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親と離れた罪悪感

ソファに寝転がったまま、スマホを顔の上に乗せていた。


通知も来ていない画面を、なんとなく眺める。


仕事は終わった。

帰ってきて、飯も食った。


なのに、体が動かない。


「……だる」


独り言が、誰もいない事務所に落ちる。


ドアが開いた音で、顔に落ちそうになったスマホを慌ててつかんだ。


「……相談、いいですか?」


起き上がるのも面倒で、片手だけ上げる。


「どうぞ」


相棒が呆れた顔で言う。


「せめて座りなさい」


仕方なく体を起こす。


入ってきたのは、三十代くらいの女性だった。


椅子に座っても、バッグの持ち手を握ったままだった。


「……親と、縁を切ったんです」


それだけ言って、言葉が詰まる。


俺は黙って続きを待つ。


「ずっと、うまくいってなくて」


視線を落とす。


「会うたびに傷ついて」

「責められて」

「何をしても否定されて」


声が少し震える。


「限界で……連絡を取るのをやめました」


沈黙。


「でも」


顔を上げる。


「親なのに」

「切るなんて、冷たい気がして」


小さな声だった。


俺はコーヒーを机に置く。


「聞くけど」


女性がこちらを見る。


「今、楽か?」


少し考える。


「……前よりは」


「会いたいか?」


長い沈黙。


「……怖いです」


それが答えだった。


俺はうなずく。


「じゃあ、離れて正解だ」


女性の表情が止まる。


「……正解?」


「壊れながら付き合う必要はない」


静かな空気が流れる。


「離れたくて離れたわけじゃないだろ」


彼女は小さくうなずく。


「できれば……普通に話せる家族がよかった」


「なら、それでいい」


少し間を置く。


「壊れる前に離れただけだ」


彼女は黙ったまま聞いている。


「余裕ができたら」

「壊れない距離で、また関わればいい」


「……戻ってもいいんですか」


「ああ」


「離れたからって」

「家族じゃなくなるわけじゃない」


肩の力が、ゆっくり抜ける。


女性は立ち上がり、小さく頭を下げた。


「……証拠、いりませんでしたね」


「ああ」


ドアが閉まる。



静かな事務所に戻る。


相棒がぽつりと言う。


「家族って、離れちゃいけないって思ってた」


俺はコーヒーを飲む。


「離れたくて離れる奴なんて、ほとんどいない」


相棒がこちらを見る。


「じゃあ、どうすればいいの?」


「壊れる前に離れる」


窓の外を見る。


「それで、余裕ができたら」


少し間。


「壊れない距離で、また関わればいい」


相棒は、ゆっくりうなずいた。


離れたくなかったけど、限界だった。


だから離れただけだ。


もしまた関わりたいと思えたなら、


そのときは、自分が壊れない距離で戻ればいい。


だから――

もう、証拠はいらない。

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