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黒い魔法使いと死なない契約  作者: 日曜日更新
【第一章】
16/20

第16話 心踊る

 曲が変わると、会場の中央にはヴェールで顔を隠した女性たちが集まっていた。


 ダンスの相手は皆、年上の男性ばかり。


 未婚の女性が十六を過ぎ、相手を探しに行く前の特別な踊りが始まる。


 一度も踊ることがなかったリアには、少し眩しすぎる光景だった。


 リアが「素敵ね……」と呟く。するとアレンが魔法でヴェールを頭に被せてくれた。


「え……?」

「君も、参加する資格があるよ」


 そう言ってアレンは手を差し出す。


「僕は……君の兄として、ダンスの相手を務めてもいいのかな」

 

 リアは目を見開き、また細めた。


「いいえ、違うわ。あなたは……」


「父でも兄でもない」


「アレンは、アレンよ!」


 迷わずアレンの手を取った。


 * * *


 靴音を鳴らして優雅にエスコートしてもらった。


 床にシャンデリアの煌めきが反射していて、妙に緊張した。


 すると足が滑らかに動き――床には光が舞う。


 回転すると、ドレスがひらり。


 その度にリアは笑顔を返す。


 アレンの手は逞しく、倒れないように支えてくれる安心感があった。


 いつもはすぐ離れてしまうから、少しだけ恥ずかしい、でも嬉しい。そんな気持ちが入り混じる。


 周囲を見渡す。


(――あ、セドリックさん)


 遠くのスペースから確かに目が合った。

 ワイングラスの水を飲むその姿に目が離せなかった。


 まるで、何かに反応するかのように。


 今度はぐいっと強く引き寄せられる。


 アレンが魔法でリアを現実へ引き戻してくれた。


(余裕のある大人って感じ……。いつもと違う)


 まるで乗り物に乗っているかのような、楽しい時間に笑みが溢れた。


 たった数分。


 けれど、リアにとって一生に一度の貴重な体験。


 * * *


「ダンスってあんなに動くのね。楽しかった……!」

「それならよかった」


 一曲踊り、隅に移動した。


 周囲から見れば第三殿下と、リアはその親族として見られているはず。


「綺麗な方だ」そんな声が聞こえてきて、少し気恥ずかしかった。


「……アレン、ありがとう。最高の思い出になったわ」

「うん。それと、伝えるタイミングを逃してたけど……ドレスもよく似合ってるよ」


「あ、ありがとう……」


 顔が熱い。見えない首輪も。


 するとまた次の演奏が始まり、彼は遠くを見つめる。


「この曲が終わるまでは一緒にいられるよ」

「……ええ」

(一緒にいられる)


 それは昔交わした会話と繋がっているのだろうか。


 あと数分経てば、アレンは他の女性たちの元へ行ってしまう。


 リアは家族として、見送る役目。


 頭に乗せられたヴェールはいつの間にか消えていた。


 けれど、この気持ちはまだ終わりそうにない。




「……早く終わってくれ」


 思わず、セドリックの本音が漏れた。


 ---


 時刻を確認。

 リアの魔力の時間まで余裕がある。


 しかし。


 彼女につけられた見えない首輪は、セドリックにははっきり見えていた。だがそれは……。


(消えかかっている……)


 この会場に張られた結界。

 そして魔力の高い参加者たち。


 そこまでは想定の範囲内。


 しかし予想だにしない接触があった。

 

(第三殿下……)


 セドリックは自分の手を見つめた。


 あとで自分がなんとかしようと考えていたのが甘かった。


 動揺して震える指をぐっと抑えつけ、視線を彼女に戻した。


 * * *


 一曲、また一曲と時間が過ぎた。


 リアは、アレンが他の女性と話す姿を遠目で何度も見ながら、セドリックと合流した。


「セドリックさん。戻りました」

「……第三殿下はどうだった?」


「一曲だけ踊ってもらいました。魔法ってすごいですね。私……すっかり場違いでした」


 つい本音が漏れた彼女に対してセドリックが何かを言いかけた。だが口を閉じる。


「どうしましたか?」


 すると食事を指さす。


「……食べるんだろ?」

「はい!」


 リアは美味しそうな料理を取り皿に盛り付けた。


「セドリックさんの今日のお仕事って、第三殿下の護衛ですか?」

「答えない。そうだとしても聞くな」


(ひょっとして、セドリックさんも花嫁探し……?)


 リアは周囲を見渡し、耳打ちする。


「あちらにいる青いドレスの女性とかどうですか。私ここで待ってますし、声だけでも……」

「俺はいい」

(何しに来たの……)


 相変わらず冷たい。リアは取り皿に盛ったサラダを静かに食べた。


 また視線を隣に移す。


「!?」


 彼は何かの痛みに耐えるかのように、腕を握って俯いていた。


 リアは慌てて取り皿を空き台に置いた。


「大丈夫ですか? どこか痛いんですか……?」


 彼は何も言わない。どうしたらいいか分からず、リアはそっと彼の背中をさする。


 しばらく経つと、「もういい」と彼は言い、何事もなかったかのような表情に戻った。


(どうしたのかしら……)

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