生きる意味
探偵はヨガマットの上で座っていた。
ゆっくり深呼吸している。
「ねぇ」
「吸ってー」
「お客さん」
「吐いてー」
探偵はそのままの姿勢で振り向いた。
「ああ」
そこに、四十代くらいの男性が座っていた。
男性は少し疲れた顔で言う。
「生きる意味って、何なんでしょう」
探偵はヨガをやめ、椅子に座った。
「さあな」
男性は苦笑する。
「みんな普通に生きてますよね」
「働いて、家庭持って」
「私は……」
少し言葉を探す。
「よく分からないんです」
探偵はコーヒーを飲む。
「意味があるから生きてるやつって、いるのか?」
「え?」
「だいたい」
「気づいたら生きてるだけだろ」
男性は黙る。
探偵は続ける。
「それで」
「後から意味つけてる」
少し間。
男性は小さく笑った。
「じゃあ……」
「意味なんてないんですか」
探偵は肩をすくめる。
「あるかもしれない」
「ないかもしれない」
コーヒーを一口飲む。
「あるとしたら」
「自分で決めるもんだろ」
男性はしばらく黙っていた。
やがて言う。
「探偵さんは……」
「どうなんですか」
探偵は少し考える。
コーヒーを飲む。
「俺はな」
少し間。
「ずっと大切な人のために生きたいとは思ってる」
男性は顔を上げる。
探偵は肩をすくめた。
「意味っていうほど立派なもんじゃない」
「でも、それで十分だろ」
男性は静かに息を吐いた。
「……そうかもしれませんね」
やがて立ち上がる。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
扉が閉まる。
相棒が顔を出す。
「カッコつけちゃって」
「はは……」
「そういえば前に言ってた尊厳って何?」
探偵は少し考える。
「人がその人であること、かな」




