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黒い魔法使いと死なない契約  作者: 日曜日更新
【第一章】
18/20

第18話 困惑

「……もし」


「誰かに見られてたらどうするんですか?魔法使いとして働けなくなったら……」


「その心配はない」

(どうして言い切れるの)


「……どうしてですか」

「そういう決まりだからだ。お前は心配しなくていい」

(また、嘘。私には分からない……)


 すると、視界がまたぼやけてくる。


(今度は違う。本当に涙……)


 溢れないよう、ぐっと堪える。


 彼の瞳はもう赤くない。


 けれど灰色の瞳が本物かどうかさえも今は信じられていない。彼は悪くないのに。


「……泣くな。さっき説明しただろ、応急処置だと」

「分かってます。分かってますけど……」


「触れないって……初めて寮に来た日……言ってたから……」


 彼の体が、わずかに震えている。


(どうして……?)


「仕方なかった。……王族に近づくと、光の魔道具の消費は早い。嘘をつけなくなるからだ」


 嘘を……?


「あの場は結界も張られているから、尚更」

「そうですか……」


(そうだとしても……。それだけじゃないでしょ……)


 彼の体調だって悪かったはずなのに、彼は自分のことを何も話さない。


(まるで全部、私の問題だけみたいに)


 理由を一言でいいから欲しかった。

 こうなる前にもっと早く話し合いたかった。


 早く、寮に帰れていたら……

 そんな考えが浮かぶ。


(このまま、契約なんて続けられるの……?)


 深呼吸して、落ち着けよう。


「応急処置なら、仕方ないですよね。あはは……私、大袈裟でしたね……」


「でもセドリックさん、次は場所を選んで欲しいです……!」


 ゆっくり言葉を選ぶ。


「これは私が魔力を持っていないからじゃないですよ」


「誰だって恥ずかしいんです」


 涙が止まらない。


「私、あなたに信用されてると思ってました。任務も一緒に手伝うようになったから……」


「なのに、大事なことはいつも教えてくれないですよね……」


「もしいつか、あなたに好きな人ができた時……」


 こんな態度をしてほしくない。

 そんな気持ちが溢れた。


 長い沈黙の後、彼の口がわずかに動く。



「リア」



 心臓が、跳ねた。


(名前……初めて……)


 リアは赤い石のペンダントを無意識に握る。まだ、彼の瞳が揺れていた。


(今、その顔をするのはずるい……)


(分からない)

(彼が何を考えているのか、全然分からない)


 苦しい。

 この感情の名前に答えが見つからない。


(私が……大人にならなきゃ)


「ごめんなさい……! 変なこと言って。本当に気にしないでください。私、先に帰りますね」


「リア」


「仕立て屋さんに寄るので、セドリックさんももう帰って大丈夫ですよ」


「話を」


「今日はありがとうございました。おやすみなさい」


 リアは頭を下げたあと、背を向けて歩き出した。


 まるで彼から逃げるように。


 彼は悪くない。


 なのに全部嫌だった。

 正直な気持ちに嘘をつく自分が。


 彼がただこちらを見るだけで――後を追いかけてくれないことが。


(何を期待してるの、私……)


 リアは早歩きになりながら振り返る。

 彼と契約することになった日を。


 ――いや、それよりも前から。

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