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雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!  作者: 三沢ケイ


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8.因縁の対決(2)

「あのパーティーで、たったひとつだけ毒が仕込まれたティーカップが置かれておりました。カップが置かれていたのは殿下のすぐ隣の席で、座っていたのはエノレア・ロングレインです」

「よく覚えているな。さすがだ。そのエノレア・ロングレインが今青嵐宮で働いているエノレアに間違いない」

「まさか、そんなことが──」


 絶句するエドガーに、レニオスは無言で頷いてみせる。まさか、ロングレイン侯爵がこんなに非道なことをしていたとは。


「エノレアは激しい精神的ショックを受けて、当時の記憶がないそうだ。だが、以前毒物混入事件で様子がおかしくなったことからもわかるとおり、全く記憶がないわけではない」

「あのとき様子がおかしかったのは、忘れていた当時のトラウマが蘇ったからだったのですね」


 エドガーは深いため息をつく。


「何もしていないのに、自分を守ってくれるはずの当主によって無実の罪を着せられて、たったひとりで雪山に捨てられたのです。無理もありません」


 その時のことを思い出したのか、エドガーの口調に怒りが混じる。


 エノレアは、ロングレイン家を聞いても、リリアナに会っても、特になにも異変は見られなかった。それなのに、毒物混入の現場に居合わせた際は激しく動揺し、『私じゃない』とうわごとの様に呟いていた。


「それで、我が君主はどうするおつもりで?」

「もちろん。それ相応の報いを受けてもらう」


 レニオスはにやりと笑う。


「伐採からの報告によると、第一王子はロングレイン侯爵と結託して俺を毒殺しようとしているそうだ。その機会を利用しよう」

「危険ではありませんか?」

「危険だからこそ、相手も油断する」


 レニオスはそう言うと、足を組む。

 ロングレイン侯爵はまだ、彼が第一王子と接触していることをレニオスは知らないと思っている。だから、それを利用するのが絶好のチャンスだ。



   ◇ ◇ ◇



 ふと時計を見ると、もう夕方の六時だった。

 三カ月に一度の御前会議が終わったこともあり、執務室はいつになく閑散としている。


「僕、そろそろ上がろっかな。エノレアはどうする?」


 きりがよいところまで仕事が終わったのか、オリバーは書類を閉じてトントンと机の上で揃える。


「私はもう少しだけ頑張ろうかな」

「そっか。あんまり無理しないようにね。エノレアはただでさえ働きすぎなんだから」

「うん、ありがとう」


 エノレアはにこりと笑う。

 オリバーが帰ってしばらくすると、執務室はエノレアひとりきりになった。


(もうすぐ七時……。今日は食事に誘ってくれないのかな)


 御前会議が迫っていたこともあり最近はお互い仕事が忙しく、ふたりで時間を過ごすことはなかった。 

 やっとゆっくり過ごせると思っていたのに、そう思って楽しみにしていたのは自分だけだったのだろうかとさみしさを感じた。好きだと告白されてキスをしたのは幻だったのかと思ってしまう。


(私も帰ろうかな。八時になると文官用食堂が閉まっちゃうし)


 あそこが閉まると、わざわざ城下まで食料調達しに行かなければならなくなるので死活問題だ。エノレアはすっと立ち上がる。

 そのとき、執務室のドアが開いた。現れたのは、エドガーだ。


「エノレア。まだ残っていましたか。ちょうどよかった、レニオス殿下からお話があるそうなので、行ってください」

「お話?」

「ええ、大事な話です」


 エドガーは頷く。

 

(大事な話って、なんだろう?)


 思い当たることがなくて、エノレアは不安になる。

 しかし、上司に命じられては断ることもできないので、その足でレニオスの執務室に向かった。


「第一級文官のエノレア・グレイです。失礼します」


 ドアの前で声をかけてから、恐る恐るドアを開けて中に入る。レニオスは、エノレアを見ると立ち上がった。


「エノレア」


 つかつかと歩み寄ってきたレニオスに、ぎゅっと抱きしめられる。


「ああ、久しぶりのエノレアだ。会いたかった」


 耳元で囁かれ、胸がきゅんとする。


「毎日会っているじゃないですか」

「会議や打ち合わせで顔を合わせるのは、会っているとは言わない」


 少し不満げに答えたレニオスを見て、 エノレアはくすくすと笑う。

 こんなふうに拗ねるところ見るのは初めてだけれど、不思議と嫌な気持ちはなかった。むしろ、愛おしく感じる。


「私もレニオス殿下とふたりで会いたかったです。今日は御前会議が終わったのに食事に誘っていただけなかったので、がっかりしていました」

「すまない。エドガーと大事な話があった」

「存じ上げています」


 にこりと微笑むと、釣られるようにレニオスも微笑む。どちらからともなく顔が近づき、唇が重なった。

 ふわふわとした多幸感に包まれる。

 このままずっと、この人とこうしていたいとすら思った。名残惜し気に離れる彼の唇を視線で追うと、レニオスは困ったように笑う。

【お知らせ】

なろうで連載した「無能魔女の甘すぎる誤算  成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが」を書籍化していただけることになりました。

書籍化に当たり、両想いになったリディアとレイの甘い夜のショートストーリーを加筆させていただきました。こちらも是非お楽しみいただけたら嬉しいです!


公式サイト⇒https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-632047-4

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