第八百五十話 『エクストラステージ』
反転の能力者であるカラナリを仕留め、プラチナは無事に怠惰の限りを尽くせる環境を取り戻す。しかしケールはそれを良しとはしない。祭りの最中にサボるなんて言語道断勿体ない。
「何を石畳と同化しているんですか! お祭り真っ最中作戦真っ只中ケールと一緒に盛り上がりましょうよ!」
「やだよ……」
「ビックリするくらいシンプルな拒絶だねぇ」
「というか……こうも主力が離れていいものか……黒くなった人形が大暴れして結構なパニックだぞ」
気絶しているカラナリを拘束しながらシロガネが疑問を零す。ヒャクとシロガネは優先強制の影響で此方に駆けつけたのだが、そのせいで冷静に周りを見れていなかった。雪像の周りには少なくない人形が群がっていたし、一般参加者や国の勇者達は防戦一方に見えた。正直戦力的に不安が残る。もし犠牲が大きくなれば、クロノに合わせる顔が無い。多少の焦りを覚え顔を上げて見れば、屋根より高くなった雪像が見えた。そしてその石像より高く黒人形が吹っ飛ばされていく。
「……要らぬ心配だったか」
「そういえば化け物みたいな機人種さんがいたっけね……」
ヒャクの言う通り、流石にここまでパニックになればピットはベルからターゲットを移し替える。真面目に防衛に当たれば、どれだけ人形が強化されようと関係なく蹂躙である。幾らピットでもこの状況でベルを優先強制で集中砲火なんてするわけがない。ベル含め敵対勢力一斉射モードで同時進行である。
「雪像も完成間近です! そろそろ第一フェーズも終わりが近いですよ!」
「じゃあもういいじゃん寝ていいじゃん俺働いたじゃんこいつ倒したじゃん」
「第二フェーズはケール達の雪像が魔術で動き出し! コールさんのライブに合わせてわっふわふなパレードです! ここで踊らないでいつ踊るんですか!」
「今襲撃中なんだよねぇ」
「森の外には常識がないのか」
「このアホ犬がアホなだけだっての、っていうかめんどいからツッコませるなよな」
「っていうか妨害されたりぶっ壊されたり滅茶苦茶だったってのに結局どのチームもほぼ同着で仕上げてんのな、あーだるい……」
プラチナが身体を起こし周りを見渡してみると、屋根より高い巨大雪像が何体も確認出来た。大きさはどのチームも互角、これは雪像のクオリティ勝負になりそうだ。
「襲撃を受けて尚、雪像造りはどのチームも成し遂げたか……祭り強行なんて正気ではないぞ」
「いやぁ面白いねぇ、他人の行動でドン引きするなんて森の中じゃなかったのに……世界が広がっていく感覚だよ」
「もっと他の経験で広がれば良かったのにな……マジで」
「まだ時間は残っています! 最後の一押しで最優秀雪像の称号をこの手に! わおーん!」
「お前のそのやる気はなんなの? 俺の天敵なの?」
「ケール、絵札ですからっ!」
「努力の方向音痴マジやめて、そして手を離して引きずらないで、お前は絵札でも俺は怠惰なんだよっ!!!」
「では足をっ!」
「なんでっ!?」
両足をホールドされ強引に引きずられていくプラチナ。雑に扱われる大罪の悪魔と雑に扱う地獄の番犬、どちらも相当な強者なのにどこかアホで気が抜ける。それが不思議と面白く、ヒャクとシロガネは暴食の森では見せた事の無い気が抜けた笑みのまま後を追う。自分達の雪像の元まで戻ったケール達は、最後の一押しに取り掛かろうとする。拘束したカラナリの隣に寝転がるプラチナは、異変を感じ目を開けた。
「…………お前等、雪像から離れろ」
「はえ?」
倒した人形から漂う黒、周囲に充満する黒、そして味方からも漏れ出す黒、ここは黒に満ちている。この黒いモノは、悪魔には親しみのあるモノ。
「…………欲望だ、人形は欲望で強化されてる……どんな水面も石を投じれば波紋が浮かぶ、騒ぎをでかくすりゃ国中の人は反応する、心はざわめき人の想いは波紋を浮かべる……この黒は人の欲だ、敵味方入り交じったしたい、やりたい、しなきゃ、やらなきゃの集合体だ」
人形の強化に始まり、戦況は大きく荒れた。戦う者、守られる者、迎え撃つ者、逃げ惑う者、立場は違えど大きくかき乱された。そうして浮き彫りになった心の隙が、欲として国を満たす。溢れ出て周囲に充満したごちゃ混ぜの欲が、黒い霧のように周囲を満たしていた。そしてそれが、器に注がれていく。
「面倒だから同じこと二度言うのは好きじゃない、だけど特別だ感謝しろよ」
