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『人を殺したい』と言う相談者が来た

「俺は」


「人を殺したい」


相談者は、二十代くらいの男だった。


椅子に浅く座り、腕を組んでいる。

最初から喧嘩腰の顔だった。


「ここなら」


男が言う。


「何言っても否定しないって聞いた」


「誰に?」


「ネット」


「そうか」


沈黙。


男がこちらを見ている。


「……引かないのかよ」


「別に」


男は少し眉をひそめた。


「役に立たないやつっているだろ」


「寝たきりで何もできないやつ」


「何言ってるかわからないやつ」


「社会のお荷物」


男の声が少し強くなる。


「そういうやつ、生きてる意味あるのか?」


「殺してどうする?」


「俺が感謝される」


「誰に?」


「国」


少し間。


「国って人じゃないな」


男が舌打ちする。


「総理大臣とかだよ」


「偉いやつ」


「なんで感謝されたい?」


男は一瞬黙る。


それから小さく言う。


「俺が」


「価値ある人間だって」


「証明できる」


「価値なんて」


「証明しなくても最初からある」


「嘘だ」


即答だった。


男が笑う。


「どうせ」


「俺のことクズだと思ってるんだろ」


俺は首を振る。


「あんたのこと」


「何も知らない」


「クズかどうかなんて」


「わからない」


男は少し笑う。


「仕事もない」


「彼女もいない」


「友達もいない」


「顔もよくない」


「背も高くない」


「俺のどこに価値がある?」


「条件が揃ってないと価値がないのか?」


男はすぐに言う。


「だってそうだろ」


「イケメンはチヤホヤされて」


「ブサイクはバカにされる」


俺は言う。


「それは」


「価値の話じゃない」


「好みの話だ」


男が笑う。


「ブサイク好きなヤツがいるかよ」


「いる」


男が顔をしかめる。


「嘘つけ」


「ブサイクって」


「主観だからな」


「人によって変わる」


「だから」


「好みだ」


少し間。


「ちなみに」


「俺は」


「あんたの顔」


「嫌いじゃない」


男はすぐに言う。


「お世辞だろ」


「お世辞言う必要あるか?」


男は黙る。


しばらくして言う。


「結局」


「あんたどうするんだ?」


「人殺すのか?」


少し間。


「……殺す」


「そうか」


男が眉をひそめる。


「なんで止めない?」


「止めて欲しいのか?」


男は少し黙る。


それから首を振る。


「……いや」


「いい」


男は立ち上がる。


扉を開ける。


振り向かない。


そのまま部屋を出て行った。


扉が閉まる。


静かな部屋で、俺は一人になる。


しばらくして、相棒が顔を出した。


「何で止めないのよ」


「今のヤツ、ヤバいでしょ」


俺は肩をすくめる。


「止めても無駄だ」


「止めたら逆に反抗する」


相棒が顔をしかめる。


「でも……」


俺は少しだけ考える。


「価値はあるって」


「それは伝えた」


「……」


「後は」


「本人次第だ」


相棒はまだ納得していない顔をしていた。


部屋は、また静かになった。


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