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新約・アラジン  作者: シェーラザード
10/14

取引

アラジンとロクサーナの婚約の噂が王宮の家臣たちの間でまことしやかに囁かれ始めるころ、バルドゥーン宮殿の重厚な門を叩く者がいました。


現れたのは、砂漠の砂を思わせる上品な黄土色の衣装に身を包んだ、ファルザドでした。彼の後ろには、小麦色の肌を持ち、まるで感情が一切抜け落ちたかのような無表情の少年と、数人の静かな従者たちが控えています。

ファルザドは懐から、ずっしりと重い小袋いっぱいの金貨を取り出して貢物として持参し、シャフリヤール王への謁見を求めました。


白大理石の柱が立ち並ぶ謁見の間へと進み出たファルザドは、完璧に洗練された美しい所作で深々と頭を下げました。


「お初にお目にかかります、シャフリヤール王。私は遠方の小さな国で、長らく宰相補佐の座にありましたファルザドという者です」


王はその無駄のない洗練された挙動と気品ある佇まいを見て、満足そうに笑みを深めました。


「ファルザド殿、本日はいかなる用件で我が国を訪れたのかな。そなたのような聡明な男からの、交易にまつわる色良い話などであれば嬉しいのだが」


ファルザドは名門の貴族のように優雅に臣下の礼をとりながら、静かに、しかしよく通る声で答えました。


「残念ながら、私の仕えた故国は激しい政変により今はもうこの世にございません。ゆえに、故国との交易のお話はご容赦を。私は国を失って以来、各地を彷徨いながら、己が残りの生涯を賭けて仕えるべき真の王を探してまいりました。このバルドゥーンの地に半年ほど腰を落ち着け、誠に僭越ながら、王の治世をじっくりと拝見させていただいたのです」


ファルザドの知性溢れる黒い瞳に、すべてを見通すような鋭い光が宿りました。シャフリヤール王は身を乗り出し、その言葉の先を促しました。


「……それで、我がバルドゥーンの国はどうであった?」


「交易路の要衝という恵まれた位置にありながら、その地位に甘んじることなく、北方の狂暴な騎馬民族から民をよく守っておられる。さらに、私のような流れ者を温かく迎えた時点で、この国の交易と今後の発展の可能性を見通しておられる王のご慧眼、誠に素晴らしいことでございます」


ファルザドの澱みのない賛辞に、王の口角が嬉しそうに持ち上がりました。しかし、ファルザドはそこで言葉を切ると、少しだけ表情を引き締めました。


「しかしながら、現在、西のオアシスで押し進めておられる大規模な灌漑事業を見るに、為政者として非常に惜しいことだとも思いました」


「何だと。どういう意味だ」

王の声音がわずかに低くなりました。西の灌漑は、急激に増えつつあるバルドゥーンの国民の食を支えるための、王ご自慢の一大国家事業だったからです。王の眉間に深い皺が寄るのを、ファルザドは恐れる風もなく受け流し、涼やかな表情のまま語を続けました。


「水路の引き方に問題がございます。勾配の計測がしっかりとなされておりません。ただあのように、水が流れればよいという雑な掘り方では、勢い余った泥水によってたびたび水路の壁が削れ、土砂が詰まってしまうでしょう。その度に、補修のために多くの人足を駆り出さねばならず、無駄な国庫を費やすことになります」


「……お前なら、それを解決できるというのか」


ファルザドは王の威圧感に気圧されることなく、自信に満ちた笑みを薄く浮かべました。


「勝算も無しに、このような王宮の場で大言壮語は申し上げません。水路は百から百五十歩進むごとに一歩下がるという厳密な勾配とし、一定の間隔ごとに暗渠を設けるべきです。そうすれば、底に溜まった砂や土を容易に掻き出すことができ、勾配の歪みもすぐに調整し直すことが可能となります。さらに、水路の岸には広く柳を植えるのがよろしいでしょう。木陰によって太陽の熱で水が乾き飛ぶのを防ぎ、風に運ばれた砂が水路を埋めてしまうのを防ぐ、天然の壁となります」


ファルザドは一拍置くと、後ろに控えていた無表情な少年へ視線で合図を送りました。少年が恭しく捧げ持った、金貨の詰まった袋が王の御前に獻上されます。


「こちらは、私がこの街に着いてから、自らの知恵と商取引によって稼ぎ出した金貨でございます。この国が進める大事業にとってはほんの微々たる助けにしかなりませんが、まずはこの金貨で必要な人足を雇い、私の設計のもとで、さらに強固で百年先でも使い続けられる完璧な灌漑水路を作ってごらんに入れましょう」


シャフリヤール王は、ファルザドと対話を重ねるたびに、その底知れない知見の深さと、一過性の魔法のような富ではない、数十年、数百年先の世界の繁栄を見通すような確かな計画に、深く感銘を受けました。


王はその場でファルザドを新たな官僚として登用することを決断し、まずは問題のあった灌漑水路の設計を、国の専門の技師たちを交えて一からやり直させてみることにしたのでした。

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