第八百四十八話 『行きつく先は、真っ向勝負』
『さぁさぁさぁ! 祭りは予想外の方向に舵を切り、正義と切り札の天上決戦のご開幕! 一体誰がこの展開を予想した? 予測なんざぁ出来やしねぇ! それが祭りだ楽しんでいけよ野郎共!!』
『同時進行で雪像造りも続いてる! 訳の分からねぇ人形共の襲撃でパニックが加速する中! 悪魔共はどいつもこいつも気にせずせっせと雪像造りに精を出す! ちょっとは動揺したらどうなんですかねぇ!』
「何度壊されても黙々と作る姿はちょっと面白いのぉ」
『んぎゃああああああああああああああっ! タンマちょっとタンマ! 切り札に長時間のシリアスは向いていない誰にだって向き不向きがああああああああああ』
いつも通りのハイテンション実況者を演じるウルスネプカと、淡々と解説する国の王。既にカオスなのだがそこに切り札の悲鳴まで加わり、笑えば良いのかドン引きすればいいのかすら分からない酷い有様だ。顔を上げれば、切り札が必死に剣を振り回す映像が映し出されている。知らない人からすれば無表情で戦うクール系切り札だが、あれは泣き出す数秒前のパニック無表情だ。
「それでも頑張ってる姿は、胸が熱くなるな」
(ならさっさと加勢しにいってやろうぜ、笑える状況も実際綱渡りだぞ)
フェルドの言う通り、セツナが負ければ笑ってる場合じゃなくなる。というかセツナでも駄目なら現状あの暴走正義騎士を止める術はないのだ。ちんたらやってる余裕なんて、こちらにはない。
「とは言え、余裕が無いのはそっちも同じだよな」
目の前で頭を抱える仮面の男に、クロノは笑いながら問いかける。本気で絶句しているその様子を見れば、この状況が相手からして心底面白くないのは明白だ。事実上の大ボス対決、これであの騎士が破れるような事があれば、正義の敗北は国中に流れる事になる。最大戦力が足止めされているというのも、かなり大きなポイントだ。あの二人の勝負の結果がこの戦いの行く末を左右するのは勿論、生まれたこの合間の時間をどう使うかも大事なポイント。
「セツナが作ってくれたこの時間で、俺は足を引っ張った分大活躍しなきゃいけないんだ……知り合いも多く来てるんだからこのままじゃ何言われるかわかったもんじゃないしね……特にスピネルから」
(エティルちゃん達からはお説教が確定してるもんね~♪)
悪魔みたいな精霊を四体も抱えている以上、この後に更なる負担を抱えるのは冗談じゃない。しっかり勝って、ちゃんとお祭りを楽しむためにもやる事はやらなければ。そう、未来で笑うためにもここでしくじるわけにはいかないのだ。
「…………っ」
後方で、レフィアンが膝をついた。片腕からは大量の血を流し、そもそも全身傷だらけだ。魔力も乱れ、息も乱れ、目からは光が消えてしまいそう。正直、意識を保っているだけで大したものだった。
「レフィアンさん、後は……」
「振り返るな、我の事なんぞ気にするな……カクリヨの狂気に比べればこの程度大したことはない」
「我のやるべき事は、わかっている……まだ終わっていないのだ、倒れはしない」
「我は勇者だ、心配するな」
なるほど、確かに勇者だ。勇者に思うものが沢山あるクロノから見て、文句のつけようがないくらいの勇者だ。それがなんだか嬉しくて、こんな状況でも元気が湧いてくる。
「よし、じゃあ任せるぞ」
「何をだ、国をか? 祭りを? 背中でも預けるか……?」
「全部だ、俺がドジしたら頼んだ」
「ボロボロの我に、大層なものを預けるモノだな……」
「俺は勇者が好きなんだ」
「乗せるのが上手い奴よなぁ」
レフィアンの顔に笑みが戻る、ボロボロだけどきっと大丈夫だ。クロノとレフィアンの会話の中に隙でも見つけたのだろうか、仮面の男が屋根から飛び降り逃走を図る。能力的にも状況的にも、その行動は正しいし予想は出来ていた。敵もそれを分かっていたからすぐには動かず、こちらの隙をついたのだろう。
「だからって逃がすわけねぇだろ」
ご丁寧に黒っぽい影みたいなモノで分身を作り、更には自分の姿を覆って陽動と隠密を同時にこなし逃げようとしてくれた。当然だが逃がさない、ここで逃がせば役立たずの称号がスーパー役立たずにグレードアップしてしまう。分身全てを蹴り砕き、闇のベールで身を隠していた仮面野郎の背中を蹴り飛ばす。精霊とのリンクが戻った今、速度でも感知力でもクロノはこの国の戦力の中で上位クラス。目の前の重要人物を、おめおめ逃がす程のアホではない。蹴り飛ばされた男は受け身を取りつつ向き直り、警戒の色を強めた。
「そうだ俺を見ろ、陰でコソコソなんてさせねぇぞ」
「わざわざ俺を狙い撃って戦場から遠ざけやがって、よっぽどお前達から見て俺は邪魔だったんだろうな」
