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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十五章 『雪花が彩る正義の形』
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第八百四十七話 『頑張れ切り札』

 国の全域が強化人形に襲われ、大混戦のパニック状態と化したカオス極まるこの状況。そんな中突然せり上がったステージの上で切り札と敵の大ボスが真正面からのシンプル極まる一騎打ち。何故こんな事になったのか、話はほんの数分前に遡る。切り札は数分前、シャボン玉に負けていた。



「うわああああっ!!」



「よっしゃああ! この子全然大したことない! 任務続行一斉射ーーっ!」



 一時は傲慢の悪魔の傲慢極まる理不尽な暴力に圧倒されたシャボン女だったが、セツナが前線に出た瞬間状況は一変、あまりにも頼りにならない切り札相手に完全に息を吹き返し暴力の限りを尽くし暴れ回っていた。



「何故その体たらくで前に出た切り札!!」



「それは私が切り札だからぶべらっ!」



 レラのツッコミに返事をするセツナだったが、悲しい事に切り札は二つの事を同時にこなせる程器用じゃない。爆破シャボンの爆風で木の葉のように舞ったセツナは受け身を取れず、百点満点の顔面着地を決めてみせた。



「素直に困りましたね! もう吹き荒れる雪よりもシャボンの方が多いくらいです! 皆を守るのが手一杯で防戦一方ですよ!」



「クソ、人形の勢いも増して……このままじゃ押し切られる……なんとかしてくれ傲慢さんよぉ!」



「おい貴様、そこ欠けているぞふざけているのか」



「す、すんません……」



「おい大罪の悪魔ぁっ!!」



 必死に風を操作しシャボンと人形の猛攻からチームメンバーを守るレラとアズだったが、次第に手数の多さに押され始めていた。その後方では傲慢にこき使われ雪像をペタペタと作り上げる者が数名。加勢の意思がまるで感じられない。



「聞こえてんのか傲慢ごるぁっ!」



「なんだやかましい、そのような雑魚さっさと片付けろ」

「そもそも貴様等の力量なら一人でその程度の女片付けられるはずだ、何を苦戦している」



「ムカつくなぁこの大罪っ!」

(絵札二枚に切り札一人、俺だって最低最悪な師匠に死ぬ程鍛えられた……分かってんだよ苦戦してる不甲斐なさ! クソ!)



 顔面着地を決め白目になってる切り札と、それを抱え逃げ回る無口わんこ、守りに手一杯な自分と触手絵札、手は足りている筈なのに、あまりに嚙み合いが悪い。状況が悪いのは間違いないが、それでもここまでの苦戦はこちらの対応の悪さもあるのだろう。上手くかき回され、実力の半分も発揮できていない。このまま不甲斐ない姿を晒し続ければ、極悪非道な師匠が何処で目を光らせ後で何を言われるか分かったモノじゃない。正直、そっちの方が憶倍怖い。



