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何か成し遂げないといけないんですか

探偵はソファの上で、だらっと寝転がっていた。

 片手でスマホを持ち、画面を眺めているが、見ているのか見ていないのか分からない。


「ねえ」


「ん」


「お客さん」


 探偵は「はいはい」と言いながら体を起こし、ソファに座り直した。


 三十代半ばくらいの男性が、少し申し訳なさそうに座っていた。


「どうした」


 男性は少し迷ってから言った。


「変なこと言うかもしれないんですけど」


「ここ、変なこと言う人しか来ないから大丈夫だ」


 男性は少し笑った。


 それから、少しだけ考えて、言った。


「人生って、何か成し遂げないといけないんですか」


 探偵はコーヒーを一口飲んだ。


「いけないって、誰が言った」


 男性は少し困った顔をする。


「いや……」

「何となく、そんな気がして」


「みんな何かになってるじゃないですか」

「出世したり」

「自分の店持ったり」

「夢叶えたり」


「でも自分は」

「会社行って、帰って、寝て」


「それだけで」


 少し笑う。


「何も成し遂げてないなって」


 探偵は少し黙ってから言った。


「じゃあ聞くけど」


「何か成し遂げた人生って、何だ」


 男性は答えられない。


 探偵は続ける。


「社長になったら成功か?」

「有名になったら成功か?」

「金持ちになったら成功か?」


「それが“成し遂げた”ってことか?」


 男性は小さく首を振る。


「……分からないです」


「分からないだろ」


 探偵は肩をすくめる。


「基準なんて、ないんだよ」


 男性は黙っている。


 探偵はコーヒーを飲む。


「でもな」


 カップを置く。


「子ども育てたやつもいる」

「家族養ったやつもいる」

「毎日仕事行って、辞めずに続けたやつもいる」


「そういうのは、何も成し遂げてないのか?」


 男性は顔を上げた。


 探偵は続ける。


「別に社長になってない」

「有名でもない」

「歴史に名前も残らない」


「でも」


 少しだけ間を置く。


「誰かの人生には、ちゃんと残るだろ」


 男性は黙る。


「何かを成し遂げたかどうかより」


 探偵は言う。


「どう生きたかの方が、人の人生なんじゃないのか」


 男性はしばらく何も言わなかった。


 やがて、小さく笑った。


「……少し、楽になりました」


「それはよかった」


 男性は立ち上がる。


「ありがとうございました」


「どういたしまして」


 扉が閉まる。


 相棒が奥から出てくる。


「ねえ」


「ん?」


「あなたは、何か成し遂げたの?」


 探偵は少し考える。


 それから、コーヒーを飲む。


「別に」


「何も」


 相棒は少し笑う。


「じゃあダメじゃない」


 探偵はソファにもたれた。


「さあな」


 窓の外をぼんやり見る。


「でも」


 少しだけ考えてから言った。


「大事にしたいやつは、大事にしてきたつもりだ」


 少し間。


「俺はそれで、十分だけどな」

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