自分が嫌い
昼過ぎ。
ソファに寝転がって、天井を見ていた。
「客」
相棒が言う。
「あと五分」
「さっきも五分って言った」
「今回は本当」
事務所のドアが開く。
⸻
入ってきたのは、二十歳くらいの男だった。
椅子に座る。
しばらく何も言わない。
それから、ぽつりと言った。
「俺、自分が嫌いなんです」
俺は少し考える。
「どの辺が」
「全部です」
即答だった。
「能力もないし」
「顔も普通だし」
「何やっても中途半端で」
笑う。
「上にはいくらでもすごい人いるし」
少し間。
「比べると、余計に嫌いになります」
⸻
俺はソファから体を起こす。
「そりゃなるだろ」
男が顔を上げる。
「え?」
「上はいくらでもいる」
「能力も、金も、見た目も」
相棒が横から言う。
「夢ないね」
「現実だ」
⸻
少し沈黙。
男が小さく言う。
「どうしたら、自分を好きになれますか」
俺は首を振る。
「別に好きにならなくていい」
男が止まる。
「……え?」
「嫌いなんだろ」
「じゃあ無理だ」
相棒が呆れる。
「雑」
「本当のことだ」
⸻
俺は続ける。
「でもさ」
少し間。
「嫌いな奴のことで、そんなに悩むか?」
男が黙る。
「嫌いなら放っとくだろ」
沈黙。
「ここ来たってことは」
肩をすくめる。
「まだ見捨ててないじゃねぇか」
男の視線が落ちる。
⸻
「それに」
俺は言う。
「人と比べるって言うけど」
男を見る。
「全く同じ人間っているか?」
「……いません」
「だろ」
「違うもの同士で勝ち負けつけても」
少し間。
「意味ない」
⸻
長い沈黙。
男は小さく笑う。
「自分嫌いでも」
「生きてていいんですかね」
俺は肩をすくめる。
「別に」
「好きじゃなくても」
「見捨ててないなら、それで十分だろ」
⸻
男はしばらく黙っていた。
それから、ゆっくり立ち上がる。
「……今日は帰ります」
「また来てもいいですか」
「いいぜ」
男は小さく頭を下げて、事務所を出ていった。
⸻
扉が閉まる。
相棒が言う。
「本当に嫌いなままでいいの?」
俺はソファに戻る。
「好きとか嫌いとか関係ない」
コーヒーを口にする。
「今あるものでどう生きるかだからな」
窓の外は、いつも通りの空だった。




