第9話 家族
耳元で、そう囁かれた。
生徒会長はわずかに目を細めてから立ち去っていく。足音が遠ざかった瞬間――
リアはほっと胸を撫で下ろした。
「……私がよそ見してたから、セドリックさんまで巻き込んでごめんなさい」
「まだ、調査するんですよね? 先に、申請書提出しにいきましょう」
リアは彼の袖を引いた。しかしセドリックは、生徒会長に何か違和感を覚えたようで動かないままだった。
「セドリックさん……?」
まるで立ち去ったその場所を睨みつけるように見ていた。リアがもう一度「行きましょう」と声を掛けて、ようやく歩き出す。
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職員室で申請書を受け取り、記入し、教師にそのまま渡した。
受理後は、生徒会室へ届けられる仕組みだ。彼が卒業生ということもあり、手続きは簡単だった。
「これで学院内にいても問題ありません。一応、家族という形で通してあります」
「そうか」
「何か聞かれたら従兄弟って答えてくださいね。あ……でももう時間だ」
リアは少し考える。
「セドリックさん、放課後に噴水通りへ行ってみませんか? 商店街なら私、案内できます」
彼は静かに頷いた。
* * *
放課後。商店街には様々なお店が立ち並んでおり、場所によっては春祭りの名残が残っていた。
綺麗な花の飾りがところどころに置かれている。
「おーいリア!焼きたてだ、持っていけ!」
「果物も持っていくかい?野菜もあるよ!」
また少し歩くと。
「リアちゃん、今日はデートかしら?お花を持っておいき」
リアの知り合いたちが次々に話しかけてきた。
その度に彼女は「ありがとう!」と笑顔でお礼を言う。手元の紙袋は荷物で埋まっていた。
「セドリックさんもどうぞ。蜜入りですよ」
歩きながら彼にリンゴを一つ手渡した。リアはもう一つのリンゴをシャクっと大きく齧る。
「……お前は、いつもこうなのか?」
「はい。私の第二の家族ですね」
セドリックにはその感覚が分からないらしく、リンゴを軽く拭き、静かに一口齧った。
二人の間に爽やかな香りが広がる。彼は甘酸っぱい味に驚いたのか、無意識に歩く速度が速くなっていた。
「ちょ、ちょっと……!セドリックさん!!」
リアはその背中を必死に追いかけた。その後は生徒が放課後に行きそうな場所へ足を運ぶ。
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リアはアクセサリー店やぬいぐるみ店など、男性一人では入りにくそうな店を率先して選び、彼を連れていった。
(ここだと外国人も多いから、女の子の反応は普通なのよね……)
やがて彼女は噴水近くのベンチに座り、淡々と生徒たちについての情報をメモにまとめる。
周囲の賑わいに混じって、遠くから噂話が耳に入ってきた。
「知ってる? あそこの家の子、呪われた子だったらしいのよ……」
リアの持つ筆がぴたりと止まる。
「それで家族ごと外国へ消えたんですって!」
「やだー怖い! この土地まで災いが及ぶところだったわねぇ」
それは、リアが聞き慣れた言葉だった。
セドリックは何も言わずに彼女の隣に座る。
服の裾が触れる距離で。
彼女の手元のノートを見ると、綺麗に並んだ文字の中で、一文字だけが歪んでいた。




