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黒い魔法使いと死なない契約  作者: 日曜日更新
【第一章】
15/20

第15話 幼馴染

 アレンの足元が響くたびに周囲の視線を感じ、少し緊張した。


 外の暗い景色と明るい会場。その中間の通路へとやってきた。目の前にはライトアップされた綺麗な庭園が広がっている。


 甘い花の香りが漂うのと同時に、アレンがゆっくり手を離す。


「……っ」


 指先が急に冷えていく。彼が俯いた瞬間、リアは怖くなり木のそばへ身を隠した。


 けれど……アレンはその後を追ってくる。


 ---


 雲が月明かりを隠す。まるで、今の彼女の気持ちを現すように。


 リアはすかさず頭を下げ、ドレスの裾を握った。


「わ、わたし……」


 声が引き攣る。


「今まで普通にお話してしまって……。殿下に……何度も失礼なことを……っ」


 言葉遣いも、態度も、抱擁も、すべて思い出してしまう。立場をわきまえなければ。


 もうアレンとは呼んではいけない。


「大変、申し訳ありませんでした……」


 視界が落ちて、自分の足元しか見えなくなった。リアは、平民。しかも魔力を持っていない。


 本来なら、同じ場所に立つことすら許されない相手。この場で出会うこともなかった。


(私……どうして気付かなかったの?)


 第三殿下の名前には『アレン』が一部入ってる。長すぎるフルネームの一部に。それだけで分かるわけない。


 深く頭を下げたまま、動けなくなった。


 ---


 教会でした約束も、町で過ごした日々も、お祭りの記憶も――全部、夢だったんだ。


(……じゃあ、私は何を信じてたの?)


 アレンともう、会えなくなる。

 それは、嫌だ。

 だけど……


「顔を上げて」


 優しい声が聞こえた。顔を上げるか躊躇した。


 勇気を出して、リアはそっと顔を上げる。現実を見たくなくて――片目だけ開いた。


「リア、頼むからそんな顔をしないで」


 アレンは……悲しそうな顔をしていた。昔。一年ぶりに再会した時の、あの時の顔だ。


「個室でも頼めばよかった……。 いつかは君に話そうと思っていたんだ。君が他の形で知って傷つく前に」


 それは低く、柔らかい声だった。

 その言葉でリアも両目をぱちりと開けた。


 ---


 風とともに高貴な香りが広がる。知らない香り。だけど目の前にいるのは間違いなくアレン。


「あの町で過ごす時間が、いつの間にか僕の中で当たり前になっていた。君と出会えて……あの時間に救われていたから」


 彼は少し俯き、声が小さくなる。


「だけど、君が成長するにつれて、ずっと引っかかっていたんだ。嘘を……つき続けていたから」


「ずっと謝りたかった。嘘をついていて、ごめん」


 リアは驚きで瞬きをする。「そんなこと無いよ」と伝えるかのように、首を横に振った。


 でも、言葉が出ない。

 するとアレンがぽつりと呟く。


「僕は……ただのアレンでいたい」


 大切なものを、こぼしてしまったみたいに、自分の手のひらを見つめていた。


 きっとそれが彼の本心。

 彼は本当は嘘をつけない人なんだ。


 リアの肩から力が抜け、詰まっていた声が溢れ出てきた。もう呼べないはずの名前。


 宝物を拾い上げるみたいに、もう一度その名前を呼んだ。


「アレン……」


「私も、今までのアレンと一緒にいたい。あの町で……いつもみたいに会いたい」


 すると彼は、悲しそうな顔をやめて、子供のような笑顔を見せてくれた。


「リア、ありがとう」


 その一言に、リアも子供みたいに笑った。

 まるで、彼との始まりを上書きするかのように。


 * * *


「き、緊張しちゃった……」

「大丈夫。君は君のままでいていいんだよ」


 アレンの優しさに心が温かくなった。


 歩くのと同時に、抑えきれないほどの嬉しさが込み上げる。


「もしかして私だけ知ってるの?」

「子供たち以外は……気付いてるんじゃないかな。特に、年配の人は勘がいいから」

「え……?」


 自分だけ知らなかったことに驚く。


「あはは。だから、町の子供たちには秘密にしてくれると嬉しい。できるよね?」


 そう言って彼は同じ視線まで屈んでくれた。その距離に安心して、リアはほっと笑った。


 ---


 会場に戻ると、演奏が響いていた。主催者によるファーストダンスが始まったようだった。


「僕たちもあとで踊るかい?」

「……私、踊れないわよ」


 すると蒼い煌めきが広がり、リアの足元が、アレンの魔法でふわりと浮いた。


「次は特別な回なんだ」

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