自分を知る方法
探偵は事務所のソファで、だらっと寝転がっていた。
腕を枕にして、天井をぼんやり見ている。
「ねえ」
「ん」
「自分のことって、どうやったら分かるの?」
探偵は少しだけ目を動かした。
「分からないのか」
「分からない」
相棒は椅子に座りながら言う。
「何が好きかも」
「何が向いてるかも」
「何がしたいかも」
「よく分かんない」
探偵は少し考えた。
「好きなことはな」
少し間。
「変わる」
「え」
「でもな」
天井を見たまま言う。
「嫌いなことは、あんまり変わらない」
相棒は黙る。
「仕事辞めた理由、思い出してみろ」
「人間関係」
「休みない」
「給料安い」
「怒鳴られる」
「通勤遠い」
「……いっぱいある」
探偵はうなずく。
「それが、お前の地雷だ」
「地雷」
「そこ踏むと、ダメになる」
相棒は少し考える。
「じゃあ、好きなことは?」
探偵は少し考えた。
「一人の時間」
「静かな場所」
「金の心配がない」
「好きなことしてる時間」
「大切なやつと飯食う」
「そういうとき、機嫌いいだろ」
相棒は少し笑った。
「……いいかも」
探偵は言う。
「自分を知るってのはな」
少し間。
「何が好きか探すことじゃない」
「何が嫌か知ることだ」
相棒は黙る。
「嫌なこと避けて」
「平気なこと選んで」
「ちょっと好きなことやる」
「それくらいでいい」
相棒は少し笑った。
「なんか、ずいぶん適当だね」
探偵はソファの上で体勢を変えた。
「人間な」
「すげぇ幸せじゃなくてもいいけど」
少し間。
「すげぇ不幸は、きついぞ」
部屋が少し静かになる。
「だから」
探偵は言った。
「幸せになろうとするより」
コーヒーを一口飲む。
「不幸にならないようにした方がいい」
相棒はしばらく黙っていた。
やがて、小さく言った。
「……それなら、できるかも」
探偵は小さく笑った。
「だろうな」




