8.因縁の対決(1)
三カ月に一度行われる御前会議。
今回の会議でも、青嵐宮の成果は目覚ましかった。
貧民街で問題となっていた違法薬物の流通経路を突き止めたこと。
長年見過ごされてきた地方都市の横領事件を摘発したこと。
管轄地域の児童労働撲滅に向けて、子供を学校に通わせている民の税負担軽減策を講じたこと。
青嵐宮が成果を上げるたびに、その主であるレニオスの名声も高まっていく。
そして、それと共に「第三王子レニオスを次期王太子に」という声も高まっていく。
「レニオス殿下、今回の御前会議でも国王陛下に大層お褒めいただいたとか。おめでとうございます」
御前会議から戻って来たレニオスに先輩文官が祝辞を送る。
「ああ。お前たちの頑張りのおかげだ。感謝している」
「殿下……、ありがたきお言葉です!」
先輩文官は感激に目頭を熱くして、深々と尾頭を下げた。
忙しくとも、主が評価され、その主に感謝されるとやる気が増すものだ。ここ最近、青嵐宮はかつてないほど活気にあふれている。
「他の者も、よく頑張ってくれた。礼を言う」
レニオスがそう言うと、文官たちから歓声が上がる。皆、笑顔に溢れていた。
(みんな嬉しそう。私も頑張ってよかった)
エノレアは同僚たちの様子を見て、ほっこりする。
レニオスが評価されるのは嬉しいし、先輩たちが喜んでいるのも嬉しい。こころから、この職場に就職できてよかったと思った。
「レニオス様──」
エノレアはレニオスに声をかけようと近づく。しかし、同僚たちの歓声でその声は掻き消える。レニオスはエノレアの呼びかけに気付くことなく、近くにいたエドガーに声をかけた。
「エドガー、少しいいか?」
「はい」
「来週の視察予定だが──」
仕事の話を始めてしまったので、エノレアは立ち止まる。
(一緒に食事した際にお祝いを伝えればいっか)
今回の御前会議資料でも、エノレアは大きな成果を上げた。きっとレニオスは、エノレアを食事に誘ってくれるはずだ。
◇ ◇ ◇
レニオスはエドガーだけを呼び、自身の執務室に移動した。
「いやー、今回も国王陛下にお褒めいただいて喜ばしい限りですね。今年の新人は本当に当たりでした」
エドガーはにこにこの笑顔だ。
青嵐宮は今年度に入って目覚ましい成果を上げているが、特に大きな功績を上げているのが、働き始めてたった半年しか経たない新人文官――エノレアだった。
それに、オリバーもエノレアと比べると見劣りしてしまうものの、非常に優秀な新人だ。呑み込みが早く、教えればすぐにひとりでできるようになる。それに、頭の回転が速く、何かの議論の際も新人ながらしっかりと意見を言う。
つまり、今年の新人はとても優秀なのだ。
「エノレアのことを、どうせ不正をしたのだと決めつけて採用しなかった他の宮は、さぞかし悔しがっていることでしょうね」
「ああ」
「それに、平民上がりだとバカにしていた連中も、ぐうの音も出ないでしょう」
「……それについてなのだが」
レニオスは少し沈黙してから、テーブルの上で両手を組んで、エドガーを見た。
「エノレアだが、平民ではないかもしれない」
「はい? しかし、彼女は木こりの──」
「ああ。以前彼女について調べた際、元は捨て子だったと記載されていたことを覚えているか?」
「はい。……もしや、貴族の隠し子なのですか?」
エドガーは体を前のめりにする。
貴族が家の外に愛人を囲うことはよくある。その愛人たちが子供を産んでも認知せずに、むしろ厄介払いとばかりに縁を切るような輩は、残念ながら一定数いるのだ。
「隠し子ではない。きちんと認知されていた。これを見てくれ」
レニオスは、ポケットから少しこれ曲がった紙の束を取り出す。
「なんですか、これは?」
エドガーは怪訝な顔をしつつも紙の束を受け取る。
「フォレスト最高の諜報員──伐採による報告書だ」
レニオスは静かに告げる。
エドガーは何か重要なことが書かれているとすぐに悟り、静かにその書面を読み始めた。はじめは眉間にしわを寄せて難しい顔をしていたエドガーの表情が、みるみるうちに怒りに染まっていく。
「これが本当であれば、ロングレイン侯爵は許されないことをしました。権力のために、血のつながった一族の少女を生贄にするとは」
エドガーは怒りで顔を赤くする。
「薄っすらと記憶に残っていた事件について、改めて過去の資料を調べた。当時、俺の将来の側近や婚約者候補を探すために高位貴族の子供集まるガーデンパーティーが開催されていた」
「よく覚えております。私が殿下に初めてお会いしたのも、そのパーティーでしたから」
エドガーは頷く。




