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得意なことがない

 探偵は椅子を後ろに傾けてぐらぐらしていた。


危なっかしい姿勢だ。


「落ちるよ」


「落ちない」


「お客さん」


 探偵はそのままの姿勢で振り向いた。


「ああ」


 そこに、二十代くらいの女性が座っていた。


 女性は少し迷うように言う。


「私……得意なことがないんです」


 探偵は椅子を戻し、座り直した。


「そうか」


「みんな何かありますよね」


「足が速いとか、頭がいいとか」


「自慢できるもの」


 探偵は少し考える。


「何もしてないのに足が速いやつ、いるだろ」


「え?」


「そのときは速かったのかもしれない」


 少し間。


「今も速いかは、わからない」


 女性は黙る。


 探偵は肩をすくめた。


「得意なんて、そんなもんだ」


 女性はうつむいたまま言う。


「でも……」


「何か得意になりたいんです」


「何かやればいいんですよね」


「でも、何やったらいいか……」


 探偵はコーヒーを飲む。


「何となくでもいい」


「え?」


「やってみたかった、とか」


 女性は少し考える。


「でも下手で……」


「向いてないかなって」


 探偵は言った。


「下手でいい」


 女性は顔を上げる。


「得意ってのはな」


「最初からあるもんじゃない」


 少し間。


「続いたものが、そう呼ばれるだけだ」


 女性は静かに息を吐いた。


「……やってみます」


「そうか」


 女性は立ち上がる。


「ありがとうございました」


「どういたしまして」


 扉が閉まる。


 相棒が顔を出した。


「あなたは、何か得意なことあるの?」


 探偵は少し考える。


「……尊厳」


「え?」


 探偵はコーヒーを飲む。


「それしかないんだよなぁ」

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