「雪像から、離れろ」
プラチナが立ち上がるのと、雪像が脈動するのは同時だった。ほぼ同時、七か所同時に激震が走る。その振動を受け、クロノと相対する慈愛が笑みを浮かべる。
「……この揺れに合わせてその笑みは、こっちにとっちゃ嫌な感じだな」
「いえ……相手側の出来次第というのも考え物だと思っていたのですがね……やはり我等が絶対正義は正しかった」
「相手の舞台に乗るのも絶対正義が完全完璧故、しかし相手を調子に乗らせるのはどうかと思っていたのです、だけれど浅はか、やはり絶対正義こそ至上、絶対正義は間違えない」
「なに悦に浸ってんだよ、気持ち悪いぞ」
「どれだけ抗っても、どれだけ対応しても、生きている限り心は反応し、欲を生む」
「不安や焦り、恐怖、黒い欲は抑えようが無いのです……我が慈愛は揺蕩う欲を導く導きの力」
「国に充満するお前達の欲は、我が慈愛が器に導きましょう」
「このくだらない祭りを彩りたいのなら、力添えをしてあげましょう……己等の造り上げた雪の塊に意味を差し上げましょう」
「雪祭りに相応しい裁きを、正義の名の元に差し上げましょう」
「導く? 支配と何が違うんだ」
「正義による支配なら、むしろ喜ばしいでしょうに」
国に満ちた黒が、完成した七つの雪像に注がれる。ごちゃ混ぜの欲を纏い、黒を立ち昇らせ雪像が動き出す。用意しておいた魔術も、コールのライブも置き去りに、敵の術中にハマりせっかくの雪像が暴れ出す。人の楽しみを奪い去り、嘲笑い、希望が反転し絶望と化す。
『おいおいおいおい! 第一フェーズ終了間際にとんでも事態がスタートしましたァ!? 雪像機動のビックリ魔術無しで雪像共が謀反開始だァ! 大罪共に似て反抗期真っ盛りかァ!? こっちの進行を無視しないでくださーい!!』
「しかも人形に施された強化より強力な強化がかかってるようじゃな、あの巨体で暴れられると大変な事になり兼ねんぞ」
『落ち着いてんなぁ国の王!! だけどそうだぜ普通に大変な事だぜこりゃあ! 巨人よりでけぇ雪像だ雪だと思って舐めんなお前等! 現在進行形で吹雪いてんだぜ雪花祭りッ! おいおいおいおいどうすんだこれどうなんだこれっ!!』
『やかましい、耳障りだ口を閉じろ』
『マイクがジャックで暴言イェア!? こ、この声は現場の傲慢さんじゃあねぇかYO!』
ウルスネプカの動揺と同時に、なんか後方で雪像が空中に舞い上がった。実況席から国中の観客まで全員が口をあんぐりする中、狂気染みた笑みを浮かべ傲慢が巨大雪像を地上目掛け殴り飛ばす。轟音と共に大量の雪を巻き上げ墜落した雪像の上に、傲慢の悪魔が翼を広げ舞い降りる。
『第二フェーズはパレードだったな、雪像が動き出し、ライブを流すんだろう? さっさとしろ何も問題はない』
『問題しかねぇように見えますけどぉ!? あんた何やって……!?』
『反抗的な愚図の躾けだ、下僕共の頑張りで随分と頭が高くなったモノでな』
『やんちゃな雪像を手懐けパレードを遂行する……悪魔混じりの祭りに丁度いい見世物だろうが…………何を恐れる、狂気に身を投じろ、お前等の欲がこの状況を作り上げたんだ、ならば存分に楽しむがいい』
『なにがあっても、我等がどうにかしてやるさ』
「ほほほ、これは見物じゃなぁ」
『マジで言ってんすかぁっ!? おいおい野郎共聞いたかよ!? エクストラステージ開幕だぁ!! 七体同時の大ボス戦だ目ん玉おっぴろげて刮目しやがれえええええええええええええええっ!!』
国が揺れる、馬鹿げた勢いのまま歓声が上がる。傲慢の一撃を喰らって尚傷一つない巨大雪像が、ゆっくりと立ち上がる。雪像の上から飛び降り、地に降り立った悪魔は楽しそうに笑っていた。
「傲慢の旦那ぁ! あんたの言う通りに造ったけどよぉ!」
「順調にいきすぎてアホみたいにでかくなったぞ! 大丈夫かこれぇ!?」
「そして滅茶苦茶頑張って造ったのにあんたの手でぶっ壊す気かぁ!?」
「騒ぐな下僕共、騒々しい」
「我は任せろと言った筈だぞ、黙って見ていろ」
「反抗的な奴ほど、従わせるのが楽しいんじゃないか」
チーム傲慢作、ビッグ傲慢スペシャル(でかいエゼクツェン型雪像)。大小傲慢が並び立ち、火花を散らす。
「いやなんだこの絵面! なんだあのクオリティッ!!」
「レラさん前! 素直に危ないですって!!」