「この状況を引っ繰り返すには……」



「うおおおおおおおおおおおおおお! 俺を見ろおおおおおおおおおおおおお!」



 突如響いた聞き覚えのある声、意識が引っ張られる前に、視界を埋め尽くすほどのシャボンが全て声の方に引っ張られていく。



「はにゃ? 操作不能!?」



「うおおおおおおおおおおおおおおおっ! 勇者パーーーーンチッ!!」



 そして一塊になり誘爆しまくるシャボンを、力任せに殴り壊し爆風を突き抜け半焦げのラックがレラ達の前に転がってきた。



「痛い! 熱い! 時々冷たいし痺れるし溶けたりすっぱかったりなんか色々やっべぇなんだ今の爆発! ぺっぺっ……!」



「ラック!? お前なんだ今の!?」



「知らねぇけど俺なんか攻撃引き付けられるんだ! そんな事より切り札どこだ切り札!」



「そこだ」



「※両手でセツナを持ち上げている」



「死んでるぞ!!」



「死んでないぞ……ちょっと顔を痛めただけだ……」



「そっか! レフィアンがお前の手を借りたいらしいんだ、今ラサーシャがあっちで話を付けてくれてる!」

「切り札! お前ステージの上でボス戦してくれ!」



「え?」



「お前じゃないと駄目なんだ! お前しか勝てないらしい!」



 どうも急を要するようだ、相当に厄介な奴が居るらしい。しかし能力を無条件で切り伏せるセツナは何処でもどのようにでも使える万能な一手、防戦一方なここから引き抜かれると更に状況は悪化しかねない。そこまで考え、レラは己の不甲斐なさに心底吐き気がした。これじゃ師匠には失望され、ピリカには間違いなく呆れられる。何の為に、死ぬ気で自らを鍛え上げたのだ。



「あの待って、話が見えな……」



「いけ切り札、ここは大丈夫だ」



「いや、大丈夫じゃないのは切り札で」



「あのシャボン女は、俺一人で十分だ」

「無口わんこは切り札を舞台まで護衛してやってくれ、アズさんはちょっと周囲の守りを頼む」



「※言われなくてもセツナから離れる様子がない」



「おぉ? どうしましたレラさん、素直に顔つきが変わりましたが」



「なに、単純な話だ」



 刀を構え、魔力を纏い、息を整える。不甲斐ない姿はここまでだ、この状況を引っ繰り返す為……修行の成果って奴を存分に発揮してやろうじゃないか。



「おいシャボン女、俺に集中しろ」



「はぁ? 何々防戦一方だったエルフ君が私様をご指名ですかぁ?」

「私様は優しいからね、ご希望の死因があるなら可能な限りお答えしちゃいま」



 女までの距離は、シャボンが埋め尽くしている。だから一閃でシャボンを切り伏せ、女の頬を斬った。どうもこのシャボン玉は一つにつき一つ何かしらの効果を内包しており、爆発したり燃えたり感電したり破裂するまで何がどうなるか分からないロシアンシャボンだ。だから何が起きても良いように、対応しつつ一閃した。まぁつまり、エルフに多様性で挑むなんて無謀って事だ。



「俺も集中する、無様はここまでだ」



「…………へぇー……ふぅーん……なるほどなるほどー……?」



「やっとマシになったか、戦場で全力を出さんのは無様というより無能だぞ」



「後ろがうるせぇけどマジでその通りだな、言い返す言葉もねぇ」

「死に物狂いで修行したんだ、死に物狂いで必死に実力の全部を発揮させてもらうよ」

「それが、大馬鹿野郎の友人枠の在るべき姿だ」



「…………私は『寛容』のリッティ……私は全部受け止めるし全部受け入れる」

「……どんな望みも叶えるよ、だから希望の死因を教えてね」



「俺の望みは死の先にはねぇんだ」



「あっそ……生意気」



 こうしてレラは戦場を引き受け、切り札をあるべき舞台へと送り出した。ロスに抱えられたセツナは言葉を差し込む隙を与えられず中央広場まで運搬され、ラサーシャが話を付けていた為それはもうスムーズにせり上がるステージに放り投げられた。元々ここで歌う予定だったコール達に背を押され、しかもリムニアからエールまで貰ってしまったセツナはまんざらでもなく、ドヤ顔の無表情で何が何だか分からないまま台本通りに敵の大ボスを挑発、今に至る。





(今に至る…………じゃねぇええええええええええええええええええええええええっ!!)





 さっきまで爆心地のど真ん中を駆け回り、殺人シャボンラッシュ全避けチャレンジの最中だった筈だ。それがどうだ、更にやべぇ状況と真正面から向き合っている。数秒前自分が挑発した結果なのだが、敵の大ボスと一対一のガチバトルは流石に想定していない。切り札脳の理解を超えている、理解したくない、誰でも良いから助けてください。



(いや待て落ち着け、落ち着いて切り札的に状況を整理するんだ、一筋の光を見つけ出せ……!)



