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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十五章 『雪花が彩る正義の形』
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第八百五十三話 『響く歌声、キレる正義』

 優先強制の効果が切れた、それは術者の敗北を意味する。だがそんなものは些末な事、何が起きても結果は変わらない。正義は負けない、自分は負けない、それは絶対それだけが絶対。自分こそが絶対、何が狂ってもそこだけは不変、それだけは揺らいではいけない。だから、だからこそ、これ以上無様な姿は晒せない。



「貴女みたいな雑魚に、これ以上苦戦なんて許されないの……!」



「ぎゃああああああああ圧が凄い! ステータス差で押し潰される!」



 ほぼ無敵のルーチェの能力を無効化し、正々堂々真っ向勝負に持ち込んだ我等が切り札は、まさに今鍔迫り合いに負けて押し潰されそうになっていた。ギリギリで耐えてはいるが、単純な話腕力で完敗しているので全然押し返せない。ちなみにパワーだけではなくスピードも完敗しており、逃げ回るのもそろそろ限界だ。あと一押しでぶっ殺されそうな切り札は、持ち前の悪運と粘り強さ、そして火事場のヤケクソ力でなんとか危機を脱する。ルーチェの胴体にへなちょこキックを叩き込み、そのままゴロゴロと転がるようにピンチから抜け出した。危機を脱した先は依然危機、この場には自分とルーチェしか存在しない。逃げても防いでも泣いても喚いても、自分一人で勝つしかない無情なステージ。



「ぜぇはぁぜぇはぁっ!! あまりにも酷だぞ! しかも見世物にされてるしなんだこの地獄は!」



『我等が切り札ちゃんが超絶必死! 皆さんご声援宜しくウェーイ!』



 ウルスネプカの実況に煽られ、下の方からわいわいと声援が聞こえてくる。頑張れだのファイトだの色々聞こえてるけど、ありがたいけど、しっかり全部見られてるのがそのせいで嫌でも分かってしまう。



(生き残ったら絶対殴ってやる、絶対……そのくらいの権利はある筈だ……)



「良いご身分ね、正義を前にして民衆の期待を背負うなんて」



「切り札はみんなの期待を背負うものだからな……押し潰されるかどうかはこの際問題じゃないんだ」

「泣いても喚いても……立つしかないんだ、私は本来の主役を押しのけてここにいる……活躍する以外の選択はないんだ!」



 みんなの期待云々もそうだが、このステージは本来コール達のライブの為の場だ。セツナ自身、既にコール達の大ファンであり、勿論ライブは楽しみだった。襲撃さえなければ、祭りにライブに楽しめていた筈なんだ。怖い思いも、痛い思いも、理不尽に晒される事なんて無かった筈なんだ。セツナも、他の皆も。



