王女
アラジンは毎週のようにきらびやかな貢物を携えては、弾むような足取りで宮殿を訪ねていきました。
「ロクサーナには、きっとこの髪飾りが似合うと思って持ってきました」
彼が誇らしげに差し出したのは、異国の香りが色濃く漂う、銀細工の翡翠の髪飾りでした。透き通るような薄緑色の石と、気の遠くなるほど細やかな彫刻が刻まれた銀の骨組みが彼女の美しい黒髪の横で上品に揺れ、ロクサーナは嬉しそうに表情をほころばせました。
「なんて素敵なの。アラジン、この見事な髪飾りはどこの国で作られたものなのかしら?」
無邪気に首を傾げて尋ねるロクサーナに、アラジンは一瞬だけ言葉を詰まらせました。まさか自分の部屋で魔人に「一番高価な髪飾りを出せ」と命じて作らせたものだとは言えません。彼はすぐに頭をフル回転させ、それらしい物語を仕立て上げました。
「ええと、確かこれは東の果てにある大国で作られた至宝のはずです。この薄緑色の石はまたの名を天上の雫とも言いまして、天女が地上を哀れんで流した涙が固まったものだとか、あるいは大空を駆ける龍の剥がれ落ちた鱗が雨に溶け込み、大地に降り注いだ時に作られたという神秘的な伝説があるのです」
物語に深く聞き入り、茶色の瞳をきらきらと輝かせるロクサーナに、アラジンは満足げな笑顔を返しました。
「まるで天女のように気高く美しいロクサーナにこそ、この特別な宝石はふさわしい」
優しく囁きながら髪飾りを彼女の髪に宛がい、頬を林檎のように赤らめるロクサーナの顔をのぞき込むようにして、アラジンはさらに声を潜めました。
「ロクサーナ、なぜ僕が毎週のように、こんな風に誰も見たことがないような貢物を持ってこれるか、その理由がわかるかい? 実は、僕はただの王子であると同時に、偉大なる魔法使いでもあるんだ。これは誰にも言ってはいけない、僕と君だけの秘密だよ」
ロクサーナは、突拍子もないことを自信満々に言い出したアラジンを見て、くすくすと楽しそうに笑いました。目の前の若き王子が、自分を喜ばせるためにまた得意の冗談を言ってからかっているのだと思ったのです。
「嘘じゃないさ。本当さ。さあ、愛しい王女様、瞳を閉じて僕の手を取って。そこに置かれたベッドに腰かけてごらん。今から本物の魔法を見せてあげよう」
「どんな驚くことをしてくれるのかしら。楽しみにしているわ」
ロクサーナはアラジンに促されるまま、悪戯っぽく微笑みながら静かに目を閉じ、豪奢なベッドに腰かけました。シーツがわずかに沈み込み、すぐ隣にアラジンが腰かけた気配を感じます。
アラジンは上着の懐に隠し持っていた煤けたランプを素早く取り出すと、その表面を強く擦って魔人を呼び出しました。出現した影に向かって、彼は声を張り上げます。
「アーブラカダブーラ。ジーニーよ、このベッドをそのまま運び、僕たちを素敵な空の散歩に連れて行っておくれ」
青い肌の魔人が感情のない顔のままパチンと指を鳴らすと、巨大なベッドが自重を忘れたかのように、床から音もなくふわりと浮き上がりました。そして、心地よい夜風が吹き込む開け放たれたバルコニーを滑るように通り抜け、遮るもののない大空へとまっすぐに舞い上がっていきました。
「ほら、もう目を開けてごらん」
アラジンの弾んだ声に、ロクサーナは恐る恐る瞼を開けました。その瞬間、彼女は驚きのあまり息を呑みました。
眼下には、夕日に赤く照らされた広大な宮殿の屋根と、どこまでも遠く続いていくバルドゥーンの街並みがミニチュアのように広がっていたのです。
あまりの高度にすくみそうになるロクサーナの震える手を、アラジンは力強く、しっかりと握りしめました。
「僕がこうして捕まえているから、何も怖がることはないよ。さあ、二人だけの空の散歩に行こう」
ベッドはさらに高度を上げ、夕闇に包まれつつある王国の上空をゆっくりと旋回するように飛び始めました。冷たく心地よい風が、二人の髪を優しく揺らします。
「見て、街に明かりが灯り始めたわ。あの一つ一つの小さな光の中に、人々の温かい暮らしがあるのね……」
ロクサーナが感動に震える声で呟くと、アラジンは地上の景色から目を逸らし、彼女の横顔を見つめました。
「そんな下々の暮らしのことより、ほら、空を見なよ。地上じゃあ決して見られないほどの満天の星だ。あの大きな月が、まるで僕たちの輝かしい行く末を祝福しているみたいだろう?」
ベッドが夜空の深みへ登っていくにつれ、地上の国の灯りは小さく霞んでいき、代わりに視界を埋め尽くしたのは、見渡す限りの地平線と、月夜の静寂に浮かび上がる無数の星々でした。
「まあ、なんて素敵なの……。アラジン、あなたは本当に、本物の魔法使いだったのね」
「ああ、そうとも。僕の魔法があれば、ロクサーナを世界中のどこにだって連れて行ってあげられる。いつか、もっと広い世界、誰も見たことのない新しい場所をたくさん見せてあげるよ」
ロクサーナは胸いっぱいの感動に包まれながら、アラジンの逞しい肩にそっと身をもたれかけさせました。彼女は、この不思議な魔法使いの王子と共に歩む、夢のように美しくロマンチックな未来の光景を、ただひたすらに思い描いていました。




