第8話 面影
魔力を貰った次の日も、学院に彼はいた。髪色はしばらくの間そのままのようだ。ほぼ丸一日、近くにいる。
(まるで共同生活みたいだわ……)
そして今日もすれ違う女子生徒たちが、ヒソヒソ話をしていた。「魔法科にかっこいい人がいるらしいの」「転入生かしら」と。
この国の男性は鍛えている人が比較的モテるため、流行に敏感なご令嬢からすればセドリックは珍しい存在なのかもしれない。
(すごく人気ね。でも本人は興味無さそう。実はすでに恋人がいる……? いえ、居たら私となんて契約しないわよ……)
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彼の隣を歩きながら、リアは気になっていたことを質問してみた。
「セドリックさんって、今おいくつなんですか?」
三年前までは生徒だとすると――
「二十代……? あ、でももっと年上……?」
この学院には年齢制限のない特別クラスも存在する。だから、リアには彼の年齢が読めなかった。
「お前は、俺をどういう風に見ているんだ?」
(あ、怒らせたら駄目な雰囲気だ――)
「凄腕の魔法使いなんだろうな、と思ってます……。魔法を使えば見た目も若返らせることができるんですよね?」
「そんなことはやらない。変装魔法はあくまでも一時的な見せかけだ。許可なしに人体を操れば禁忌に触れるぞ」
「そ、そうなんですね。知らなかった。――」
「……十七だ」
「え?」
「年齢は」
思わずリアは目を見開き、足を止めた。つまり。
「……同い年?」
ずっと年上だと思っていたから、驚きを隠せなかった。彼もまた、足を止めてリアの方を見る。
人気の少ない渡り廊下。木漏れ日が二人の空間に差し込む。確かに顔つきはまだ、少年らしさが残っているように見えた。
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彼はまた前を向き、歩き出す。リアはその背中の後を追った。少し早歩きして、隣に並ぶ。やはり、同年代には見えない。
白檀の香りがふわりと漂う。話し方も仕草も落ち着いていて、隣を歩いているだけで年上のように感じた。
十七歳。これが本当か嘘かは、分からない。でも、今回は少しだけ信じている理由がある。
(昔の……あの頃のアレンに似てる気がするわ。少年から青年へ変わっていった、あの頃の彼に。どうしてそう思うのかしら……)
よそ見をした。その瞬間。
ドンッと女子生徒と肩がぶつかった。
「あ、ごめんなさい……っ!」
相手の顔を見る前に、リアは咄嗟に謝った。しかし、そこにいたのは――
生徒会長のセレナ嬢だった。
名門貴族のご令嬢。成績は常に首席。
教師相手にも一歩も引かないことで有名な彼女を、一般クラスで恐れない者はいない。
昨日、彼と資料を見ていた、あの人物である。
「生徒会長……!? も、申し訳ありませんでした!!」
リアは勢いよく頭を下げた。商業科の出店許可は、すべて彼女の判断に委ねられている。
(私のせいで、クラスみんなの屋台が出せなくなったらどうしよう……)
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リアは深く頭を下げたが、「顔を上げて」と言われ、ゆっくり姿勢を正した。生きた心地はしない。生徒会長は二人の制服と校章を見る。
「……あなた、商業科の生徒よね」
「は、はい……三年です」
「別に気にしていないわ。勝手に怯えるのはやめて頂戴。その方が私に失礼よ」
ほっとしたのも束の間。
「けれど……そちらは部外者よね。申請書は提出済み? あなたの……お知り合いかしら」
その言葉のあと、空気が冷えた。
「す、すみません。あとで提出しま――」
リアが慌てて言いかけた瞬間。
「規則よ。例外はないわ。あなた三年でしょ? 退学になりたくないなら、それくらい守りなさい」
正論すぎて、何も言い返せなかった。すると生徒会長は、セドリックの方を一瞬見た。
「そこにいる彼が、どんなに優秀な卒業生であっても……」
セレナはリアに近づく。
「あなたの立場を脅かすなら、関わるべきじゃないわ」




