2.無自覚万能令嬢、王都に行く(2)
「おい、エラ。お前信じていないな? 貯金は本当にある!」
ガレスは胸を張って言う。
「どれくらい?」
「まあまあだな」
「つまり、ないのね?」
「なんでそうなる。あると言ってるだろう。エラ、俺はこう見えてもかつては世界中から引っ張りだこだったんだ」
ガレスは親指で自分を指し、誇らしげな顔をした。
(世界中から引っ張りだこ? 木こりが……?)
そんなの聞いたことがない。
町で引っ張りだこ、ならまだわかるが。
「はいはい、わかったわ。でも、木こりの仕事はするわ」
「おい、話を聞け。却下だ」
「ついでに、熊も退治しておきます」
「それは木こりの仕事じゃねえ」
エノレアはむうっと頬を膨らませる。
一向に引こうとしないエノレアの態度に、ガレスは、はあっと息を吐いた。
「あー、わかった。そんなに働きたいならもう止めん」
「本当? じゃあ、木こり──」
「ただ、木こりは違う」
エノレアが喋り終わる前に、ガレスは被せる。
「え?」
「お前ならもっといい仕事がある」
エノレアは瞬きをした。
もっといい仕事。
そんなものがあるのだろうか。
この辺りは、ほとんどが農家か猟師だ。エノレアの卒業した学校の同級生達も実家の手伝いをしている人がほとんどだ。
「じゃあ、農家になれってこと?」
「違う。もっとお前の才能を活かせる仕事だ」
「例えば?」
「王都の文官」
「……文官?」
思ってもみなかった職業を言われ、エノレアは呆けた顔をする。
「ああ、お前なら受かる。第一級を受けろ。俺が受かると保証する」
ガレスは当然のように言った。
ちなみに、文官には第一級から第四級まであり、第一級は一番難しい幹部候補試験だ。受験生のほとんどは幼い頃からその試験を目指して英才教育を受けてきた秀才達だ。
「いや、お父さんに保証されても……。だって私、ただの木こりの娘よ? 高等学院も出てないし」
「俺も木こりだ」
「うん」
「だから問題ねえ」
何が問題ないのか、意味不明だ。
「お父さん、さっきから意味わかんないんだけど。高度な暗号ゲーム? 暗号は得意なのに、全然わからないわ」
「違う。エラ。こう見えても俺はかつて、一年だけ有能な第一級文官として働いていたんだ。そのとき見たから分かってる。どいつもこいつもエラに比べたら芋みたいなもんだから安心しろ」
「さっきは世界中から引っ張りだこって言ってたのに、今度は文官なの? この前は騎士って言ってたよね?」
「とにかく、大丈夫だ。安心しろ」
ガレスは胡乱げに見つめるエノレアの質問には答えず、大丈夫だと繰り返す。
何を根拠に? と思わなくはないが、あまりにも自信満々なので、なんだかエノレアまで大丈夫な気がしてきた。
文官ならそれなりの額を安定して稼げる。第一級文官ともなれば新人でもかなりの金額だろう。ガレスに仕送りしても手元にお金は残るはずだ。
「じゃあ、ためしに受けてみようかな」
「おお、そうしろ」
ガレスは頷く。
(落ちたら木こりになればいいや)
そんな軽い気持ちで、エノレアは第一級文官試験の申し込みをしたのだった。
そして一ヶ月後、エノレアは王都にいた。
乗合馬車からは、地元では滅多に見ることがない綺麗な馬車が道を往来しているのが見えた。
通り沿いの店には見たことのない商品がたくさん並んでいて、ついつい目を奪われる。
わくわくした気持ちでようやく到着した王宮の前で、エノレアは馬車を降りる。
振り返って王城を見た瞬間、息を呑んだ。
「大きい……綺麗……」
高い城壁が左右に広がり、中央には立派な門がある。その左右を沢山の兵士が守っていた。人も多く、この王城だけでも村が百個ぐらいすっぽり入ってしまいそうだ。
そして、ちょうど通りすぎた馬車にはフリフリのドレスを着た若い女性が乗っているのが見えた。
あんなドレスを着ている人は、村ではまず見かけない。
「これが王都……」
見るもの全てが物珍しくて、わくわくした。
「それにしても、人が多いわ。今日はお祭りかしら?」
エノレアは辺りを見回す。
そのとき、「待てっ!」と大きな声がした。




