ならざる者。


 王都に来たばかりの頃に、俺は一度この種族と出会っていた。


 ゆっくりと、扉が閉まる。

 いつもの宿なのに、まるで監獄のような寒気がした。


 ——もう、逃げられない。


「ふふ。あなたがバエルね」


 夜の女王——サキュバスが怪しげな笑みを浮かべていた。


お読みいただきありがとうございます。


アルカディア城での試練は終わり、物語の舞台は新展開へ——

夜の宿、バエルの前に現れた女性の正体とは!?


面白かった、続きが気になる!

そう思っていただけたなら、評価やブックマークをいただけると嬉しいです。


次回は7/1に更新予定です。

感想もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