女性が好きなんです
「女性が好きなんです」
そう言った彼は、どこか困ったように笑っていた。
深刻、というほどでもない。
でも、軽い相談とも違う。
そんな顔だった。
「でも」
カップを両手で持ったまま、少しだけ視線を落とす。
「分からなくなってしまって」
俺は何も言わず、続きを待った。
「今、一緒にいる人がいて」
「うん」
「その人、自分のことを女性だって言ってるんです」
視線はそのまま。
「だから、俺は女性が好きなんだと思ってたんですけど」
少しだけ、息を吐く。
「……その人、体は男で」
間を置く。
「でも、女性だって言ってて」
「……体には、惹かれなくて」
「でも、一緒にいるのは楽なんです」
「手をつないだりとか、隣で寝たりとか」
「それくらいが、ちょうどよくて」
少しだけ笑う。
「それ以上は、ちょっとしんどくて」
間が落ちる。
「それって」
彼は言葉を探す。
「好きって言っていいのか、分からなくて」
カップに口をつける。
もう、ぬるい。
「楽なんだろ」
「……はい」
「一緒にいたい」
「はい」
「でも、無理はしたくない」
「……はい」
「もう、それでいいんじゃないか」
彼は顔を上げた。
少しだけ、驚いたように。
「ちゃんと好きじゃないと、だめですかね」
小さく聞く。
「ちゃんと、って何だ」
返すと、彼は言葉に詰まった。
しばらくして、彼が言う。
「証明できないと、落ち着かなくて」
俺はカップを置いた。
「証拠がないと、決められない人間がいる」
彼は、ゆっくりと瞬きをした。
「でもな」
少しだけ間を置く。
「一緒にいて楽なら、それで十分だろ」
彼は何も言わなかった。
ただ、肩の力が少し抜けたように見えた。
「それでも、好きって言っていいんですかね」
俺は短く答える。
「証拠はいらない」
彼は、ほんの少しだけ笑った。




