表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/99

深夜の自販機

 深夜の道は、人がいない。


 自販機の明かりだけが、ぽつんと光っている。


 探偵は小銭を入れて、缶コーヒーを買った。

 ガタン、と音がして、缶が落ちてくる。


 隣に、先客がいた。


 三十代くらいの男。

 缶コーヒーを持ったまま、飲まずに立っている。


 探偵は缶を開けながら言った。


「飲まないのか」


 男は少し笑った。


「今から帰るんですよ」


「家か」


「はい」


 少し間。


「帰る前に、ここで一本飲むんです」

「毎日」


 探偵はコーヒーを一口飲む。


「どうして」


 男は少し考えてから言った。


「このまま帰ると、会社の自分のまま家に入っちゃうから」


 探偵は黙る。


 男は続ける。


「ここで少しだけ、一人になるんです」


「一人だろ、今も」


「会社の帰りの一人と」

「家に帰る前の一人は、ちょっと違うんですよ」


 少し笑う。


「ここで、ちょっとだけ何もない自分に戻ってから帰るんです」


 車が一台、通り過ぎた。


 男は缶を開けた。


「家帰ったら、父親だし」

「旦那だし」


「会社行ったら、課長だし」


 一口飲む。


「でも、ここにいるときだけ、何でもないんです」


 探偵は言った。


「何でもない時間か」


「はい」


 少し沈黙。


 男は缶を飲み終わって、ゴミ箱に入れた。


「じゃあ、帰ります」


「そうか」


「ありがとうございました」


「どういたしまして」


 男は歩いて、暗い道の方へ帰っていった。


 探偵は自販機の明かりを見ながら、ぼそっと言った。


「家に帰る前に」


 少し間。


「一人に戻る時間か」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