指輪
街からラクダに揺られて半日ほど進んだ、見渡す限りの赤茶けた岩肌が続く荒野。照りつける太陽は容赦なく肌を焦がし、陽炎が世界の輪郭をゆがめていました。ファルザドはその乾いた大地の一角で、乾いた薪を集めて小さな火を焚きました。
彼は懐から取り出した奇妙な色の粉を掴み、低く響くような声で呪文を唱えながら炎へと投げ入れます。その瞬間、赤く爆ぜていた炎が不気味な青緑色へとゆらめき、パチパチと音を立てて燃え上がりました。同時に地響きが起こり、煤けた煙の向こう側から、大地に埋め込まれたような重々しい石の扉が出現しました。
じっとりと背中を伝う汗と、じわじわと押し寄せる緊張感を振り払うように、アラジンは腰の水袋を掴むと、ぬるくなった中身を一気にあおりました。
「さあ、ここが目的の洞窟だ。先ほども言った通り、ここから先は君一人で行かなくてはならない」
ファルザドは青緑の炎に照らされながら、真剣な眼差しをアラジンに向けました。
「ただし、伝承によれば途中には君の目を眩ませる呪われた財宝が置かれているという。何があっても、絶対に触れてはならないよ」
「……もし、触れたらどうなるんだ?」
アラジンは生唾を飲み込み、視線を石の扉の奥へと這わせながら尋ねました。
「それら全ては、奥にあるランプを得ようとする者への試練らしい。欲望をもって触れれば、ろくなことにはなるまい。……最悪の場合、その場で命を落とすことになる」
淡々と、まるで明日の天気を語るかのように冷徹に言うファルザドの口調に、アラジンは背筋が寒くなるのを感じました。うっかり手足や衣服が怪しいものに触れてしまわないよう、彼は身につけていた古びた外套をきつく体に巻きつけ、前合わせを強く握りしめました。
「……何かあれば、指輪をこすって出てきたジーニーに『帰りたい』と願うんだな」
「それだけか? 何か複雑な呪文とか、特別な儀式が必要なんじゃないのか?」
アラジンが確認するように手元の指輪を見つめると、ファルザドは緊張をほぐすように小さく苦笑しました。
「そんなものが必要なのは、私のように複雑な魔法を組み立てる時だけだ。第一、目の前に差し迫った危険がある時に、そんな長い呪文を唱えていたら、それこそ死んでしまうだろう?」
「そりゃ、違いないや」
アラジンもその言葉の合理性に納得し、己の恐怖を吹き飛ばすように快活な笑声をあげました。
意を決して石の扉に手をかけ、暗い闇の中へと入ろうとするアラジンの背中に、ファルザドが最後の一言を投げかけました。
「指輪のジーニーには、日暮れと同時に私の元へ戻るよう、あらかじめ言いつけてある。君も、たとえ目的のランプが得られなかったとしても、夕方までにはここへ戻るか、あるいはジーニーの力を使って脱出するのだよ」
アラジンは振り返って一度だけ頷くと、暗闇の奥深くへと続く古い石の階段に足を踏み出しました。
一歩進むごとに、外の陽光が遮られ、ひんやりとした湿った空気が肌を包み込みます。天井からは長い年月をかけて溜まった水滴が静かに滴り、足元の石段はびっしりと生え揃った苔のせいで、ぬるぬると嫌な感触で足を滑らせてきました。
ここで足を滑らせて転落すれば、そのまま闇の底へ真っ逆さまです。アラジンは壁に慎重に手を突き、一歩一歩を確かめるようにしながら、地下深くへと続く暗がりをゆっくりと進んでいきました。




