第16話 心踊る
曲が変わると、会場の中央にはヴェールで顔を隠した女性たちが集まっていた。
ダンスの相手は皆、年上の男性ばかり。
未婚の女性が十六を過ぎ、相手を探しに行く前の特別な踊りが始まる。
一度も踊ることがなかったリアには、少し眩しすぎる光景だった。
リアが「素敵ね……」と呟く。するとアレンが魔法でヴェールを頭に被せてくれた。
「え……?」
「君も、参加する資格があるよ」
そう言ってアレンは手を差し出す。
「僕は……君の兄として、ダンスの相手を務めてもいいのかな」
リアは目を見開き、また細めた。
「いいえ、違うわ。あなたは……」
「父でも兄でもない」
「アレンは、アレンよ!」
迷わずアレンの手を取った。
* * *
靴音を鳴らして優雅にエスコートしてもらった。
床にシャンデリアの煌めきが反射していて、妙に緊張した。
すると足が滑らかに動き――床には光が舞う。
回転すると、ドレスがひらり。
その度にリアは笑顔を返す。
アレンの手は逞しく、倒れないように支えてくれる安心感があった。
いつもはすぐ離れてしまうから、少しだけ恥ずかしい、でも嬉しい。そんな気持ちが入り混じる。
周囲を見渡す。
(――あ、セドリックさん)
遠くのスペースから確かに目が合った。
ワイングラスの水を飲むその姿に目が離せなかった。
まるで、何かに反応するかのように。
今度はぐいっと強く引き寄せられる。
アレンが魔法でリアを現実へ引き戻してくれた。
(余裕のある大人って感じ……。いつもと違う)
まるで乗り物に乗っているかのような、楽しい時間に笑みが溢れた。
たった数分。
けれど、リアにとって一生に一度の貴重な体験。
* * *
「ダンスってあんなに動くのね。楽しかった……!」
「それならよかった」
一曲踊り、隅に移動した。
周囲から見れば第三殿下と、リアはその親族として見られているはず。
「綺麗な方だ」そんな声が聞こえてきて、少し気恥ずかしかった。
「……アレン、ありがとう。最高の思い出になったわ」
「うん。それと、伝えるタイミングを逃してたけど……ドレスもよく似合ってるよ」
「あ、ありがとう……」
顔が熱い。見えない首輪も。
するとまた次の演奏が始まり、彼は遠くを見つめる。
「この曲が終わるまでは一緒にいられるよ」
「……ええ」
(一緒にいられる)
それは昔交わした会話と繋がっているのだろうか。
あと数分経てば、アレンは他の女性たちの元へ行ってしまう。
リアは家族として、見送る役目。
頭に乗せられたヴェールはいつの間にか消えていた。
けれど、この気持ちはまだ終わりそうにない。
「……早く終わってくれ」
思わず、セドリックの本音が漏れた。
---
時刻を確認。
リアの魔力の時間まで余裕がある。
しかし。
彼女につけられた見えない首輪は、セドリックにははっきり見えていた。だがそれは……。
(消えかかっている……)
この会場に張られた結界。
そして魔力の高い参加者たち。
そこまでは想定の範囲内。
しかし予想だにしない接触があった。
(第三殿下……)
セドリックは自分の手を見つめた。
あとで自分がなんとかしようと考えていたのが甘かった。
動揺して震える指をぐっと抑えつけ、視線を彼女に戻した。
* * *
一曲、また一曲と時間が過ぎた。
リアは、アレンが他の女性と話す姿を遠目で何度も見ながら、セドリックと合流した。
「セドリックさん。戻りました」
「……第三殿下はどうだった?」
「一曲だけ踊ってもらいました。魔法ってすごいですね。私……すっかり場違いでした」
つい本音が漏れた彼女に対してセドリックが何かを言いかけた。だが口を閉じる。
「どうしましたか?」
すると食事を指さす。
「……食べるんだろ?」
「はい!」
リアは美味しそうな料理を取り皿に盛り付けた。
「セドリックさんの今日のお仕事って、第三殿下の護衛ですか?」
「答えない。そうだとしても聞くな」
(ひょっとして、セドリックさんも花嫁探し……?)
リアは周囲を見渡し、耳打ちする。
「あちらにいる青いドレスの女性とかどうですか。私ここで待ってますし、声だけでも……」
「俺はいい」
(何しに来たの……)
相変わらず冷たい。リアは取り皿に盛ったサラダを静かに食べた。
また視線を隣に移す。
「!?」
彼は何かの痛みに耐えるかのように、腕を握って俯いていた。
リアは慌てて取り皿を空き台に置いた。
「大丈夫ですか? どこか痛いんですか……?」
彼は何も言わない。どうしたらいいか分からず、リアはそっと彼の背中をさする。
しばらく経つと、「もういい」と彼は言い、何事もなかったかのような表情に戻った。
(どうしたのかしら……)




