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黒い魔法使いと死なない契約  作者: 日曜日更新
【第一章】
10/20

第10話 夕暮れに染まる未来の話

 二人は再び歩き出し、夕暮れの土手道をゆっくり歩く。隣には川が流れ、反対側には灯りが灯る住宅街。


 学院寮はこの先にある。


 リアは欠けた赤い石のペンダントを無意識に握りしめた。


 そして彼の横に並ぶ自分の影を見つめた。

 まるで本心を確かめるかのように。


 そして、静かに言った。


「私……結婚はしません」


「違う……」

「結婚できない……。魔力が無いから」


 少し間を置き、続ける。


「それでもいいって……誰かに言ってほしい。もし出会えるなら、ずっと……ずーっと、一緒にいてくれる人がいい」


 今度は足元に目を落とす。


「形式も身分も関係なくて……私を育ててくれた人たちみたいに……」


 一歩進み。


「愛情をくれる人がいい!」


 その言葉と共にリアは前を向く。


 少しの沈黙の後、夕陽の下でも分かるくらい、耳まで赤く染まった。顔も首も全部熱い。


 迷ったその手は顔を覆うように、髪を寄せた。 

 もう、ぐしゃぐしゃになるほどに。


 声にならない感情が、たまに漏れ出す。


「……っ。……ぁ、あの」


「さっきのは、できれば忘れて下さい……ただの独り言です……」


 急に恥ずかしさが込み上げてきた。話題を逸らそうとして、つい早口になる。


「あ、あと……! 将来は外国へ行って沢山稼ぐのが夢なんです!!学院に入ったのもそのためで!」


「商業科のクラスメイトも、本当に良い人たちばかりなんですよ!」


 指先を合わせ、声を弾ませながら未来を語る。


「無事に卒業して資格が取れたら、いろんなアイテムを取り揃えたいですね……ふふ」


 けれど。指先はゆっくり離れていった。


「それでいつかまた――あの故郷(まち)で、商売ができる日が来たら……いいなって……」


「帰れるか、分からないけど……」


 魔力を持たない者は、一度国を出ればもう戻れない。資格がない。そんな制度が当たり前みたいに存在している。


「最後の一年は、普通に過ごしたいです」


 呪いのような国の制度が、リアの未来を閉ざす。


「私は、魔物になんてなりません」


 この国にいる以上、結婚はできない。

 普通の女の子のような、恋愛はできない。


 横を通り過ぎる男女二人を、リアは自然と目で追いかけていた。


(眩しい……。きっと、夕陽が。そうよ)


 どこかの家の、晩御飯の香りがしてきた。甘いクリームシチューのようだ。


「……お腹、空きましたね!」

「セドリックさんは晩御飯何を食べるんですか?」


「私は……今日はたくさん貰ったから、しばらく食事代が浮きそうです」


 冗談めかして笑ったが、指先が震えていた。不安を必死に誤魔化すかのように。


 セドリックは……その姿を横目で見ている。


 赤く染まる夕暮れの街。

 寮を目前に、二人の影が長く伸びていく。


「また来る」

「ええ、また後で」


 この関係は、もう後戻りできない。


 リアは小さく手を振ってから、寮の灯りへ駆けていく。


 セドリックはその姿が見えなくなるまで、黙って立ち尽くしたあと、夕闇に消えていった。

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