 まず自分は切り札だ、お世辞にも強くないけど能力なら無効化出来たりする、良く分かってないけど。物凄くドジで、自分なら絶対に頼りにしない。



 そしてこのステージ、結構広いが凄く高くて怖い。逃げ場はない。



 お相手は騎士っぽい女の子、格好いい。めっちゃ強そう、勝てる気はしない。剣を杖みたいにして堂々としてて、めっちゃ睨んできてる。勝てる気がしない。




(一筋の光すら見えない、話し合いでなんとか出来ないだろうか……)

「争いは何も生まない、そう思わないか?」



「力が無きゃ勝ち取れないのが世の常よ、だから正義は負けないの」



「そっかぁ……」

(お話の成立が難しそうだぁ……)



 向けられる敵意が痛すぎて泣きそうだ、もう駄目かもしれない。現実の直視を諦めた切り札は目を背けるが、眼下に戦場となってる国が見えた。楽しいお祭りが、滅茶苦茶だ。



「…………」



 準備段階から見てた、戦いの覚悟も準備も見てきた。みんなが頑張って、凄く頑張って、守りたいモノの為に頑張って……。



「…………全部見てたから、『私』が見ないフリは、嫌だって思ったから……」



「?」



「……もう、救えないで後悔するのは、嫌だから……お前が正義だとかどうでもいい」

「頼られたからには応えるのが、切り札だっ!!」



「そう、吠える姿は好ましいわ…………正義に刈られるのに相応しいもの」



 剣を構え、ゆっくりと振りかぶり、ルーチェは輝く斬撃を放ってきた。その速度はセツナが避けれる速度ではなく、剣を前に構え受け止める事しか出来なかった。正義は絶対の刃、受ける事は許さない。万象を叩き斬る絶対の必中必殺は、セツナの剣に当たって砕け散る。



「!??」



「っ! と……おっとっと……!」



 その威力はセツナが受け止めきれずよろつく程だったが、その結果にルーチェは絶句する。それは元々の威力でしかなく、己の絶対正義の効力が全く発揮されていないものだった。自分の正義が、真正面から否定された。



「…………イレギュラーは不愉快なモノですね、でもいいです、いいですよ……能力だけの女と思われるのも、心外ですからっ!!」



 剣を構え直し、ルーチェは純粋な速度で距離を詰め切りかかる。口ではそういうが、能力に頼らない攻撃なんて経験がない。それでもルーチェの能力は相当に高く、生半可なレベルじゃない。だけど、切り札のレベルだってもう低くない。剣をしっかり握りしめ、真正面から正義の刃を受け止める。



「っ!」



「伊達に、苛め抜かれてない……周りが鍛え上げた切り札を舐めてくれるな……」

「みんなが頼ってくれてるんだ、私は私を頼ってないけど、ここに立ってる私は間違いなく切り札だっ!」

「そう簡単に、倒せると思うなよ!!」



 受け止められるとは思ってなかったのだろう。予想外の力で押し返され、ルーチェは態勢を崩す。無防備を晒したルーチェの腹部を、セツナの右足が蹴り飛ばす。



「げほっ……!」



 絶対正義の防御は、どんな攻撃だって無効化する。蹴りの痛みなんて、何年ぶりだろうか。



「剣も魔法も武術も話術もお色気も! 私の仲間はなんでも教えてくれた! きっと覚えてない事もあるけど、それでも今の私は覚えてる!」

「その全部で、お前に勝つっ!」



 この戦いも勿論、国中に絶賛放送中だ。切り札の啖呵に国が湧き、謎の盛り上がりを見せている。その全てが、ルーチェの思考を怒りで塗り潰した。



「正義は……負けないの……負けちゃいけないの…………調子に乗るな、乗るなぁっ!!!」



「ごめんなさいっ!!!!」



 威圧に弱い切り札だが、冗談抜きでルーチェに勝てる可能性があるのは現状セツナだけだ。頑張れ切り札、負けるな切り札、過去一切り札が切り札しているぞ。



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