大量のシャボンを切り伏せながら、レラは己の役目をなんとか果たした。一方その頃、チーム強欲ではスピネルが溜息を吐いていた。
「連戦とはついてないです、しかもやりにくいし」
「まっ、気持ちはわからんでもないな」
ルベロがケラケラと笑い、スピネルの肩を軽く叩く。二人の目の前には、超巨大ロボがそびえ立っていた。
チーム強欲作、雪とロマンの巨大ロボ。ドゥムディ監修の力作である。建造に携わったチームの皆が、涙を流し戦線に並んでいた。
「俺達の夢とロマンが……敵に回るなんて……」
「でも動いてるぜ……俺達のロマンが……」
(クソやりずらい……)
「はっはっは、愉快な展開だな」
「おれは強欲だ、優勝も狙うし当然おれ達の傑作も無事に抑え込むさ……やるぞお前達っ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
「おーおー……大した結束だなぁ」
「アホなんですかどいつもこいつも」
「なんだちびっ子、お前あのロボ嫌いか?」
「好きですけど」
スピネルはちゃんと男の子だ。強欲チームが謎の結束を見せる中、怠惰チームはプラチナの声で危険を回避していた。雪像が振り下ろす巨大な拳を、なんとか仲間達は回避する。
「……で、寝てたから知らないけどなんなんだよあれは」
「雪だるまだね」
チーム怠惰作、エンジェル雪だるさん、何故か天使の羽と輪っかを装備した超巨大雪だるまである。
「何故天使……? 大罪の悪魔混じりの大会に何故?」
「ふふふ、ついベルさんの事を考えていたら雪像にまでベルさん要素が入ってしまいました」
「うわ出たデンジャラスマシナリー」
「良く分からないけど知り合いの要素を取り込んだ雪像とか戦いにくいのではぁ?」
「はい、ベルさんだと思うと加減が出来るかどうか……」
「会話成立してるこれ?」
ピットは困ったように重火器を用意している、このままでは雪像が粉々になる気がする。
「さぁボス戦と行きましょうか……!」
「おい犬! 面倒な事になる前にあのポンコツを止めろ!」
「わふっ!?」
怠惰チームが面倒な事になってる頃、憤怒チームもそりゃもう面倒な事になっていた。戦闘開始前からバロンが戦闘不能になっていたからだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! 無理だ、俺には出来ない!」
「この手で、この手で麗しのルト様を傷つけるなど、うおおおおおおおおおおおっ!」
チーム憤怒作、麗しのルト様雪像。当然バロンは攻撃不可能だ。
「どうしてこうなったんだよ」
ドン引きするインクだが、止めなかった自分にも多少は責任がある気がして強く言えなかった。
「いやぁ邪魔はせんと言ったけどおもろいから協力はするやん? 楽しいからわっせわっせと興が乗るやん?」
「このバロンの煌めきと友人の四天王パワーにより、スーパークオリティルト様が爆誕してしまったのだ……!」
「わ、私もお力になれればと……つい……」
常識人枠のシーが止めなかったのだ、誰に止められたというのか。既に巨大ルト雪像は動き出し、チームメンバーに襲い掛かっている。このままでは犠牲者が出てもおかしくはない。
「それでも、俺には……俺に、は……」
「さっさと終わらせよう、傷が浅い内にな」
マルスの浄罪の雷が、ルト雪像に直撃した。
「なにしてくれてんだ大罪おらああああああああああああああああああああああっ!!!」
バロンの絶叫響く中、悲しい戦いが始まった。しかし悲しい戦いならこちらも負けていない、チーム色欲では肝心要の大罪がまた膝をついて絶望していたからだ。
「し、しっかりしてくださいミライさん、悲しいけどやらなきゃみんなが危ないです……!」
「ちょっといい加減にしてよ! 何回同じ事繰り返すのよ!!」
ロベリアとリリネアが声をかけるが、ミライにとって余りにも酷である。
チーム色欲作、ビックラヴ。それは余りにも巨大なハート型の雪像。ミライの愛に対する情熱全てを注ぎ込んだただただでかい、でかすぎるハート型の雪像。それが今動き出し、全てを轢き潰さんとする災害となろうとしている。
「でかすぎるのよ!! 国の外周通路が動くだけでぶっ壊れそうなんだけど!! 限度があるでしょ馬鹿じゃないの!?」
「私に……」
「なにっ!?!?」
「私に、愛を……愛を壊せっていうの……!?」
「うっせぇ戦えバカッ!!」
「酷い話だ見てられないぜ……」
