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17話 原初の召喚者




 ギギッ……ガギィィィイイイン!! 


 竜たちの怨念を宿した刀身が、ギリギリで間に合った俺の剣を一撃で弾き飛ばした。


「——ッッツ!!」


 鼓膜を突き刺すような金属音が全身を通い、一瞬だけ意識を手放しかける。

 だが脳が咄嗟に、危険信号を各所へ送り出してくれた。

 

「チィッッ! 仕留め損ねた。次はテメェの首をもらう」


 ヴォティスの顔には汗の一滴も見当たらない。


「……ッ! なるほどな……これが」


 ——これが、撮影者のカードの力。

 

「え、えーっと。な、何やら雲行きが怪しすぎる会話が行われていましたが? 実況はしっかり続けさせていただきまぁす! 挑戦者バエル、絶体絶命かぁ!?」


 ザワワ……


 観客のざわつきは、次第に闘技場に広がっていく。

 どうやら、ヴォティスの本性を告げる声が観客にも届いていたようだ。

 

「ハッ! 何か策があるのかと思ったが、所詮ゴミはゴミだったな。これでテメェには、もう何もねぇ!」


 それを気にした様子もなく、ヴォティスは狂気に満ちたドス黒い笑みを浮かべ続けている。

 その醜い姿は、英雄ではなく、もはや——


 ……答えは得た。


 もう、十分だよな? ドラギアス。


「——俺には、カードさえあればいい!」


 そうだ。

 いつだって、俺はカードと共に生きてきた。

 しばらく離れてしまっていたが、もう二度と——!


「テメェは知っちゃいけない領域に入っちまった。もう終わりだよ、テメェ」

「……ああ。終わりにしよう」


 カードを一枚取り出し、ヴォティスに見せた。


「——もう、容赦はいらないな!」

「それがご自慢のカードってかぁ、ハハッ! 冥土の土産にドラゴンキラーの真の力を教えてやるよ。テメェのように剣は素人、動きもなっちゃいねぇ。そんな撮影者が使うとしたら十中八九、魔法カードだろ?」


 その本性を隠そうともせず、手を掲げて高笑いをした。


「ヒャーハハッッ!!! ざぁぁぁぁんねんだったなぁ!! ドラゴンキラーは、一振りでどんな魔法攻撃でも無効化するんだよぉぉぉ!!!」


 再び剣を振りかざしこちらに襲い来る——!


 その狂気が張り付いた表情を、これ以上見ていたくない。


 ……カードを装填し、静かに目を閉じた。


「スリーブにすら入れてねぇ雑魚カードじゃ、どのみち関係ねぇだろうがなぁぁぁああ!!!」


 天に、魔導撮影機(アルカ・グラフ)を掲げる——


「——“ドラギアス”!!!」


 キィィィィィィン!


 その名を叫んだ瞬間、カードが呼応するように強く脈打った。


「な、何ぃぃ!?」


 ヴォティスの渾身の一撃が、出現した魔法円に吸い込まれるように宙を斬る。


「は!? 何だ!? 何が起こって——」


 ヴォティスが見上げた先。

 上空に描かれるは、六芒星——ヘキサグラム。

 中心から溢れだした光が、その勢いで闘技場を包み込むように拡散していく。


「挑戦者バエルがカードを使いました! ですが、これは——」


 突如、ピキッと、ヘキサグラムに亀裂が走るような音。

 中から溢れ出した粒子が天へと昇り、瞬く間にその姿を形作る——


 ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴ!!!


「後は……任せた」

 

 俺の言葉は彼方へと消え去り、役目を終えた魔法円が消滅した。

 その後に残されたもの、それは——


「あわわ……み、みなさま……わ、私の目がおかしいのでしょうか? あ、あれは——」


 司会の声が途中で途絶えた。


「——ド、ドドド! ドラゴン……だとぉぉぉおおおおお!!!??」


 太古の伝説が闘技場に顕現した。

 誇り高き翼が、邪悪なる鎖から解き放たれたように風を切る。

 逆鱗に触れた者へ向ける眼差しが、己が討つべき対象を見据えていた。


「な、なぜだ! 俺のドラゴンキラーは、魔法を無効化する! なのにぃぃぃ!! どうして!!?」

「これは、魔法カードじゃない。——召喚(サモン)カード」

「サ、召喚(サモン)カードぉぉ!?」

「……覚悟はいいよな? ヴォティス」


 竜の口元に、灼熱のように滾る熱源が宿った。


「——ひっ! や、やめろ!!」


 ——やってくれ、ドラギアス!


失われし(ロスト・)劫火炎(カルパ・フレア)!!」


 ブワァァアアアアアアアアアッ!!!!


「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」


 英雄のものとは思えない絶叫が闘技場全域に鳴り響いた。

  

 劫火(ごうか)がヴォティスの魔導撮影機(アルカ・グラフ)を襲う。

 それは、決して消えない炎。 


 ——ドラゴンキラーのカードを灰燼(かいじん)に帰するまで。

 

「終わりだ。ドラゴンキラー」


 やがて劫火(ごうか)が収まり、場内に蔓延していた煙が消えていく。

 そこには、微動だにしないヴォティスの姿が残されていた。


 それを見届けたようにドラギアスの姿が粒子に戻り、少しずつ薄れていく。

 数多の命を吸って生まれたカードは、もうこの世界に存在しないのだろう。

 地獄から蘇った竜が、ようやくこの世の未練に決着をつけたのだ。


「え……えっ! ぁ……あ……!」


 しばらく沈黙を続けていた実況のニャキオーンが、ようやく声を上げた。

 途中まで英雄の名を叫んでいた観客たちは、誰一人、声を出せないでいる。

 ボロボロになり地に伏せたヴォティスの顔には、信じられないものを見たような無様な表情が張り付いていた。


「け、け、け! 決着——!! ま、まさかの……あっ! す、すみません! えと、えーと!! 決闘(デュエル)の勝者は! 挑戦者、バエルー!!!」


 ……オオオ!!


 ワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!


 ヴォティスが登場した時を遥かに凌ぐ大歓声が、闘技場内——いや、闘技場を飛び出し王都に響き渡った。


 ……バエル! バエル!! バエル!!!


 本来その歓声を浴びていたはずの英雄の姿は、もうどこにも存在しない。


 手元のカードを見る。

 そのテキスト欄には、新しく『封印』の文字が浮かんでいた。

 これまで見えていた部分は暗く沈み、少し消えかかっている。


「そっか」


 ドラギアスは、もう二度と呼べないのかもしれない。

 それでもイラストの竜は、どこか穏やかな顔をしていた。

 

「……お疲れさん」

 

 カードを軽く撫でてカバーにしまった。


 これからの生活は、今までのようにはいかないだろう。


 魔導撮影機(アルカ・グラフ)を晒した俺にも、試練が訪れることは間違いない。


 だが、何が待ち受けていようとも俺は俺だ。

 自身の考え方、生き方が、大きく変わるわけじゃない。

 

 ——それでいいだろ? ドラギアス。 


 幻想の声が、カードから聞こえた気がした。


いつもお読みいただきありがとうございます。


VSヴォティス——決着です。

次回で二章完結、そして物語は三章へと続いていきます。


少しでも面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークをいただけると執筆の励みになります!

また、感想もお聞かせいただけると嬉しいです。


今後もバエルたちの物語をお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
ドラギアスの復讐で幕を閉じましたか! でも最強カードが封印されたら…… バエルには厳しい道が待っていそうですね。 続きも楽しみにしています!
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