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14話 覚悟の証




「……おっ! うわ、本当にいるじゃん!」


 先頭から現れたのは茶髪の男だ。


「だから言っただろう」


 続く長身の男は、俺たちと背後にいるドラゴンを見やる。


「……貴様らも来たか」


 黒いローブの二人を目にした竜が、殺気立ったような声で唸った。


「へー! こいつが封印されてるっていうドラゴンか。なんもできないってわかってれば怖くねぇな、ハハッ」

「いい加減にしろ。それよりこっちだ」

「へいへい」


 長身の男が入口へ向けて腕を掲げた。

 見ると端末を装着している。


「“クローズ”」


 出入り口が半透明な膜に覆われ、封鎖されていく。

 ……これで逃げ道が塞がれたか。


「誰だ、お前ら」


 俺の声に反応した茶髪の男が、チッと舌打ちをする。


「いやそれこっちの質問なんだけど。どうしてこの洞窟に入れた?」


 ドラゴンの態度から察してはいた。

 こいつらは事情を知っている。

 それも、おそらく元凶に近い立場にいるヤツらだ。


「セツ、俺の後ろに隠れてろ」

「は、はい」

「いやキミさぁ、人の話聞いてる? ……聞いてないよねぇ!」


 ゴォッ!


「ッ!!」


 茶髪の男の側から、突然火球が襲いかかってきた。

 セツを引き寄せ横に避ける——


「ったく、ダメだろ〜人の話を無視しちゃさ。それで、キミらは何者? なんでここにいるの?」

 

 ゾクリと背筋が冷える。

 今の火球……おそらく、これもカード。


 この男は、人への攻撃を躊躇(ためら)っていない。


「その辺にしておけ、ゲイル」

「あぁ? なんだよズール、もう遊びは終わりかよ」

「私たちは遊びに来たわけではない」


 ゲイルと呼ばれた男が、長身の男——ズールに嗜められて黙った。


「貴様たちは、どうしてこの洞窟に入れた」

「ギルドの依頼でここに来ただけだ。お前らみたいな連中とはなんの関係もない」

「残念だがそれは通用しない。私たちの姿、そしてこの洞窟の秘密を見られたからには、貴様たちはもう無関係ではないのだ」


 声に一切の冗談は感じない。

 ゲイルよりは話が通じるかと思ったが、見誤ったか。


 その瞬間、二人が同時に腕の装着具にカードを差し込んだ。


 ——こいつらは、初めから俺たちを生かして返す気がない!


「セツ!」


 叫ぶのとほぼ同時だった。


「「“ファイアボール”!」」


 ゴォッッ! と火球が直線上に二つ、俺たちめがけて飛んできた。


 ——先ほどまでよりも速い!


 くっ……間に合え!


「——“アクセル”!」


 その瞬間、俺の足は弾丸のように加速した。

 セツの身体を抱き上げ、そのまま横抱きにして跳んだ。


 ズガァッ!!!


 目標を見失った火球が岩壁にぶつかり消滅していく。

 あんな攻撃、直撃したらただじゃ済まない。


「ちょ……バエルさん!?」

「悪い、緊急事態だ——」

「……わかっては、いますけど」


 迷っている暇はない。

 どこか身を隠す場所はないか!?


 ——あれだ!


 先ほどの攻撃により、壁から崩れた大きな岩が地面に落下していた。

 あの後ろなら火球を凌げるはずだ。


「ハハッ、速いねぇ。ほらほら攻撃してみなよ」

「お喋りはやめろゲイル。あれを出せ」

「へいへい。ホント人使いが荒いよなぁ」


 ハァ……ハァ!

 セツを降ろし、息を整える。

 時間稼ぎにしかならないが、これでどうにか——


「“ウインドカッター”!」


 キィン!

 

 空気を切り裂くような鋭い音に、反射的にセツの肩を掴んで後方へ飛んだ。


 バギッッと嫌な音がした。

 横目で流し見ると、数秒前まで隠れていた岩が深く抉れている。


「——シャレにならねぇぞ!」

「……どうして反撃しない!!」


 竜の声が場に轟く。


「お前、撮影者なのだろう?」


 ……わかってるさ。

 俺だって、できることならしたい。

 だけど——


「……攻撃できるカードが、ねぇんだよ!」


 思わず吐き捨てるように叫んだ。

 肺が空気を求めて、脳へと信号を送る。


「お前は、それでも戦っていたのか……」

「ハァ、ハァ……セツを、セツ——」


 もうあの森のような光景は見たくない。

 俺が……俺が連れ出したんだ!


 こんな絶望的な状況でも、セツだけは守らないと——


「おいおいそれ、俺らに聞かせていいの? 警戒する意味なんてなかったじゃねーかズール。もう殺そうぜ」

「ふぅ。取り越し苦労か」


 黒いローブの二人が俺たちに向かって歩き出した。

 顔に浮かぶ邪悪な笑みを隠そうともしていない。


 その時、身体に鉛を流し込まれたような重さが戻ってきた。

 ……アクセルの限界時間か。


「……っ」


 横でセツが短く息を呑んだ音が聞こえた。

 その身体が震えているのは、見なくてもわかっている。


「“ストレングス”!」

 

 カードが光る。

 なら、なら! もう肉弾戦に持ち込むしか——


 その時、洞窟全体を揺るがすほどの轟音が反響した。

 ズールとゲイルが、ハッと顔を上げる。


「——まさか!」


 竜の全身に刻まれた紋様が乱れ、光り輝いていた。


「ぐっ……!」

 

 その喉奥から、苦しげな声が漏れ続けている。 


 ギギギ……ギラ……ギギ!!


「ぐぅぅぅ……!!」


 だが、それでも竜は止まらない。

 翼を縛る鎖が、限界まで張り詰めて悲鳴をあげた。


「バエル……貴様らに、賭け、る!」


 ガギィン!!


 一本、二本と鎖が弾け飛んだ。


「お、おいどうするんだよズール! こんなの聞いてねぇぞ!!」

「私だって知らん! よ、よせ! 止まれ!」


 慌てふためく二人を前に、鎖に縛られていたはずの竜が動き出した。

 その瞳が、ゲイルとズールを射貫く。


 ゴォ……ゴォォォッッ……!


 ドラゴンの口元へ赤熱した光が集まる。

 もはや限界であろう喉奥から、それでも確かに炎が絞り出されていた。


「あんた……」


 俺には、それが命を代償にしているようにしか思えない。


「バエル。お前が撮影者なら……できるはずだ」


 こちらを見る黄金の瞳には、怒りも、憎しみも感じない。


 ただひたすら、揺るぎない覚悟だけが宿っているように見えた。


 ……俺に、できる、こと。


「…………バエルさん!」


 セツの叫びで我に返った。

 その時、頭の奥にまたあの感覚が奔る。


 ——撮影しろ。


 ぐっ……!


 これは理屈じゃない。

 俺はこの瞬間を、決して見逃さない——


 サッと魔導撮影機(アルカ・グラフ)を構えた。


「オオオオォォオオッッ!!!」


 ドラゴンの咆哮。

 ……恐らくは、その生涯で、最期の。


 ドバァァアアアアアアアッ!!!


「────!!」


 洞窟を埋め尽くすほどの灼熱。

 防御も、悲鳴も、その劫火(ごうか)の前では意味をなさない。


 カシャッ!!


 光と共に生まれたカードが宙に浮かび、やがて手元へと降りてくる。


「……ッ!」


 俺は静かに、竜の覚悟の証を掴み取った。


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