愛されてるのか分からない
探偵は事務所のソファに寝転がって、天井をぼんやり見ていた。
特に何かをしているわけでもなく、ただ時間が過ぎている。
相棒が言う。
「お客さん」
「んー」
「起きて」
「起きてる」
起きてる人間の声ではなかったが、探偵はゆっくり体を起こした。
向かいには、二十代後半くらいの女性が座っていた。
少し言いにくそうにしてから、口を開く。
「私……彼氏がいるんですけど」
「うん」
「愛されてるのか、分からないんです」
探偵は少しだけ首をかしげた。
「なんでそう思う」
「連絡はあんまり来ないし」
「向こうから会いたいって言われたこと、あんまりなくて」
「好きだとは言ってくれるんですけど」
「なんか……私ばっかり好きみたいな気がして」
探偵は黙って聞いている。
「だから時々、不安になるんです」
「本当に好きなのかなって」
少し間が落ちる。
探偵は聞いた。
「あんたは、どうしてほしいんだ」
「え?」
「連絡、もっとしてほしいのか」
「会いたいって、言ってほしいのか」
女性は少し考える。
「……連絡、もう少ししてほしいです」
「会いたいって言ってもらえたら、嬉しいです」
「言ったのか」
「……言ってません」
「なんで」
「重いって思われたら嫌で」
探偵は少しだけ笑った。
「言わなきゃ、分からないだろ」
女性は黙る。
「愛し方はな、人それぞれ違う」
「連絡をたくさんするやつもいれば」
「全然しないやつもいる」
「好きって言うやつもいれば」
「言わないやつもいる」
「どれが正しいってわけでもない」
女性は静かに聞いている。
「だから擦り合わせるしかない」
「連絡してくれると安心する、って言えばいい」
「会いたいって言ってくれると嬉しい、って言えばいい」
「言わなきゃ、相手は分からない」
女性は小さくうなずいた。
「……でも」
「言ったら、変わってくれますかね」
探偵はコーヒーを一口飲む。
「変わるやつもいる」
「変わらないやつもいる」
「人はな、そんなに変わらない」
女性は少しうつむく。
探偵は続ける。
「だから結局」
「相手がそのままくれるもので」
「満足できるかどうかだ」
女性は黙る。
「無理に変えようとすると、しんどい」
「我慢し続けるのも、しんどい」
「だから」
少し間を置く。
「擦り合わせて」
「それでも無理なら、相性だ」
女性は長く息を吐いた。
「……なんか」
「少し分かった気がします」
「そうか」
女性は立ち上がり、頭を下げる。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
扉が閉まる。
相棒が顔を出す。
「愛されてる証拠って、結婚とか、指輪とか?」
探偵は少し考える。
「本当にそれで満足できるか?」
「うーん……」
「結婚してても、寂しいやつはいる」
「指輪してても、不安なやつはいる」
相棒は黙る。
探偵は続ける。
「形はな、証拠にはならない」
「じゃあ、何が証拠になるの?」
探偵は少し考えてから言った。
「証拠なんて、いらない」
「え?」
「一緒にいるときの自分が」
「笑ってるかどうかだ」
相棒は少し黙ってから言う。
「……それ、結構むずかしいね」
「ああ」
探偵はコーヒーを飲む。
「だからみんな、証拠を探すんだろ」
「分かりやすいから」
「でもな」
カップを机に置く。
「証拠集めてる間に」
「自分の気持ち、見なくなるやつ多いぞ」