「そうだね、酷い話で呆れてモノも言えないね」
「やるぞシャル、俺達がこんな酷い戦いを終わらせるんだ」
「結局こうなるんだね、わかってたけどさ」
愛に尽力した優しき悪魔に、辛い仕事はさせられない。汚れ仕事なら喜んで請け負おう、このデビルヒーロー……ルイン・ザ・ダークが! 口に出したら殴られそうだから、ルインは心の中でそう叫んでいた。
そして此方はチーム嫉妬、動き出している雪像への対処へ追われているのは他のチームと同じなのだが、嫉妬の悪魔レヴィの表情はとても複雑だった。
「レヴィが人形の対応してる間に、なにをしてくれちゃったのかな」
「えー? 我女王ぞ? 良く分かんないなー???」
「何故かピットちゃんからの狙撃が増えたあああああああああああぎょおおおおおおおおっ!!」
多分後ろの方で爆ぜているアホ天使も絡んでいるのだろうが、あれは今気にすれば余計面倒なので背景で爆ぜていてもらおう。頭の上の妖精女王はいつも通りウザい上に答える気も無さそうなので、仕方ないから会話が成立する奴を頼る。
「メイド、お前何か知ってるかな」
「メイドですので、これこそチーム嫉妬に相応しいとラズライト様とベル様が」
「……常識人枠兼ツッコミ役の人魚は何をしてたのさ」
「その役割を請け負った覚えはないんだけど!? いきなり投げ渡された怪我人の治療に必死よ!!」
「俺様は怪我してねぇ」
「重傷よ! どっからどう見ても重傷っ!!」
「怪我人も少なくないの、あんなでかいのに暴れられると不味いんだけど!?」
「……わかってるけどさ……」
心底嫌そうに、レヴィは顔を上げる。目の前で暴れているのは、セツナの姿をした雪像だった。
「ピットちゃんの砲撃を神回避しつつ……ラブリーエンジェルポーズッ!」
「これぞチーム嫉妬作……いやチームツンデレヴィちゃん作っ! 『レヴィのだいじなおともだち』!! 雪像のクオリティだけでは勝利は掴めない……ならばレヴィちゃんのギャップ萌えを利用し皆の支持率ガッポガッポ作戦だぜえええええええええええっ!!」
「死ぬと良いんじゃないかな」
レヴィの投げつけた雪玉がベルの顔面にヒットし、動きを止めたベルは砲撃の嵐へと消えた。ご丁寧に剣まで再現してくれやがって、巨大なセツナ雪像はやりにくい上に変に強くて心底うざい。
「やってくれるね……雪像とはいえセツナに苦戦とか屈辱以外のなんでもないよ……」
「友達そっくりの雪像はさぞやりにくいだろうねぇ……うへへ」
「頭の上も心底うざい……!」
嫉妬チームが不要な苦戦を強いられているが、各チーム大なり小なり対応に追われているのは確かだ。だが残された暴食チームだけは、少しだけ他とは違う。このチームだけは、他からの横槍で暴走させられたというよりは……。
「流石のボクでもよォ、これに喰らい付くのは勘弁してェんだけどなァ……」
暴食の大罪ですら、ドン引きする程の異質な存在。『それ』は人形の処理をしつつ浮き彫りになった欲という概念、それを全方面から興味と好奇心で弄り倒し、なんか雪像造りのついでにあれやこれやと実験を重ねありとあらゆる色々をハチャメチャ無茶苦茶グッチャグチャに混ぜ合わせ悪乗りの限りを尽くした一人の暴走エルフのせいで爆誕した雪像だった物。慈愛の横槍なんて関係なく暴走した、異形の大作。
「これぞチーム暴食作! 欲望フルコース・エルフ風味ですっ!!」
雪とは何か疑いたくなる漆黒の塊、生物のように脈動する触手。毎秒形を変え、内部から奇声響き渡るそれは、間違いなくこのまま放置してはいけない危険物だった。
「お前それをチームで作ったとか共犯者扱いはやめろよなァ」
「え、またわたし何かやっちゃいましたか!?」
ピリカ一人で造ったわけではなく、ピリカの指示で多くの者が雪像造りに貢献した。だけどなんか途中から凄い事になって気が付いたらあれが出来ていたとはチームメンバーの言葉だ。
「中から変な声がするんだけど……何か生まれるんじゃないのこれ」
「ギィィィ……」
ドン引きするノクスの背中から、怯えている様子のキィが生えている。その後方ではラーネアとティドクランが顔をしかめていた。
「魔物の本能が近づくなっつってんだよな」
「せ、背筋が冷たく……」
「…………つまり、未知?」
「お前、これ終わったら説教だからなァ」
「そんな馬鹿な!?」
さぁ、追加ボス七連戦の始まりだ。




