表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/100

強さって何ですか?

事務所のドアが開いた。


「……相談、いいですか?」


男だった。三十代半ば。

背筋は伸びているが、少し疲れた顔をしている。


「どうぞ」


椅子に座ると、男はすぐに言った。


「強くなりたいんです」


俺はコーヒーを飲む。


「どういう強さだ」


男は少し考えてから言った。


「何があっても動じない」

「弱音を吐かない」

「泣かない」


沈黙。


「そうか」


男は続ける。


「そうやって生きてきました」


少し間が空く。


「体も鍛えて」

「人前では絶対に崩れないようにして」


「……」


「でも」


男は視線を落とす。


「何か、息苦しくて」


沈黙。


「それでも強くなれてない気がして」


「どうしてだ」


「分かりません」


少しだけ笑う。


「足りないんですかね」


俺は何も言わない。


しばらくして、口を開く。


「それしか知らなかっただけだろ」


男の動きが止まる。


「……え?」


「今言ったやつ」


沈黙。


男はすぐには答えなかった。


「……強さだと思ってました」


「他を知らないなら」

「それになるしかない」


沈黙。


男の視線が揺れる。


「……他?」


俺はコーヒーを置く。


「強さなんて」

「一つじゃない」


沈黙。


「折れないやつもいれば」

「折れても戻るやつもいる」


男は何も言わなかった。


「頼るやつもいる」


沈黙。


男の喉が、わずかに動く。


「……知らなかったです」


小さな声だった。


「そうか」


沈黙。


「じゃあ」


男はゆっくり顔を上げる。


「選べるんですか」


少し間が空く。


「どの強さで生きるか」


俺はコーヒーを飲む。


「さあな」


沈黙。


「でも、今よりは楽になるかもな」


男はしばらく動かなかった。


やがて、小さく息を吐く。


「……それなら」


間が空く。


「折れても戻る方がいいです」


「そうか」


俺は頷く。


男の表情が、少しだけ緩む。


「ありがとうございました」


帰っていった。


ドアが閉まる。



相棒が奥から顔を出す。


「今の人、何の相談?」


「強くなりたいって」


「いいじゃん」


「そうだな」


俺はコーヒーを飲む。


沈黙。


相棒は首をかしげる。


「でもさ」


「何?」


「何で強くなりたいの?」


「……さあな」


俺はカップを置いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