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遊びと本気

 探偵は事務所の机に足を乗せて、写真を眺めていた。

 ホテルの前で、男女が並んで歩いている写真だ。


「珍しくちゃんと仕事してるね」


「探偵だからな」


「浮気調査?」


「ああ」


 相棒は写真を覗き込む。


「相手、若いね」


「キャバ嬢だな」


「じゃあ遊び?」


「多分な」


 探偵は写真を封筒に戻した。


 そこへ、依頼人の女性がやってきた。


 四十代くらいの、落ち着いた雰囲気の人だった。


「結果、出ましたか」


「ああ」


 探偵は封筒を差し出す。


「ご主人、キャバクラの女と会ってる」

「ホテルも行ってる」


 女性は静かに写真を見た。

 驚いた様子はなかった。


「……そうですか」


 写真を封筒に戻す。


 少し沈黙が落ちる。


 探偵は言う。


「相手、キャバ嬢だ」

「向こうは仕事、旦那は遊び」


「よくある話だ」


 女性は顔を上げた。


「でも」


「うちの人、もう私のこと抱かないんです」


 部屋が静かになる。


「でも、その人とは寝てる」


 女性は言う。


「それでも、遊びなんですか」


 探偵は少し黙った。


 コーヒーを一口飲む。


「……家には帰ってくるんだろ」


「はい」


「生活費も入れてる」


「はい」


「離婚も言わない」


「……はい」


 探偵は言う。


「じゃあ、気持ちがないとも言い切れないな」


 女性は少し強い声で言った。


「でも、女としては見られてないんです」


 女性は続ける。


「それって、気持ちがないのと同じじゃないですか」


 探偵は少し考えた。


「男の気持ちはな」


 少し間。


「一個じゃない」


 女性は黙る。


「家族としての気持ち」

「情」

「責任」

「楽」

「落ち着く」

「女として好き」

「触りたい」


「全部、別だ」


 女性は何も言えない。


「多分な」


 探偵は言う。


「家族としては、あんただ」

「女としては、キャバ嬢だ」


 女性は下を向いたまま言った。


「……それ、奥さんとしては一番つらいですね」


「そうだな」


 少し沈黙が落ちる。


 女性は静かに言った。


「じゃあ」


「遊びか本気かなんて、もうどうでもいいですね」


 探偵はうなずいた。


「ああ」


「問題は」


 コーヒーを置く。


「あんたがそれでいいかどうかだ」


 女性はしばらく黙っていた。


 やがて、小さく笑った。


「……考えてみます」


 女性は頭を下げて、事務所を出ていった。


 扉が閉まる。


 相棒が言う。


「遊びと本気って、結局何が違うの?」


 探偵は少し考える。


「優先順位だろうな」


「優先順位?」


「時間」

「金」

「体」

「気持ち」


「どれを、誰に使ってるかだ」


 相棒は黙る。


 探偵はソファにもたれた。


「気持ちがあるかどうかより」


 少し間。


「その扱いで、自分が幸せかどうかだろ」


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