6.伝説の諜報員、再び(5)
◇ ◇ ◇
執務机に向かって仕事していたレニオスは、仕事がひと段落して顔を上げる。
「もうこんな時間か」
時計を見ると、そろそろ昼食の時間だ。まもなく、使用人が食事を運んでくるだろう。
カレンダーを確認すると、エノレアが実家に帰って間もなく一週間が経とうとしていた。
(エノレアは今頃、何をしているだろう)
快活な彼女のことだから、療養しろと言ってもじっとなどしていないだろう。
(熊に遭遇していなければいいのだが)
何回か熊と戦ったことがると言っていたが、そんなにも熊が出没する地域なのだろうか。彼女がいくら運動神経がいいと言っても、いつ大怪我をするかわからない。
それに、食事をきちんととっているかも気になった。
エノレアによると、彼女の養父は食事に無頓着で胃に入って消化できればなんでもいいというタイプだったようだ。
「心配だな……」
近くにいれば、自分かきっちり彼女のことを見てやれるのに。
そんなことを考え、レニオスはハッとする。
「俺は何を──」
最近、気づけはエノレアのことを考えている自覚はある。
彼女がいれば気持ちが和み、いないと心配でたまらない。今までにない感情に、戸惑いを隠せない。
「まさか、俺はあいつが好きなのか?」
好きか嫌いかを選べと言われれば、好きであることは認める。しかし、それは優秀な部下として気に入っているという意味だ。
だが、この〝好き〟は気に入っているとは違う感情であると、はっきりと感じた。
なぜなら、エドガーのことも気に入っているが、こんなふうに四六時中気になることなどないのだから。
ごつんと額を執務机に打ち付ける。
「嘘だろ……」
まさか自分が部下に好意を抱くとは。
エノレアが戻ってきたらどういう態度で接すればいいのかと、戸惑いを隠せない。エノレアが相手なら、やっぱり美味しい食事に誘うのがいいだろうか。
そんなことを考えていると、コツコツと窓をたたく音がした。
(なんだ?)
窓のほうに歩み寄ると、一匹の見慣れない鳥がいた。鳥の種類はわからないが、鷹くらいのサイズだ。
鳥は紫色の瞳でジッとレニオスのほうを見つめている。
その鳥の様子が気になり、レニオスは窓を開ける。
すると、鳥はパタパタと羽ばたき、レニオスの執務机に止まった。次の瞬間、鳥の上部に狐面を被った女の画像が浮かび上がった。
『フォレストにご依頼ありがとうございます。厳正なる検討の結果、お客様のご依頼を受諾いたしますことをお知らせします。着手金十万ゴールドは三日以内にご用意ください。成功報酬はその十倍をいただきます。なお、当機関の任務は原則として着手金の受領を以て開始しますが、本件に関しては任務開始まで一カ月のお時間をいただきますのでご了承ください』
画像は女がしゃべり終わるのとほぼ同時に、忽然と消え去る。
鳥は羽ばたいて、窓の外へと消えた。
「あれは、使い魔か?」
レニオスは呆然と鳥の姿を見送る。
使い魔は、一部の優秀な魔術師だけが使う伝書鳩のようなものだ。術者の意のままに動き、与えられた役目を果たすほか、遠い場所との通話のようなこともできる。
王宮にも魔術師はいるが、使い魔を持っている者は殆どいない。
さすがは世界最高の諜報機関──フォレストだ。
「全部で百十万ゴールドか」
そこそこ大きな領地の年間予算に匹敵する額だが、青嵐宮の財力であれば払えない額ではない。
なにより、確実に黒幕を探し出し証拠を掴んでくれるのであれば、安いものだ。
【お知らせ】
なろうに掲載している作品のコミカライズ1巻が発売されました。よろしくお願いします!
タイトル:偽りの錬金術妃は後宮の闇を解く(1)
漫画家 :大橋薫先生
レーベル:小学館 フラワーコミックスα
公式サイト⇒https://yawaspi.com/itsuwari/index.html




