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子供が好きじゃない

事務所のドアが開いた。


入ってきたのは、三十代くらいの女だった。


座ってから、少し言いにくそうに言った。


「私、子供が好きじゃないんです」


探偵はコーヒーを飲む。


「そうか」


「ちゃんと世話はしてます」

「ご飯も作るし」

「学校の準備もするし」

「病院も連れて行くし」


「うん」


「でも、子供好きって言えなくて」

「私、母親向いてないのかなって」


少し黙る。


探偵は言った。


「その子は」

「あんたといるとき、どんな顔してる」


女は少し驚いた顔をした。


「え……」


「泣いてるか」

「怯えてるか」

「帰りたがるか」


「……いえ」


「じゃあ」


女は少し考えてから言った。


「帰ると抱きついてきます」

「一緒に寝たがるし」

「手、繋いでって言うし」


探偵は言った。


「じゃあいいだろ」


女は黙る。


探偵は続ける。


「愛情があるかどうかは知らん」


女は顔を上げる。


「え……」


「でも、その子は」

「あんたといると安心してるんだろ」


女の目に涙が溜まる。


「……はい」


「じゃあ、それでいいだろ」


女は何も言えなかった。


少しして、小さく言った。


「好きじゃなくても、いいんですかね」


探偵は言った。


「好きかどうかは、あんたの問題だ」


女は黙る。


「でも」

「その子が安心してるかどうかは」

「その子の問題だ」


女は静かに泣いていた。


探偵は続ける。


「愛してる証拠なんかいらない」


「……」


「その子が」

「ここにいていいって顔してるなら」

「それで十分だ」


女は何度も頷いた。


帰り際、女は言った。


「私、いい母親じゃないかもしれないけど」


探偵は言った。


「いい母親かどうかは知らん」


女は少し笑った。


「でも」


「はい」


「その子は」

「不幸そうか」


女は首を振った。


「……いいえ」


「じゃあ」

「大丈夫だろ」


女は深く頭を下げて帰っていった。


ドアが閉まる。


相棒が言う。


「ねぇ」


「何だ」


「愛情って、何」


探偵は少し考えてから言った。


「安心できる場所のことじゃないか」


コーヒーはもう冷めていた。


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