第19話 占い屋
(どうしよう……)
(言い過ぎた)
(でも、今謝るのは違う)
初めて名前で呼ばれた時の声が、まだ耳から離れない。
(なんで今なの……)
(あんな顔、見たことないのに)
夜の冷たい風が、熱くなった頬を少しだけ冷ましていく。
「……ドレス、返しに行かなきゃ」
そんなことを考えながら、仕立て屋までの道のりを辿った。
さっきまで賑わっていたのに。
(あれ……?)
周囲に人の気配がない。
トコトコと、足元に猫が近寄ってきた。
「可愛い……オッドアイなのね」
猫をなでていると、猫は歩き出し、どこかへ誘導しようとしている。
「ニャア」
進むたび何度も振り返るが、目的地とは真逆。
「私は行けないよ。ばいばい」
夜の空気が、急に重くなった。
街灯が、チカチカと不規則に瞬く。そして一瞬、世界は暗闇に包まれた。
「!?」
リアが後ろに気を取られた瞬間。
何かが燃えるような、嫌な気配が走った。
再び灯りが灯される。
そこにいたはずの猫は……跡形もなく消えていた。
すると。
「あなた、可愛いわね。舞踏会デビューしたてかしら?」
占い師の姿をした女性が足音もなく現れた。顔は薄い布で隠れている。
「いいお相手は見つかった? 例えば……どこかの御曹司……いえ、王子様ね」
リアは一歩下がった。
(アレンのこと知ってる……?)
「そう警戒しないで。占いをやっているの」
細い路地の奥を指さす。
「あなた今、気分が冴えないんじゃない?」
「好きでもない人に一方的に言い寄られて……受け入れた途端、突然素っ気なくされたとか」
占い師の女は近い距離でリアを見てくる。
「あとは……そうね。恋人と喧嘩したとか」
心臓が跳ねた。
「どうしてそれを……あっ」
「ほらやっぱり!」
「あ、いえ、恋人ではないんですけど……」
誰かに相談したい。そんな気持ちが表情に出ていた。
「ちょうどよかった!あなた占いに興味ない?今なら空いてるわよ」
「えっ!? でも門限が……」
「今日は舞踏会デビューした女の子にだけ、無料サービス中なの!」
いつの間にか、店の前にいた。
(どうして。歩いていないのに……)
恐怖と興味が入り混じる。
中を覗くと、カーテン越しに人影が見えて少し安心してしまった。数人の女の子がいるようだ。
(人気のお店なのかな……)
女は店の扉を開ける。
お香の香りが一気に鼻を突いた。外国にありそうな、嗅いだことのない香りだった。
「ほら入って」
「実はね、私だけお客さんがいなかったのよ。あなたが来てくれてよかったわ」
その言葉に、つい釣られた。
「じゃあ、ちょっとだけ……」