「ちゃんと、私自身怒ってる……この許せない気持ち、怒りは私のモノだ!!」

「空っぽでここに立ってると思うなよ! 流されるままにここにいるんじゃない! 私は私の意思でお前等に怒ってるんだ!!」



「絶対正義は揺るがない、個人の思考なんてどうだっていいわ」



「お前の前に立ち塞がってるのがっ! 個人の想いなわけないだろ!!」



 飛び掛かるセツナだが、大ぶりな剣はルーチェに簡単に避けられる。迎撃の剣はどうにか受け止めたが、態勢の崩れたセツナは呆気なく吹っ飛んでしまう。



「能力を封じた程度で正義に勝てると思うな、私がどれ程この身を鍛えてきたと思ってる」

「この世の不条理全てを正す為、全てを切り伏せる為、絶対正義を示す為……私はその為だけに生きてきたの…………ぽっと出の切り札に邪魔できるほど弱くないわ」



「ぽっと出なのは否定できないけど、こんな私でも言える事くらいあるぞ」

「一人でどうこう出来る程、この世の中簡単じゃないぞ」

「本当に散々な目に遇ってきた……何度も忘れる私でさえ、覚えてる範囲が人並み以下の私でさえ、世の中泣きたいくらい難しい」

「正義がどれだけ凄くても、一人で踏ん反り返ってる奴に世界がどうこう出来るとは思えない」



「正義は負けない、正義だけがこの世の指針」



「正しい事だけ言ってれば上手くいくなんて事無いんだ、優しくされて痛い目に遇う事もある、嘘で救われる事もあった、間違いで庇われた事だって幾らでもある」

「痛みから得る事だってある、あったよ……だから正義しか見ない、正義しか押し付けないお前の言葉は空っぽの私にすら響かない」

「見たいモノしか見ないお前の言葉は、弱い」



 セツナは言い切った、自信はない、根拠もない、実績もない。だけど、経験が言葉を形作った。今日まで思い通りにいった試しの無い散々な旅路だったが、その経験がそれを言わせた。この経験は、正義の一言で切り捨てられる程浅くない。人より覚えている経験の少ないセツナですら、正義を押し返す事が出来るんだ。この世の全て、誰もが正義に一蹴される必要はない。そんな押し付け、願い下げだ。セツナの言葉を後押しするかのように、下の方から陽気な音楽が聞こえてきた。



『事態は滅茶苦茶、どこもかしこも派手なバトルで祭りの原型なんてねぇがよぉ! だったらだったで盛り上げていくのがエンターテイナーの手腕ってもんだぜぇ!』

『肝心要なステージは我等が切り札ちゃんが乗っ取った! だけどその程度問題にもなりゃしねぇ! お前等これが目当てでここに来たんだろ!? 使えるもんはなんでも使うぜ失礼承知の突発ライブじゃあああっ!』



「用意されたステージがないのなら!」



「ステージくらい自分達で用意してみせます!」



「さっきまで行動が何かに縛られていたけれど、今は妙に身体が軽いわぁん!」

「みんなが頑張っている中、何もしないなんて筋肉が勿体ない! さぁ組み上げたわ即興ステージ! 超絶天才の改良版スピーカーも準備オッケー!!」

「祭りの主役は渡さない! バトルのBGMはお任せよぉん! いきなさいコールきゅん! そして我等の歌姫!」



「歌姫っ!?」



「何一つ間違っていない! さぁ盛り上がっていこう!」

「僕達の本番ライブの前座も、僕達が担う!」



 リムニアと共に空に舞い上がり、コールが地上に組まれた即興ステージの上に降り立った。音が響き、歌声が国中に拡散する。それは嘗ての討魔紅蓮戦の時のように、敵の力を削ぎ、此方の力を増す不思議な音だった。




「わぁ……元気が出る歌だな……」




 ちなみに他の者は明らかに力が増し、変化にすぐ気づける程の強化を貰っているのだが、セツナは体質上目に見える変化は殆ど無かった。これは本人も気づいていないし、他の者も完璧に理解はしていない。セツナは能力を無効化するが、影響を受ける事もある。その有無を、理屈を、完璧に理解しているモノは今のところいない。その謎に気付き、分析している者は何人かいるが、答えはまだ謎のままだ。答えに近づきつつあるのはレヴィと、セツナの影から視線を向ける存在の二名。どちらが先に答えを掴むかで道筋は変わるのだが、残念ながら今はそれどころじゃない。そして今この場にレヴィが居ない事が、本当に悔やまれる。答えまでの距離を、片方だけが縮める事になったのだから。




「………………」




 下から響く歌声と、それに合わせ明らかに国中の勢いが増した。その様子を黙って見ていたルーチェは、剣の持ち方を変えた。そして、セツナを睨みつける。



「な、なんだ……なんかさっきより敵意を感じるような……」



「弱くない」



「え」



「悪党の言葉なんか、全くこれっぽっちも響きはしない……だけど訂正しなさい」

「私の正義は絶対正義、浅くない薄くない絶対弱くなんかない…………訂正しなさい」



「えぇ……嫌だよ……」

「だってお前はどこまでいっても押し付けだ、やってる事正義っていうか暴君だろ……」

「聞く耳持たずに暴れ散らかして……力のある子どもの駄々っていうか……」



 クロノやアルディの教育が悪かったのだろう、セツナの口はどんどん悪くなっていた。人知れず煽りスキルが上がっていたセツナの口撃は、絶対正義の防御力を貫通した。顔を赤くし、ぷるぷると震えているルーチェに気づかず、セツナはフィニッシュアタックを発動してしまう。




「正直私は、お前を見てると恥ずかしいぞ」




「…………ッ!! 殺す……ッ!!」




「正義らしからぬ言動っ!?」




 歌声のバフを全く受けられていないセツナは、その上で相手に激怒バフをプレゼントしてしまう。国中の戦いが加速する中、全く違う理由で一番の加速を見せる切り札対絶対正義。戦いの行方は如何に。自らの首を絞める切り札の明日はどっちだ。



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