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雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!  作者: 三沢ケイ


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8.因縁の対決(3)



「そんな顔するな。一晩中、返したくなくなる」

「それは──」


 どういう意味で言っているのかを悟り、エノレアの頬が熱くなる。


「赤くなって可愛いな。安心しろ。エノレアの嫌がることは無理強いしない。それより座ってくれ。大事な話がある」


 レニオスはエノレアの肩を抱くと、部屋にあるソファーに座るよう促す。エノレアが座ると、彼はエノレアとテーブルを挟んで向かい合うように座った。


「エノレア。きみは父親が木こりだと言っていたが、彼は実の父ではなく養父だな?」

「え? はい、そうですが……」


 レニオスが切り出した話に、エノレアは戸惑う。

 隠しているつもりはなかったが、言う必要もないので一度も話していないはず。それをどうしてレニオスが知っているのかと、訝しく思う。


「実は、ひょんなことからエノレアの実の家族が誰なのかわかった」

「……っ!」


 エノレアは息を呑む。


 実の家族。

 その言葉は、どこか遠い世界の話のように感じられた。


 ガレスに出会うより前の記憶はほとんどない。覚えているのは、雪山に捨てられて絶望していた、あの日の記憶だけだ。

 もしガレスがエノレアを見つけて助けてくれなかったら、自分は間違いなく死んでいただろう。


「正直、家族が見つかったと言われても実感がありません。私にとっての家族は、父だけですから」


 これは、心からの言葉だ。

 けれど、今こうしてレニオスがエノレアを呼び出してこの話をし出したということは、エノレアが知っておかなければならないことが、何かあるのだろうと予想が付いた。


 エノレアは、膝の上に置いた手をぎゅっと握る。


「いったい誰なんですか? 私を捨てた、家族だった人たちは?」

「この話は、エノレアにとって辛いものになるだろう」

「わかっています。それでも話す必要があるからこそ、私を呼んだんですよね?」


 エノレアはまっすぐにレニオスを見る。レニオスはエノレアの覚悟を感じ取ったのか、小さく息を吐いた。そして、テーブルの上に折れ曲がった書類の束を置く。

 何度も読み直したのか、書類は角が折れてぼろぼろになっていた。けれど、文章は問題なく読める。


「これは暗号?」


 見た瞬間に、懐かしさを感じた。

 幼い時、ガレスと一緒に遊びながら覚えた暗号形式が使われていたから。

 それに、文字にも見覚えがあった。


「……これ、お父さんの文字? そうですよね? どうしてお父さんの手紙を、殿下が──」


 わけが分からない。

 けれど、まずは内容を読まなければ。そう思って、エノレアは書類を読み進める。

 書いてある内容は、権力にすり寄るために家族がエノレアを利用し、見捨てたという信じがたいものだった。


「それは、俺が別件について世界最高の諜報機関──フォレストに依頼した際に、報告書と一緒に託されたものだ」

「フォレスト?」


 その名は、王都に来てから少しだけ聞いたことがある。

 どの国にも属さない少数精鋭の、世界最高の諜報機関。そして、その諜報員の頂点に君臨し続ける伝説の諜報員は──。


「きみの父親、〝伐採(リーパー)〟がこの仕事を受けた」

「お父さんが、伐採?」


 にわかには信じられなかった。

 だって、エノレアにとってガレスは〝ただの木こり〟であり、〝頼れる大好きなお父さん〟なのだから。

 しかし、この文字にこの暗号の作り方には確かに見覚えがあった。ガレスのものに、間違いない。 


「きみの本当の名は――エノレア・ロングレイン、前ロングレイン侯爵の婚外子だ」

「ロングレイン……。リリアナ様の?」

「ああ」


 レニオスが頷く。

 頭にずきっと痛みが走る。


 遠い記憶に、『お姉さま』と言って笑いかけてくる小さな少女と、彼女と手をつなぎながら睨みつけてくる老婦人が蘇る。


『本当に忌々しい!』


 冷ややかな視線を浴びせられ、理由もなく罵声を浴びせられた、


「……私はロングレイン侯爵令嬢?」

「ああ。記録を調査したところ、エノレア・ロングレインが雪山に捨てられた日と、きみが父親に拾われた日は一致していた。間違いない」

「そんな……」


 一時期だけ、青嵐宮でレニオスの専属侍女をしていたリリアナのことを思い出す。彼女はいつだが、エノレアと同じ名前の姉がいたと言っていた。


「でも……リリアナ様は、お姉様は亡くなったって……」

「そう聞かされていたのだろう」

「では、私がその……?」

「ああ」


 頭が追いつかない。

 けれど、これは事実なのだろうと思った。

 ガレスが嘘をついたことは一度もないし、レニオスもしかりだ。それに、彼らには結託してこんな嘘をつく理由が全くないのだから。

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