第15話 幼馴染
アレンの足元が響くたびに周囲の視線を感じ、少し緊張した。
外の暗い景色と明るい会場。その中間の通路へとやってきた。目の前にはライトアップされた綺麗な庭園が広がっている。
甘い花の香りが漂うのと同時に、アレンがゆっくり手を離す。
「……っ」
指先が急に冷えていく。彼が俯いた瞬間、リアは怖くなり木のそばへ身を隠した。
けれど……アレンはその後を追ってくる。
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雲が月明かりを隠す。まるで、今の彼女の気持ちを現すように。
リアはすかさず頭を下げ、ドレスの裾を握った。
「わ、わたし……」
声が引き攣る。
「今まで普通にお話してしまって……。殿下に……何度も失礼なことを……っ」
言葉遣いも、態度も、抱擁も、すべて思い出してしまう。立場をわきまえなければ。
もうアレンとは呼んではいけない。
「大変、申し訳ありませんでした……」
視界が落ちて、自分の足元しか見えなくなった。リアは、平民。しかも魔力を持っていない。
本来なら、同じ場所に立つことすら許されない相手。この場で出会うこともなかった。
(私……どうして気付かなかったの?)
第三殿下の名前には『アレン』が一部入ってる。長すぎるフルネームの一部に。それだけで分かるわけない。
深く頭を下げたまま、動けなくなった。
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教会でした約束も、町で過ごした日々も、お祭りの記憶も――全部、夢だったんだ。
(……じゃあ、私は何を信じてたの?)
アレンともう、会えなくなる。
それは、嫌だ。
だけど……
「顔を上げて」
優しい声が聞こえた。顔を上げるか躊躇した。
勇気を出して、リアはそっと顔を上げる。現実を見たくなくて――片目だけ開いた。
「リア、頼むからそんな顔をしないで」
アレンは……悲しそうな顔をしていた。昔。一年ぶりに再会した時の、あの時の顔だ。
「個室でも頼めばよかった……。 いつかは君に話そうと思っていたんだ。君が他の形で知って傷つく前に」
それは低く、柔らかい声だった。
その言葉でリアも両目をぱちりと開けた。
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風とともに高貴な香りが広がる。知らない香り。だけど目の前にいるのは間違いなくアレン。
「あの町で過ごす時間が、いつの間にか僕の中で当たり前になっていた。君と出会えて……あの時間に救われていたから」
彼は少し俯き、声が小さくなる。
「だけど、君が成長するにつれて、ずっと引っかかっていたんだ。嘘を……つき続けていたから」
「ずっと謝りたかった。嘘をついていて、ごめん」
リアは驚きで瞬きをする。「そんなこと無いよ」と伝えるかのように、首を横に振った。
でも、言葉が出ない。
するとアレンがぽつりと呟く。
「僕は……ただのアレンでいたい」
大切なものを、こぼしてしまったみたいに、自分の手のひらを見つめていた。
きっとそれが彼の本心。
彼は本当は嘘をつけない人なんだ。
リアの肩から力が抜け、詰まっていた声が溢れ出てきた。もう呼べないはずの名前。
宝物を拾い上げるみたいに、もう一度その名前を呼んだ。
「アレン……」
「私も、今までのアレンと一緒にいたい。あの町で……いつもみたいに会いたい」
すると彼は、悲しそうな顔をやめて、子供のような笑顔を見せてくれた。
「リア、ありがとう」
その一言に、リアも子供みたいに笑った。
まるで、彼との始まりを上書きするかのように。
* * *
「き、緊張しちゃった……」
「大丈夫。君は君のままでいていいんだよ」
アレンの優しさに心が温かくなった。
歩くのと同時に、抑えきれないほどの嬉しさが込み上げる。
「もしかして私だけ知ってるの?」
「子供たち以外は……気付いてるんじゃないかな。特に、年配の人は勘がいいから」
「え……?」
自分だけ知らなかったことに驚く。
「あはは。だから、町の子供たちには秘密にしてくれると嬉しい。できるよね?」
そう言って彼は同じ視線まで屈んでくれた。その距離に安心して、リアはほっと笑った。
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会場に戻ると、演奏が響いていた。主催者によるファーストダンスが始まったようだった。
「僕たちもあとで踊るかい?」
「……私、踊れないわよ」
すると蒼い煌めきが広がり、リアの足元が、アレンの魔法でふわりと浮いた。
「次は特別な回なんだ」




