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黒い魔法使いと死なない契約  作者: 日曜日更新
【第一章】
20/20

第20位「助けて」

 椅子に座るなり、女はタロットカードをシャッフルした。


「じゃあこの中から一枚選んで」


 リアは並べられたカードを一枚だけひっくり返した。見たことのない、不気味なテイストの絵が現れる。


「まずは結婚運ね。んー……あら。あなた、将来身分の良い相手と結婚するわよ」


 女は次々と当たり障りのない話をする。


「顔はハンサムね。でも嫉妬深い面倒な男に好かれやすいみたい」


 リアは思わず苦笑した。


(当たってるというより、どこか拾われてる感じがする……)


「あなたの一番の悩みを言ってみて」


 その言葉に、リアの肩がぴくりと揺れた。


「もし良かったら聞くわよ」


 リアは打ち明けた。


「初めて相手にひどいことを言ってしまって……どうしたらいいか分からないんです」


「その人と価値観が違うというか、女の人への理解が少なくて……」


「相手が私のことをどう思っているのかも分からないんです」


「少し……信頼するようになり始めた頃だから……相手から信用されていないのが分かって……」


「その分ショックも大きかったです……」


 占い師の女はタロットカードを整え始めた。


「あらあら。可哀想に。それは相手が悪いわね」

「で、でも、私が強く言い過ぎただけかもしれないので……」


 バンっと机を叩く音と共にタロットカードが机に飛び散る。リアは恐怖で固まる。


「男は自分のことしか考えていないの……」


 女の声から明るさが消えていた。


「その彼も、一度手に入れたらあなたをすぐ捨てるわ。別れなさい。乱暴なことをされて傷付く前に」


 気配がただただ怖かった。けれど、リアは自分の状況を少し整理できた。


「そんなことしないと思います、彼は。勝手なこと言わないでください……」


 言った瞬間、自分でも少し驚いた。

 さっきまであんなに腹が立っていたのに。


「ふふ。ならそれが、彼に対するあなたの本音ね」


 女は打って変わって笑顔を見せた。顔を覆う薄い布が揺れ、赤いリップグロスが光る。


「もしかして今のは演出ですか……?」

「そうよ!当たり前じゃない!他人に言われて気づくこともあるものだから」


「……そうだ。いいものを見せてあげる」


 そう言ってタロットカードを机の隅に寄せ、目の前に紫色の水晶を置かれた。


「これは未来が見える特別な水晶なの」


 女が手をかざすと怪しく光る。


「きっと……あなたと恋人の未来も見えるはず。何が知りたい?」


「……私は」


 言葉が詰まった。


(セドリックさんと……)


 言葉が続かない。


 百日後。


 契約が終わる頃。


(その時、ちゃんと話ができる関係のままでいられるのかな……)


 さらに、コトン、と湯呑みを置かれた。


 リアが水晶を見ている間に女が注いでくれたようだ。


「お茶でも飲んで、落ち着いてちょうだい」

「あ……これって……」

「いい香りでしょ。あなたにだけ、特別よ」


 クラスメイトが話していた、外国の緑色のお茶。この時、好奇心が勝ってしまった。


「頂戴します」


 いい香り。お茶を飲むと……やけに濃く、渋い。聞いていた甘い飲み物とは異なるようだ。


 ふと、水晶に何か映る。それは未来ではなく、僅かなカーテンの隙間。


(女の子……)


(人……じゃない)




(白い人形だ……)


 こわい。


 逃げたい。怪しい。空気が冷たい。


「あの、私……やっぱり帰ります」


 後ろを振り向いて扉まで走ろうとした瞬間。時間が止まった。足元に何かが忍び寄って、手首を掴まれる。


 誰かの魔法だ。


(セドリックの魔法じゃない)


 心臓の音がドクドクと速くなる。


(この感じ、魔物――)


 そう、本能的に理解した。胸元の赤いペンダントが、大きく揺れるその瞬間。


「捕まえろ」


 低い声が聞こえた。奥に何かが潜んでいる。

 視線だけを動かすとそれは闇。


 無数の黒い手が、足、胴体、腕へと絡みつく。


「やだっ」


 グググ……


 必死に体を動かすが、力が強い。


「絶対、やだ……っ!」


 喉が震えて、うまく声にならない。


「誰か……」


 逃げ場はもうなかった。抵抗できないまま闇に引きずられ、連れて行かれる。


 助けて、そう叫びたかった。


「セド――」


 部屋中に、甘いお香の匂い。


(あ、――だめだ)


 その瞬間、跳ねるように駆け寄ってきたオッドアイの猫と目が合う。


「ニャア」


 鈍い音と共に、リアは意識を失った。

 

 ◆第一章 完◆


 ここまでお読みいただきありがとうございました!


 次回からは【第二章】が始まります。

 ぜひお付き合いいただけると嬉しいです。

 

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