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雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!  作者: 三沢ケイ


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1.雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる(4)

 辺境の森で木こりをしているガレス・グレイは、薪を担いで夜の雪山を歩いていた。

 今年は特に雪が多い。備えていた薪が足りなくなる家庭が続出し、仕事は引く手あまたなのだ。


 今日の山と自宅の往復も、これで四回目だ。通常の木こりなら一往復がせいぜいだろうが、ガレスは雪山訓練を受けた経験があるのでなせる業だ。


「さすがにこの雪山を四往復するとくたびれるな。……ん?」


 ガレスは足を止めた。


「今、何か聞こえたか?」


 既に日は暮れ、時刻は夜の七時近い。まともな人間なら、こんな時間まで山に残っていることはない。


「気のせいか」


 そう思って再び歩き出そうとしたとき、今度ははっきりと聞こえた。「誰か、助けて!」とか細い声が聞こえたのだ。


「まさか、遭難か⁉」


 ガレスは声が聞こえた方に向かって走り出す。

 その途中、雪の上に小さな足跡が残っているのを見つけた。


 ガレスはその足跡に自分の手のひらを重ねる。


「随分小さいな……」


 そうして足跡を追って辿り着いた先で見た光景に、ガレスはヒュッと息を呑んだ。


「おいおいおい。なんでこんなところにガキがいるんだ?」


 そこには、まだ十歳にもなってなさそうな小さな女の子が倒れていたのだ。


「おい! おい! お嬢ちゃん、生きてるか? おい!」


 ガレスは倒れている少女に声をかける。いつから倒れていたのか、水色のドレスには薄く雪が積もっている。


(こいつは、もう駄目かもしれねえな……)


 ここは、雪の降り積もった山奥だ。こんな子どもが、ましてや薄着のドレス姿の少女がひとりで来られるような場所ではない。格好を見れば、麓の町の子供が迷い込んで帰れなくなっているわけではないことは、すぐにわかった。

 つまり、この子がここにいるのはろくでもない事情があるはずだ。


「……あー、くそ! どうするかな」


 ガレスは眉間にしわを寄せる。

 

 下手に首を突っ込めば、ろくでもないことに巻き込まれるかもしれない。

 そのまま見なかったことにして帰る。それが一番賢い。

 山で見つけた厄介事に首を突っ込んでも、得などない。


 頭の中ではそう分かっているのに、体は勝手に少女を抱きかかえていた。

 はるか昔に亡くなった妹と面影が重なり、放っておけなかったのだ。


 少女の体は驚くほど冷たくなっていた。低体温状態になり命の危機が迫っているのは明らかだ。


完全回復(ライフ・リストア)


 ガレスは、この国でも使える人が希少な、最上級の回復呪文をかける。すると、青白くなっていた少女を鈍い光が包み、彼女の顔に赤みがさした。


 少女は意識がないまま、体をぶるりと震わせる。


「早く帰らねえと」


 このままだと、またすぐに体が冷え切って今度こそ死んでしまう。

 ガレスは薪をその場に置くと、代わりに少女を背負って雪山を下り始める。


「……ちがうの」


 微かな声が聞こえた。ガレスは首を捩り、少女のほうを見る。


「お嬢ちゃん、起きたのか?」


 しかし、返事はない。魘されているだけのようだ。


「わたし……毒なんて……入れてない……」


 それを聞いた瞬間、ガレスは舌打ちした。


「……くそったれが」


 やっぱり、厄介ごとだった。

 子供の面倒を見たくなくて、毒を入れたと因縁でもつけて雪山に捨てたのだろうか。

 関われば、面倒なことに巻き込まれると直感的に悟った。


 だが。こんな小さな子供を、雪山に置いていけるわけがなかった。

 亡くなった妹と同じぐらいの年頃なのだから、なおさらだ。


「分かった。お前は毒なんて入れてない。だから、もう喋るな」


 ガレスは視線を鋭くする。


「死なせねえよ。お嬢ちゃん、俺に任せておけ」


 そう言うと、木こりとは思えない速さで雪山を駆け下りた。



   ◇ ◇ ◇


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