公園で昼間から酒飲んでるおじさん
平日の昼間の公園は、人が少ない。
ベンチに座って、探偵は缶コーヒーを飲んでいた。
少し離れたベンチで、男が昼間から缶チューハイを飲んでいる。
スーツじゃないが、作業着でもない。
年は五十前後くらい。
探偵はなんとなく聞いた。
「うまいか」
男は少し笑った。
「昼間の酒はうまいよ」
「仕事は」
「辞めた」
「クビか」
「まあ、そんなもんだ」
男は缶を揺らしながら言った。
「会社やってたんだよ」
探偵は少しだけ男を見た。
「社長か」
「元な」
少し間。
「潰した」
風が吹いて、木が揺れた。
男は言う。
「従業員もいたし」
「家族もいたし」
「守らなきゃいけないもん、いっぱいあったんだけどな」
少し笑う。
「全部、守れなかった」
探偵は何も言わない。
男は続ける。
「成功したかったんだよ」
「金持ちになりたかったし」
「すごいって言われたかった」
缶チューハイを一口飲む。
「でもな」
少し間。
「成功してるとき、全然幸せじゃなかった」
探偵は缶コーヒーを飲む。
「忙しくて、家にも帰れなくて」
「ずっと仕事してて」
「金はあったけど、時間がなかった」
男は笑った。
「潰れて、金もなくなって、仕事もなくなって」
空を見上げる。
「今の方が、ちょっと楽だ」
探偵は言う。
「後悔してるか」
男は少し考えた。
「してるな」
少し間。
「でもな」
缶を見ながら言う。
「成功してた人生と」
「失敗した人生」
「どっちが幸せだったかって言われたら」
「分かんねえな」
子供の笑い声が少し遠くで聞こえた。
男は言った。
「成功したら幸せになれると思ってたんだよ」
探偵は言う。
「違ったか」
「違ったな」
少し間。
男は立ち上がった。
「そろそろ帰るよ」
「帰る場所あるのか」
「あるよ」
少し笑う。
「小さいアパートだけどな」
男は歩き出して、途中で振り向いた。
「なあ」
「なんだ」
「失敗した人生って、ダメだと思うか」
探偵は少し考えた。
それから言った。
「まだ終わってないだろ」
男は少し笑った。
「そうだな」
男は手を振って、公園を出ていった。
探偵は一人で缶コーヒーを飲みながら呟いた。
「成功したかどうかなんてな」
少し間。
「死ぬときにしか分からないだろ」