「なるほど、隔離から逃れて……」
「俺の周りは頼りになり過ぎるんだ、助けられて無事に舞い戻ったよ」
「だからさっさと理解して頭切り替えろよ、除外する筈だった邪魔者がお前の目の前にいるんだぞ」
「逃げられるなんて思うな、それともお前等の正義は簡単に背中見せて逃げ出すのが売りなのか?」
「…………想定外が幾つも…………ですがそれがなんだというのか」
男は両膝をつき、両手を広げ天を仰ぐ。予想外の行動にクロノは少し動揺した。正直隙だらけだが、不気味で攻めの手が止まる。
「策が破れ、不覚を取り我等が何人倒れようとも、些末な事……我等末端の成否など些末な事なのです」
「絶対正義は破れない、絶対正義は揺るがない、絶対正義は間違えない、我等は絶対正義に縋る信者でしかない、我等の敗北など結果に影響はない」
「絶対正義が示す未来に、何の支障も有りはしない……!!」
「あの子が絶対勝つから、自分達が勝っても負けても関係ないってか……人任せが過ぎるな」
「だからって、負けを認めて能力解除しますってなるわけじゃないんだろ?」
天を仰ぐ姿勢で停止している男だったが、その周囲に黒が集まり始める。闇魔法とは少し違う、恐らくは固有技能。
「なら、バトル展開に変更はないぜ」
「我は『慈愛』……全てを飲み込む深淵の黒……我等が『純潔』の絶対正義に全てを捧げた者」
「成否に関係ないとはいえ、自ら悪に屈するなど有り得ない……我等は正義の兵故に」
「お前等の正義と他の誰かの正義は違う形だ、みんな違うんだよ」
「正しさなんていつだって不確定だ、だからみんなぶつかって、繋がって、理解していくんだ」
「一方的な決めつけや押しつけは、どんな事でも間違ってると思うぞ」
「絶対正義は間違えない」
「そうかよ、じゃあぶつかろうじゃないか」
「受けて立つぜ、俺はクロノ……偽勇者だ……否定してみろ正義の兵!」
巻き上がる黒に、クロノが飛び込んでいく。それ以外に構っている暇なんてないが、いつも以上にクロノは前しか見ていない、見れていない。それは国中に広がる、『優先強制』の影響だ。だが正義側の本来の形は、優先強制と優先反転の同時使用による枷だ。現在、反転の方の能力は国を覆っていない。今反転すれば、能力者が絶体絶命に陥るからだ。
「クソ……どうしてこんな事に……!」
「うふぅぁ~……もうなんにもしたくねー……」
地面でゴロゴロしているのは、怠惰の悪魔プラチナだ。そしてそのすぐ横で息を切らしているのは、反転の能力者であるカラナリという男。自身が倒れれば反転の影響は消え失せる、だから絶対にやられてはいけない、だからカラナリは前線から退き身を隠した。そして運悪く、怠惰と鉢合わせた。怠惰を強制され、そしてそれを反転された働き者の化け物と。全力で逃げたし、全力で抵抗した、その全てが2秒で否定された。正直、反転を解除しなきゃ今頃カラナリはボロ雑巾だった筈だ。
(死ぬかと思った……こいつの近くで能力を使うわけには……いや、国の何処で使ってもこいつを反転させる危険がある……! だが反転しなきゃ国中にかかるのは優先強制だけになる……襲撃を受けた側の動きなんてそれに対処するのが当然、対応対処が優先一位ならそれを強制してもこちらとしては何一つ旨味はない、ただのバフになりかねない……一刻も早く反転を再発動しなきゃ……)
「もう雪像造りとかどうでもいいよ……俺がいなくてもなんとでもなるでしょ……サボり最高惰眠こそ世界の真理……むにゃむにゃ……」
さっきまで災害と見間違うくらい恐ろしかった悪魔が、惰眠を貪っている。隙だらけだが、さっきの強さを見てしまっては手を出す気にはなれない。100%どころか1000%勝ち目が無い。
「と、とにかくこいつの近くはダメだ……すぐに離れて反転を再発動して……」
「見つけましたよプラチナさ~ん…………」
上から声が聞こえた。その声にビクッと反応したのはカラナリではなくプラチナの方だった。視線を上に向けると、屋根の上からケールが覗き込んでいた。
「サボるなんてとんでもない! 襲撃もお祭りも楽しまなきゃ損じゃないですかっ!! 貴方の友達であるこのケールが、絶対にサボらせませんからねっ!!! わおーんっ!!!」
どうやらこのわんこの優先一位は、友達と楽しむ事らしい。
「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!!」
「なんだ、なんなんだこいつらはああああああああああああああああああああっ!!」
反転してもしなくても、変わらぬ地獄を見せてやろう。怠惰と番犬の板挟みが、正義を襲う。




