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Another Tiny Dungeon~戦争奴隷の人族だけど平和な学園生活を送りたい~  作者: フォンダンショコラ
第一章「どうせやらなきゃならないなら、思う存分やってみる」

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2/6

#01 入学式の朝

「・・・ぉお。こうやってみると感無量だな」


 しみじみと息子の晴れ姿を目にしながら大柄な男がいった。


「義父さん、それじゃまるで娘を嫁に出す父親みたいだよ」


 苦笑しながら答えたのは黒髪黒瞳のまだ顔に幼さが残る少年。

 義理の父が目頭を抑えながら褒める装いは、今日から通うことになる学園の制服だ。

 今日は入学式、外はどこか落ち着かない雰囲気が漂っている。それもそのはず、ここは世界有数の学園都市なのだから。

 その入学式ともなればお祭りのようなものだ。

 制服は黒を基調とした折襟の上着と、動きやすさと耐久性を考慮されたズボン。

 軍人のような出で立ちだが、それもそのはずこれから入学する学園は軍学校のようなもので、所属する生徒は準とはいえ 、軍属になるのだから。


「いやな、お前を連れてきてから10年は経つんだと思うとな色々こみ上げてくるものがあるんだよ」

「義父さん・・・」

「いや、すまん。晴れの舞台で湿っぽい話はやめよう。今日は一日めでたい日なんだからな!」


 湿っぽくなった空気を払拭するように大柄な男は腕を組んで「ガッハッハ!」と豪快に笑い飛ばした。

 少年とは風貌も似ても似つかない。男は少年の義理の父なのだからそれも仕方がないだろう。

 男の名前はガンダ=ゼルムス。少年の名はルカ=ゼルムス。


 二人とも人族ではあるが、その姿はまるで似ても似つかない。ガガンダが、やんちゃな少年に野性味と豪放さをプラスしてそのまま大人になったというのであれば、対するルカは勤勉家な優等生が貧乏と苦労を背負って強くなったようなそんな風体である。

 体つきだって2メートル近くはあろうガンダと頭3つ分くらいの差があるルカでは良くて先生と生徒。関係性を知らなければ他人に見えてしまう。


「ほんと、義父さんと一緒にいると不安とか感じる暇もないよね」

「なんだルカ。おまえ不安とか感じてたのか?」

「…いや、だってさ。ちゃんとやっていけるのかなぁとか。新しい人間関係とかさ」


 もごもごと口ごもる。初めての環境で緊張しないという方がおかしいと思う。


「大丈夫だ。ルカならなんにも問題がない」


 あっけらかんとガンダが眩しいくらいの笑顔を向けて断言する。

 無責任に思える発言だが、ガンダが心の底からそう思っているのをルカはわかっていた。信頼とか信用とか、いままでの生活でお互いのことはわかっているからこそ言える言葉だと感じられたのだ。

 ルカは自然と自身の顔にも笑みが浮かんだのを自覚した。


「そうだね。義父さんの言う通り、たしかになんとかなるよね」


 災禍は幸運のコインの裏表。どうにかなるものだ。


「そうだ、その意気だ!お前ならクルセイダーの師団長にだってなれるぞ!!」

「よっし!!僕は師団長になってや―って義父さん、それは言いすぎだよ」

「そうか?バルデアの野郎はルカならなれると太鼓判を押してたぞ?」

「バルデアおじさんは、身内に甘いからなぁ」


 ガンダの部下でもある竜族の美丈夫の笑顔を思い浮かべながらルカは苦笑した。ガンダの仲間たちはガンダと同じく10年来の付き合いだ。なんだかんだとルカにはべらぼうに甘いことをルカは知っている。


「って、おい、ルカ。時間は大丈夫か?」


 そんなことを話していると、時計をみたガンダが言った。つられて時計を見るとそろそろ 家を出たほうがいい時刻だった。


「あ!そろそろ出ないと。それじゃいってくるね!」


 新品のカバンを手に家を出ようと扉に手をかけたルカの背中にガンダは声をかけた。


「俺もあとで行くからな!」


 どうやら入学式に参加するつもりらしいのだが、ガンダの仕事は忙しい。決まってこういうときは来られないのをルカは知っている。


「あはは。期待しないでまってるよ!」


 ルカは知っていながら、笑顔で家を出た。

 後で行く。この言葉が守られたことはない。バツが悪そうに頭をかいているガンダを背にルカは家を出て、落ち着かない街に繰り出したのだった。




「ちょっと急がないとかな」


 遅刻はしないだろうが、時間的にゆっくりはしていられなさそうだ。小走りに石畳を蹴り出した。居住区画から学園がある街の中心部まではトラムを使ってもそこそこ時間がかかる。


「学園か、どんなところだろう」


 人族である自分が学園生活をうまくできるかというと不安がないといったら嘘になるが、新しい環境に対する期待だってある。

 家から出て、路地をすぐに曲がれば島の南北を貫くメインストリートの一つ、ライナ通りに出る。通りの名前の由来はかつての大戦の英雄ライナ=ゼルンという魔族からもじったものだという。この通りに出るたびに義父が得意げに語っていたので覚えてしまった。

 馬車が2,3台すれ違っても余裕があるほど広い大通りはいつもの賑わいを見せている。朝早くから営業している顔なじみのパン屋や、八百屋は忙しそうに接客をしている。


 焼きたてのパンの香ばしい匂いに、荷馬車が運ぶ土付き野菜の青い匂い。そこに朝露を含んだ風が混ざって、ライナ通りの朝はいつも少しだけ賑やかで、少しだけくすぐったい。

 通りの中央には公営トラムのためのレールが敷かれており、まだ本数の少ない朝の時間でも、ときおり鐘を鳴らしながら車両がゆっくりと通り過ぎていく。竜族の大きな尻尾を器用に避けて歩く商人。頭上のハイロゥを光らせた神族の親子。小さな角を持つ魔族の学生たち。そういった人々が当たり前のように行き交う光景は、この島が五つの種族の交流地なのだと嫌でも実感させる。


