夜
懐がはち切れんばかりに膨らんだアラジンは、ようやく入り口へと続く古い石階段まで戻ってきました。しかし、果実の重みで体は思うように動かず、天井から滴る水とびっしり生えた苔のせいで、足元はぬるぬると滑ります。一歩登っては半歩滑り落ちるような有様に、アラジンは苛立ちを募らせて悪態をつきました。
「くそっ、あと少しだというのに、どうしてこんなに登れないんだ」
這うようにしてやっとの思いで階段の中ほどまで登ったアラジンは、激しい疲労と息切れに襲われ、たまらず懐から果実を一つ取り出して口に放り込みました。
噛み潰した瞬間に広がる瑞々しい甘さは、疲れ切った体に心地よく染み渡り、体に溜まった泥のような疲労をみるみるうちに溶かしていきます。そのあまりの心地よさに、彼はつい、もう一つ、さらにもう一つと、夢中で果実を貪ってしまいました。
やがてお腹がすっかり満たされると、緊張の糸が切れたかのように、今度は強烈な眠気が波のように押し寄せてきました。
「少し休むだけだ。少し眠るくらいなら、そう時間も経ちはしないだろう」
アラジンは重い瞼に抗えず、湿った冷たい階段に座り込んで、壁に体を預けました。やがて、洞窟の静寂の中に、すやすやと穏やかな寝息が響き始めました。
一方、洞窟の外では、地平線の彼方にゆっくりと赤い夕日が落ちていこうとしていました。やがて空が重々しい群青色に染まり、夜の帳が下りる頃、ファルザドの右手の指に、冷たい感触とともに見覚えのある指輪が忽然と姿を現しました。
自分のもとへ戻ってきた指輪を見つめ、ファルザドは痛ましそうにそっと目を閉じ、静かに首を振りました。
「駄目だったか。私の言いつけを破って呪われた宝物に触れてしまったか、あるいは途中でジーニーを呼ぶ間もなく、闇の魔物にでも食われてしまったのだろう」
ファルザドは深くため息をつくと、再び重い石の扉を固く封印しました。そして、まだ見ぬ次の資格ある者を探し出すため、ラクダの手綱を引いて静まり返った夜の街へと帰っていきました。
どれほどの時間が流れたでしょうか。アラジンは冷え切った暗がりの中で、はっと目を覚ましました。
手元にあった松明はとうに燃え尽きており、視界は一寸先も見えない完全な漆黒に包まれています。
「しまった、寝過ごしたか」
慌てて身を起こしたアラジンは、心臓の鼓動を激しく刻みながら、暗闇の中で手探りで階段を登っていきました。しかし、ようやく辿り着いた最上段の入り口は、既に冷たく分厚い石の扉によって完全に閉ざされていました。
さらに、助けを呼ぼうと自分の手元を確認しますが、そこにあったはずの、あの瑪瑙の輝きを持つ指輪はとうに消え去っていました。ファルザドとの約束の時間が過ぎ、ジーニーが主のもとへ帰ってしまったのだと気づき、アラジンの顔から血の気が引いていきます。
「畜生、もう夜になってしまったのか。置いていかれたのか」
後悔と押し寄せる恐怖で全身がガタガタと震え始めました。アラジンは一縷の望みをかけ、再び洞窟の奥に戻ることを考えました。もしかしたら、この深い穴のどこかに、別の出口へと続く抜け道があるかもしれないと思ったのです。
「だが、こう暗くては、再び下まで降りる前に足を滑らせて首の骨を折っちまうな」
絶望に暮れながらアラジンが懐を探ると、先ほど手に入れた煤けたランプが指に触れました。
「よし、底の方にわずかだが油が残っている。これに火を灯せば、階段を降りるくらいの間は明かりがもつだろう」
アラジンはポケットから火口箱を取り出しました。そして、ランプの古い煤を払い、芯を整えるために、手で乱雑にその表面をこすりました。
その瞬間、完全な暗闇の中で、怪しくうごめく紫色の煙がランプの口から勢いよく立ち上りました。煙は見る見るうちに膨れ上がり、生き物のようにのたうち回りながら、アラジンの目の前で巨大な魔人の姿へと変質していきました。




