第10話 夕暮れに染まる未来の話
二人は再び歩き出し、夕暮れの土手道をゆっくり歩く。隣には川が流れ、反対側には灯りが灯る住宅街。
学院寮はこの先にある。
リアは欠けた赤い石のペンダントを無意識に握りしめた。
そして彼の横に並ぶ自分の影を見つめた。
まるで本心を確かめるかのように。
そして、静かに言った。
「私……結婚はしません」
「違う……」
「結婚できない……。魔力が無いから」
少し間を置き、続ける。
「それでもいいって……誰かに言ってほしい。もし出会えるなら、ずっと……ずーっと、一緒にいてくれる人がいい」
今度は足元に目を落とす。
「形式も身分も関係なくて……私を育ててくれた人たちみたいに……」
一歩進み。
「愛情をくれる人がいい!」
その言葉と共にリアは前を向く。
少しの沈黙の後、夕陽の下でも分かるくらい、耳まで赤く染まった。顔も首も全部熱い。
迷ったその手は顔を覆うように、髪を寄せた。
もう、ぐしゃぐしゃになるほどに。
声にならない感情が、たまに漏れ出す。
「……っ。……ぁ、あの」
「さっきのは、できれば忘れて下さい……ただの独り言です……」
急に恥ずかしさが込み上げてきた。話題を逸らそうとして、つい早口になる。
「あ、あと……! 将来は外国へ行って沢山稼ぐのが夢なんです!!学院に入ったのもそのためで!」
「商業科のクラスメイトも、本当に良い人たちばかりなんですよ!」
指先を合わせ、声を弾ませながら未来を語る。
「無事に卒業して資格が取れたら、いろんなアイテムを取り揃えたいですね……ふふ」
けれど。指先はゆっくり離れていった。
「それでいつかまた――あの故郷で、商売ができる日が来たら……いいなって……」
「帰れるか、分からないけど……」
魔力を持たない者は、一度国を出ればもう戻れない。資格がない。そんな制度が当たり前みたいに存在している。
「最後の一年は、普通に過ごしたいです」
呪いのような国の制度が、リアの未来を閉ざす。
「私は、魔物になんてなりません」
この国にいる以上、結婚はできない。
普通の女の子のような、恋愛はできない。
横を通り過ぎる男女二人を、リアは自然と目で追いかけていた。
(眩しい……。きっと、夕陽が。そうよ)
どこかの家の、晩御飯の香りがしてきた。甘いクリームシチューのようだ。
「……お腹、空きましたね!」
「セドリックさんは晩御飯何を食べるんですか?」
「私は……今日はたくさん貰ったから、しばらく食事代が浮きそうです」
冗談めかして笑ったが、指先が震えていた。不安を必死に誤魔化すかのように。
セドリックは……その姿を横目で見ている。
赤く染まる夕暮れの街。
寮を目前に、二人の影が長く伸びていく。
「また来る」
「ええ、また後で」
この関係は、もう後戻りできない。
リアは小さく手を振ってから、寮の灯りへ駆けていく。
セドリックはその姿が見えなくなるまで、黙って立ち尽くしたあと、夕闇に消えていった。