 もっとも、その中に人族の姿は多くない。まったくいないわけではないけれど、いても店の奥で荷運びをしていたり、視線を伏せて足早に通り過ぎたりする者がほとんどだった。

 ルカはその光景を横目に、肩にかけた新品の鞄の位置を直す。今日は入学式だ。浮ついた街の空気につられるように胸が高鳴る一方で、ほんの少しだけ見慣れた光景に腹の底が重くなるのを感じていた。




「おールカ坊。今日はパリッと決めてるじゃねーか。そういゃ今日は入学式だったっけか?」


 ライナ通りを進んでいたら、聞き覚えのあるべらんめえ口調で声をかけられた。


「あ、ベルガおじさん。おはようございます!」


 ルカは声をかけてきた相手に頭を下げて挨拶をする。

 家の前におかれた椅子に足を組んで座ってタバコをふかしているのは、見知った竜族の男だった。


「ルカ坊は相変わらず礼儀ただしいねぇ」


 タバコを一口すって、ふぅ~とベルガが紫煙を吐き出す。


「ありがとうございます。そうなんです今日は入学式なんですよ」

「おお。そういや受かったんだってな。あーなんだったっけか」


 頭に手をあてて考える仕草をしている。


「せ、せ、聖ト、ド…… 性奴●●学園?」

「ぜんぜん違います。聖トリスディア学園です」


 朝からなんということを言うんだ。


「そうそう、それそれ聖トリスディアな。聖トリスディア。ばっちし覚えたぜ」


 絶対5分後には忘れている。

 このやり取りはすでに5回は繰り返しているのだから、この先も同じことが続くんだろうな。とルカは内心で苦笑した。


「いやー、めでてぇなぁ。あんなちっちぇぇルカ坊が入学式だっつーんだから。いよっ。いっちょまえ!」

「ありがとうございます!でもまだ制服に着られてるって感じがしますけどね」


 苦笑するルカにあっはっは。ちげぇねぇ。これじゃ服が歩いてるように見えんな。とベルガが闊達に笑った。この人のあけすけな態度をルカは好きだった。


「ところで、ルカ坊。うちの孫娘の婿にならねぇかい?」

「唐突過ぎます!」


 ルカのツッコミにあっはっはとベルガは笑って流す。

 ここからいつものやり取りだ。ルカの何が気に入っているのかベルガさんは事あるごとに婿になれ攻撃をしかけてくる。

 あんなに目に入れても痛くないほどかわいがっている孫娘なのに、だ。

 以前、たまたま孫娘ちゃんが遊びに来ているときに、とても愛くるしい竜人の子供だった。栗色の柔らかい髪の毛は巻き毛気味だが、撫でるとふわふわで心地よい手触りだったのを覚えている。足に抱きつかれて「お兄ちゃんすきー!」と言われたときにはキュンとして思わず父性が目覚めそうになった。

 そうつまり、孫娘ちゃんはまだ幼子なのだ。


「なりません!それにおじさんところの孫娘さん、まだ幼いじゃないですか」


 恋愛には興味がある年頃だが、ロリコンのそしりはうけたくない。というか、というかだ。もし婿入りしますなんていって、孫娘ちゃんを連れて帰ろうものなら義父が卒倒しかねない。いや、あの義父なら面白がって笑い転げる可能性もある。


「確かにまだ20歳だがよ。人族からしたら年頃だろうがよ」


 しかもぴっちぴちだぞ?と下衆い顔をして耳打ちしてくるのを苦笑しながらルカは「けっこうです」と言いながらやんわり押しやった。


「まあ、子作りするにゃ、ちと早いか」

「そういう事言わないでください!」


 そういう事言われても返答に困るのだからやめてほしいとルカは思った。

 あっはっは!と笑い飛ばすベルガを恨みがましい視線でルカは睨んだ。

 ベルガは竜族と呼ばれる種族だ。彼の尾てい骨あたりからは竜族の特徴である立派な爬虫類の尻尾が伸びているのがその最大の特徴である。尻尾は彼らの感情の起伏を示すものなのか、今はベルガのご機嫌な感情をあらわすように左右にゆらりゆらりとゆれている。朝日に輝く鱗の色は赤。彼は竜族の中でも赤龍に属する人だ。


 竜族の特徴はその太くたくましい尻尾が生えていることと、他の種族に比べて倍以上の長命であること。それ以外は一見して人族のように見える。


「ってーそういや、引き止めちまったが、時間は大丈夫なのかい?」

「あっと、すみません。そろそろいかないと!」


 懐中時計を取り出す。ちょっと急がないとまずい。


「それじゃ、いってきます!」

「おうおう、十分きばってこい」


 ひらひらと手を振りながら再びパイプに口をつけて煙を吸うベルガを背にルカは少し早足に駆け出した。

 思ったよりも時間が経ってしまっていた。ルカは学園に向かう道を少し足早に歩ていく。

 そんなルカの後ろ姿を見ながら、すぅ~と煙を吸い、吐き出しながら誰にいうでもなくベルガが感慨深げに呟いた。


「…人族の子がクルセイダーズ志望ねぇ。ガンダの奴は何を考えているんだか」

ちょっと名前を変更。。

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